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第18話 そいつは、グレイ

「モブ子さんは……やらせない……!!」


 グレイとしての姿を現したチビ蔵くん(?)が、熱線銃をかまえてうめきます。

この姿で普通に日本語しゃべってるとなかなかシュールではありますね。


「グッ……グレイ……ホントに……?」


 こころなしか、ルト子の目がかがやいています。

変わり果てても、オカルトマニアとしての血はまだ健在だったようですね。少し安心しました。


 しかし、それどころではありませんでした。熱線銃がさらに閃きます。


「うぎッ!!!?」


 さらに、ルト子の体から血が飛びます

…血?


 そう、血です。彼女の体には、普通に血肉があります。


 わたしはてっきり、ルト子もジェシカ同様、水の化け物になっているのかと思っていました。

ルト子はジェシカより上位の手下っぽいですし、イメージ的に。


 でも、どうやら違ったようです。

彼女にはまだ、ちゃんと血のかよった肉体がある。


 ルト子はまだ、“人間”? ということなのでしょうか。

ギリギリのところではありますが。


 それならば───


「化け物め!! トドメだ!!!」


 チビ蔵くんが自分の姿を棚に上げすぎたセリフをさけび、ルト子の頭に銃口を向けます。


 そして、1兆度の熱線が発射され、ルト子を完全に焼き尽くし──ませんでした。

その前に、立ちはだかった者がいたからです。


 “わたし”です。

 

 ルト子をかばうように──


「モッ、モブ子さん…!!?

何をしてるんですか!!? どいてください!!!

そいつは今、モブ子さんを殺そうとしたんですよ!!? 今だって…!!!」


「どかない」


 ルト子が、まだ“人間”だというのなら。

まだ、戻れる可能性があるのなら。


「わたしの親友は、死なせない」


「………!!」


 チビ蔵くんが目を見開いた──ようにみえました。

いや、グレイなんで表情はよくわからないんですが。


 ──獣のような嗤い声


 わたしの両肩が、後ろからガシリとつかまれました。

ルト子の裂けた口から吐きだされた生臭い吐息が、わたしの首にかかります。


「ギギギ……モブ子…アンタ、けっこうバカだったのねェ…

あたしはアンタなんかを友達だと思ったことないけど、まあ、バカがバカやってんならせいぜい利用させてもらうわ…」


 ルト子はわたしを盾にするつもりのようです。


「そう。わたしは親友だと思ってるけど」


 ルト子がギョロリと目をむきました。


「それがバカな一方通行だって言ってんのよ!!!!

あたしはアンタなんか大ッ嫌いなの!!!!」


「わたしは大好きだけど」


「………〜ッッ!!!!」


 ルト子の恐竜のように尖った爪がわたしの肩に突き刺さりました。

血がドクドクとあふれでます。


「痛いでしょーが…!!!

あたしはアンタを殺そうとしてんのよ。

怖がりなさいよ!!!!」


「怖くないよ。

アンタがいなくなる方がもっと怖いから。

だから全然へいき」


「キサマ…!!」


「わたしのことがキライだったんだね。

まあ、わたし上から目線だったもんね。仕方ないね。少し残念だけど。

でも、わたしはアンタが好きだったらしいことに気づいちゃったから。

だから、好きになってもらえるように努力しようと思って」


「………」


「また、アンタのくだらないオカルト話をきかせてよ。

ききたいんだ。

“かたつむり”のこととか、なんかグレイまで出てきたし、いろいろネタはあるでしょ?

今なら、前より優しくきける気がする」


「ぐッ……」


「アンタの話が、ききたいんだ」


「……うッ、うるさい……うるさい、うるさいッ!!!!

アンタは人質にしてやるつもりだったけど、うるさすぎるんで気がかわったわ…!!

ここで殺してやるッ!!!!」


 ルト子が口を開けました。

まあ、こんな至近距離で硫酸水を撃たれたら、わたしの頭はなくなるでしょうか。


「モブ子さんッ!!!!」


 チビ蔵くん(?)が悲壮な声をあげます。


「シね!!!!!」


 ルト子の口から、青い水があふれでて──


 そのまま、逆流していきました。


「ゲ…ゲフッ……ゲボッ…ゴホッ……!」


 ルト子が両手を床につき、激しくむせっています。

まあ、イメージ的には吐こうとしたゲロをのみこんだようなモノでしょうか。

そりゃ気持ちわるくもなるでしょう。


「ウグッ……ア……あああああ………」


 ………


「ああああああああああああーーーーーッッ!!!!!!!」


 そのまま駆けだし、館の玄関を抜けて、人間とは思えない速度で走り去ってしまいました。


 ……………


 ………





「ふーッ、どうやら、ひと段落ついたようですね」


 チビ蔵くん(?)が銃を下ろします。

いや、あまりついてないですけどね、キミの姿的に。


「モブ子さん!! 大丈夫ですか!!?」


 むしろキミが大丈夫か。


「ていうかキミはなんだ」


「え? …あ、あわわわわ」


 チビ蔵くん(?)が自分のつるりとした顔をさわってあわてだします。

ようやく自分の状況に気づいたようですね。


「い、いや…これはその…マスクなんですよ! グレイの…

おもしろいでしょ?」


「マスクの下にマスクをしているの?」


 今おもえば、あのチビ蔵くんの顔は“マスク”だったんでしょうね。

あの硫酸水をくらったとき、マスクだけが溶けた──

実はマスクだったからこそ、“中身”が無事だったともいえるでしょう。


「い、いや、それはそのー……」


 チビ蔵くんはしばし目をおよがせて。

それから、意を決したようにわたしをみました。


「…すいません!!!

