第19話 プルーハザード
「なんだ、やっぱりグレイは悪者だったんじゃん」
「違うんですよ〜。
ああ〜、だから、いいたくなかったんですよ。
グレイのイメージがさらに悪くなるから…」
チビ蔵が頭をかかえました。
「グレイはグレイでも、アレはボクらホワイトとは別物なんです。
アレは、ブルー……
──『ブルーグレイ』」
“ブルーグレイ”……
「やっぱりグレイなんじゃん」
「ブルーグレイは、ボクらホワイトから発生した突然変異種…つまり“ミュータント”です。
元をたどれば同じであっても、ボクらとはまたく違う生態を持ちます」
チビ蔵くん、いわく。
あるとき、ある場所で。
ある妊婦が、“水だけ”を出産したそうです。
最初は、流産かと思った。
でも、違いました。
水は、動いて、“生きて”いたのです。
“体液だけ“で構成された、異形の生物……
それが、『ブルーグレイ』……
その、はじまりのときでした。
不思議なことに、同時期、世界各地で、同様の赤ん坊(?)が産まれたそうです。
突然変異は、重なるモノなのでしょうか。
彼らは、おそるべき能力を持っていました。
彼らは、人に“寄生”します。
そして、宿主のカラダを作り変えます。
身体能力が飛躍的に上がり、禍々しい爪が生えたり、あまつさえ溶解ブレスを吐いたりなど、怪物的なチカラを与えるのです。
そして彼らは最終的に、宿主の“脳”を捕食してしまいます。
その情報を元に、新たなるブルーグレイを生み出すのです。
宿主の姿と記憶を持った、転生体ともいうべき、おぞましき“ブルー”を……
彼らは、“単一生殖”が可能なのです。
彼らは、どんどん人に寄生し、喰らい、生殖して、爆発的に数を増やしていきました。
ホワイトグレイは、正しく滅びの危機に瀕したそうです。
自分たちを喰らい、無限に増えていくブルーは倒さなければならない。
しかし、誰がブルーなのか、どうしてもわからないのです。
わかっても、ブルーに寄生された人間は強い。
駆除は困難をきわめました。
結果的には、ホワイトの総力をあげた研究で、ブルーの出す特定の波動を察知できるレーダーを開発し、それでブルーを宇宙へと放逐できたそうです。
しかし、ホワイトグレイの受けた被害は甚大…
文明レベルが100年後退したほどだそうです。
一連の事件は、『ブルーハザード』と呼ばれ、人類史上最悪クラスの大災害として、歴史の教科書なんかでも大きく扱われているとか…
「と、このように。
ブルーグレイはたしかにグレイではあるんですが、ボクらホワイトと仲間とかそういうのじゃまったくないんです。
むしろ“天敵”です。ボクらは、ヤツらに滅ぼされかけたんですからね」
「ふーん」
「いや、過去形じゃないですね。
ブルーは滅びたワケでもなし、今でもボクらを滅ぼそうとしています。
ヤツらにいわせると、ボクらは進化に置いていかれた劣等生物らしいですからね。
ボクらとしても、あのようなおぞましいクリーチャーが宇宙に存在するのを許してはおけません。
お互いが相手を滅ぼすまで戦いをやめられない、不倶戴天の敵どうしなんですよ、ボクらは」
大変だなあ。
「近親憎悪というやつかな?」
「…そういうことなんでしょうね。
生き物は自分とまったく違う存在を憎むんじゃないんです。
自分と基本的に同じでありながら、しかし何かが違う存在をこそ憎むんです。
ヤツらを見ていると、なにか、そういうことを痛感しますよ」
そうですね。それはわかります。
わたしはチビ蔵くんのグレイ姿をみて、珍妙な姿だなあとは思いますが、別に嫌悪感だとか憎しみだとかは感じません。
わたしたち地球人が何よりキライなのは、結局、同じ地球人なんですからね。
「…ブルーを滅ぼす。
それは、ボクらホワイトの大きな欲求のひとつです。
だから、そのための“仕事”も存在するんですよ。
──『ブルーハンター』。
ブルーグレイを狩ることを生業とする職業です。
そしてボクは、ブルーハンター……の、見習いなんですね」
ははあ、話がつながってきました。
