第1話 モブ子は何もしない
わたしはモブ子。
全てにおいて平均点な女子高生です。
突然ですが、我がクラスでは“異常事態”がありました。
ルト子ちゃんが真面目に授業を受けているのです。
ルト子ちゃんはもっさりヘアーに趣味を疑う赤メガネの典型的オタスタイル。
三度の飯よりオカルトに命を賭けているダメな女の子で、授業中に居眠りして夢の世界に旅立たないなどありえません。
彼女に何があったのでしょうか?
そういえば、昨日───
「モブ子ちゃんモブ子ちゃん」
「何?」
「グレイ森に怪しい洋館があって、そこに“とてつもない化け物”がいるんだって!」
「だから?」
「行こう!!」
「断る」
「しゃあない、あたし一人で行くわ」
彼女は一人でグレイ森に行き、何か事件に巻き込まれたのでしょうか?
グレイ森に潜むモノとは、一体───
しかしわたしには関係ないことです。
なぜならわたしは、全てにおいて平均点な女──
常に“脇役”でいる。それがわたしの在り方なのです。
おかしなことに首を突っ込むなどありえません。
まあ彼女にも思うところがあったのでしょう。
今のままでは将来社会のダニ以下のメス粗大ゴミとなることは必至──
その事実に気づき、心を入れ替えて勉強を始めたのでしょう。
素晴らしいことではないですか。
ルト子ちゃんの新しい人生に、祝福を!
── 完 ──
と、言いたいところですが、ルト子ちゃんが話しかけてきました。
「モブ子ちゃん」
「何?」
「あたしの家に遊びにこない?」
「断る」
ルト子ちゃんの家といえばオカルトグッズであふれたマニア垂涎の魔窟です。
しかしマニアでないわたしにとってはゴミ溜め同然。いっさい興味ありません。
「そんなこと言わないで。あたし引っ越したのよ」
「へえ」
初耳です。
「モブ子ちゃんにあたしの新しいお家を見せたいの。きてくれるよね?」
「断る」
新しい家なんて気を遣うだけじゃないですか。
わたしは面倒ごとは避けるのです。脇役なので。
「モブ子ちゃんに見せたいの」
「じゃあ写真でも持ってくれば?」
「………。そういえばモブ子ちゃんはそういう人だったよね」
何をいまさら。
「なになに〜、ルト子引っ越したのォ〜」
ジェシカとその一派が現れました。
ジェシカはクラス1ナンパなギャルで、ルト子とは別の意味でダメな女です。
ギンギンに染めた毒蛇のような金髪に時代錯誤としか思えないガングロ。ケバケバしい化粧。
ギャルとはこういうモノだ!!と全身で叫んでいるような女です。
しかしこういう女ほど案外シレッと更生して専業主婦の座に収まりそうな気もします。
ちなみに普通に日本人です。
「じゃあアソびに行こっかなァ〜」
「うん、ぜひ来て!!」
ルト子ちゃんが満面の笑顔で言いました。
たしか、ジェシカのようなリア充女はこの世で一番嫌いだと、毎晩丑の刻参りをしていた気がしましたが…
まあ改心したようですからね。
ガマンしてクソギャル女とも仲良くすることにしたのでしょう。
素晴らしいことです。
ルト子ちゃんの新しい交友関係に、祝福を!
次の日。
そこには真面目に机に向かい、授業を受けているジェシカの姿がありました。
めずらしいことです。
ジェシカは“ミス・0点”、“留年率100%の女”の異名をとる学年最下位の常連です。
その彼女が真面目に勉強しているとは…
今日は大震災ですかね。
ジェシカだけでなく、その一派も真面目に授業を受けているようです。
昨日に引き続き、ルト子ちゃんも。
その姿をみているうち、わたしの中にある“思い”が湧き上がってきました。
やっぱり学生の本分は勉強だよなあ〜。
わたしも頑張ってみるか!
ルト子ちゃん、ジェシカ。
アナタ達のおかげで、わたしもちょっとヤル気が出てきた。
ありがとう!!
「モブ子ちゃん」
「ん?」
ルト子ちゃんが話しかけてきました。
「あたしの家に遊びにきて」
しつこいですね…
「ルト子ン家はスゴいんだ! 天国だ!! 一緒にいこう!!!」
ジェシカが目をカッと見開いて力説します。
彼女もオカルトマニアになってしまったのでしょうか?
「モブ子ちゃんにきてほしいの」
もしかしてこの人たち、毎日誘ってくる気でしょうか?
それはそれでめんどくさいですね。
サッサと行って切り上げてくる方がいいかもしれません。
「わかった。行く」
「ありがとう、モブ子ちゃん!!」
ルト子ちゃんがわたしの手を握ってきました。
「これでモブ子も“仲間”だね!!」
ルト子ちゃんとジェシカの目がギラリと光ったような気がしました。
この人たち、そんなにわたしと遊びたいんでしょうか?
正直わたしは、この人たちに友情とかいっさい感じてないですが…
まあ悪い気はしませんね。