実はボク、未来人じゃないんです!!!」


「まあ、みればわかるけど」


「ボクは……

『ホワイトグレイ』、なんです……」


 グレイというのは思ったとおりだけれど。


「ホワイト?」


「あ、それはグレイの種類ですね。

グレイは歴史の長い種族ですから、いくつもの全然見た目や生態の違う“人種”があって。

ホワイトグレイはそのうちのひとつですね」


「ふむ」


「グレイ種については説明する必要はなさそうですね」


「人に化け、社会に入りこみ侵略する異星人だとか」


「いやいやいや。

侵略なんてとんでもない!!」


「実際化けてんじゃん」


「誤解なんですよ〜。

たしかにグレイはけっこう地球人類の中に入りこんでますが、別に侵略とかたいそうな意図はないです。

『異世界体験』なんですよ」


「異世界体験?」


「地球でもあるじゃないですか? 異世界転生やら転移やら。

クソつまらない日常に疲れて、異世界で思いっきり羽をのばしてみたいなあ〜ってのは、この宇宙に生きる知的生物すべての願望でしてね。

ボクらグレイにも、もちろんそういう人がたくさんいます。

特に、底辺のサラリーマンやらフリーターなんかにはね」


 どこの世界も、社会は世知辛いようですね。


「そういう人たちに人気なのが、『異世界体験ツアー』なんですよ。

別世界の人間になって、まったく別の生活を体験してみようっていう、まさに夢のようなツアーです。

まあ、さすがに値段はそれなりにするんですが、みんな夢のツアーめざしてガンバって貯金ためてますね。

で、地球は、ツアー先として特に人気があるモノのひとつなんです」


 なんと、たびたび地球で目撃され、人類を恐怖に駆りたててきたグレイ達の正体は、単なる妙なツアーの旅行客でした。


「どうして地球が人気なの?」


「ボクらとあまり生態が変わらないからですね。

いや、異世界体験とはいっても、あんまり生態が違いすぎると大変なんですよ。

この宇宙には鉄を食う種族やら、まったく眠らない種族やらもいますが、そんな奴らの中に混じれといわれても困るでしょ?」


 まあ、鉄は食いたくないですね。


「その点、地球人はボクらと食うモノは変わらないし、睡眠周期も似たようなモノだし、生殖手段も同じだし、寿命も同程度だ。

ボクらホワイトグレイと地球人は、“同タイプ”の生物なんですよ。

まあ、見た目はずいぶん違いますが、そこさえクリアすれば難なくなじめる。

だから、ツアー先としては最適なんですね」


「なるほど」


 どうやらグレイは別に悪い奴らではなさそうですね。

まあ、チビ蔵くんのいっていることが本当ならですが。


「それはわかったけど。

さっき、わたしはキミに何者なのか教えてっていったよね?

どうしてそのときに言ってくれなかったの?

隠し事をする輩はキライだっていったよね?」


「そ、それは……

さっきもいったとおり、“イメージ”の問題なんですよ…」


「イメージ?」


「ボクは、この地球でいろいろとマンガやらオカルト雑誌やらをみて、戦慄しましたね。

なんかグレイのことがけっこう出てくるんですが、その役回りといえば、なぜか“悪役”ばっかりじゃないですか!!!」


 あー。


「その、“人に化け、社会に入りこんで侵略する異星人”ってやつ!

その根も葉もない悪評こそが、地球人のグレイに対するイメージなんだ〜。

だからグレイだってことはいいたくなかったんですよ!

いったらぜったい悪者よばわりされて嫌われると思ったから…」


 なるほどね。

まあ、気持ちはわかりますが。


「ちゃんと言ってほしかったなあ。

別に嫌ったりしないのに」


「ゴメンなさい……

好きな女性の前ではつい臆病になっちゃって……」


「まあいいでしょ。

もう隠し事はしないように」


 好きな女性とかいわれていい気になりました。

わたしも結構単純ですね。

上手くごまかされた気がしないでもないですが気にしないでおきましょう。


「で、チビ蔵くんもその妙なツアーで来たワケだ」


「いや、ボクは…いや、まあ、そうですね」


 なんですか、この煮えきらない答えは。

隠し事をするなといった矢先からまだ隠し事をしているようですね、彼は。

しょうもない人です。告白をことわって正解でした。


「チビ蔵くん、わたしはキミが嫌いだから」


「え!!?」


「別にグレイだからとか関係なく、キミがわたしのいうことを理解してくれないバカのようだから。

でも、キミがわたしを好きというのが本当で、わたしに少しでも好かれたいと思っているのなら、マジメに答えてね」


「………」


「キミはどうして地球にきたの?」


「………」


「今まで口走ってたことから考えると、“かたつむり”と関係あるんでしょう?」


「………」


「あの、“かたつむり”というのは………

なんなの?」


「………

それは………」


 チビ蔵くんが、目をそらして。

わたしの方をおびえるように見て、ギュッと目をつむって。

──それから意を決したように、目をひらきました(グレイの表情わかるようになってきた)


「わかりました……言います。

そうですよね…隠すようなことじゃない」


 チビ蔵くんが、息を吐きました。


「ヤツの……“かたつむり”の正体は………」


 ……… 



「『グレイ』です」



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