「チビ蔵くんは、ブルーグレイである“かたつむり”を追いかけてきたワケね」
「そうですね。といってもボクひとりじゃないですが。
ボクが所属しているハンターチームは、この地球に近い宙域で、ヤツ…“かたつむり”と交戦したんです。
ブルーとは戦いなれているボクらなんですが、“かたつむり”は…ケタ外れの化け物でした。
本当に…あんなのが存在したなんて、今でも信じられない」
ブルーグレイは、本来、グレイだけあってそんなに大きくはないそうです。
一般的なホワイトグレイと同じくらいか、むしろ小さいくらい。地球人の小学生サイズと考えればわかりやすいでしょう。
寄生するのも一度にひとりが限界ですし、寄生していない状態では戦闘力はないに等しいようなモノです。
ブルーグレイ単体ではそこまで恐ろしくはない。彼らの恐ろしさは、その増殖力によるのです。
しかし、“かたつむり”は違いました。
通常からは考えられないほどの巨体をもち、寄生せずともおそるべき戦闘力をもちます。
また、ブルーグレイの本懐である寄生能力においても卓越しており、一度に数百、数千の人間に寄生することすら可能とするとか。
他にもどのような能力をもっているのかはかりしれません。
「こういう巨大ブルーグレイ自体は他にも確認されているんです。まれな存在ではありますがね。
ボクらはそれを『キング・ブルー』と呼んでいます。
ブルーグレイの親玉…というか、さらに変異種的な存在ですね。
しかし、キングにしても…“かたつむり”は、あまりに巨大で、強大すぎる。
ボク自身みたことなかったのはもちろん、あんなのはどんな記録でも確認されていませんよ」
チビ蔵くん達は、当初、相手を“キング”だと考えていたそうです。
キングを倒すのは容易なことではありませんし、彼らチームとしても一世一代の大仕事です。
いつになく入念に準備し、武装を揃え、戦いにのぞんだそうなのですが。
しかし、相手は想定以上の化け物で。
結果、チビ蔵くん一人を残して、彼らは全員戦死してしまったそうです。
「でも、倒せたと思っていたんてす!!
犠牲はあまりに大きかったけど…
なんとか、ボクらのUFOの主砲である『恒星破壊ビーム』を当てることはできた。
ヤツは、地球に落ちていきました。倒せたハズだったんだ…
まさか……『恒星破壊ビーム』をくらって、生きていたなんて……」
恒星破壊ビームとは、またとんでもなさげなモノがでてきましたね。
彼らはそのままの名前をつけるのが趣味だそうなので、実際、名前そのままの威力をもつのでしょう。
「ヤツとの戦いで、UFOも大破して…
ボクも、地球に不時着したんです。
生きて、地球の土を踏めたのはボクだけでした。他の仲間は、みな……
UFOも壊れ方がひどくて、別にエンジニアでもないボクに直せる状態ではありませんでした。
それで、みんなのお墓をつくって、ボクは地球人として生活することにしたんです。
みんな死んじゃったし、帰る方法もないし、地球に骨をうずめるのも悪くないかなって、そう思っていました」
なるほど、彼の家がバラック小屋だったのはそういうことだったんですね。
ある日、“突然やってきた”から。
「隣のクラスの子が好きになって、勇気だして告白して、いよいよボクの新しい青春がはじまるんだーってね。エヘヘ。
あの忌まわしい化け物のことも、仲間を失った悲しみも、ようやく忘れられそうなところだったんです。
それが……」
「ルト子というワケね」
「ええ、ルト子さんの中にヤツの反応があったとき、ボクは戦慄しましたね。
まさか、ヤツが生きていたとはと。
それで、ボクは……」
「ハンターとしての使命のため、仲間のカタキを討つために立ちあがったというワケね」
主人公っぽいハナシですねえ。
「………」
チビ蔵くんが黙りました。
「……いえ……違うんです………」
んん?
「ボクは………ボクは…………」
いきなり、チビ蔵くんがわたしの両手をガシッと握ってきました。
「モブ子さん…!!!」
そのグレイ顔をわたしに近づけます。
「“かけおち”しましょう…!!!!」
はい?




