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第16話 勇気と突入と死と

「チビ蔵くん!! しっかりして!!!」


 わたしはチビ蔵くんの体をゆさぶります。


「むにゃ」


 チビ蔵くんが目を覚ましました。


「…あれ、モブ子さん。おはようございます」


 どうやら寝ていただけのようです。

彼はわたしをハラハラさせるのが趣味なのでしょうか。


「そんなことないですよ!!」


 どうやら口に出てしまっていたようです。


「…で、いったいどういう了見で、こんなところで居眠りしていたの?」


「あー、それはですね。いざ館に踏み込もうとしたらなんだか怖くなって、様子をうかがってみようと横の方に回りこんで、やっぱり真正面から入るのはグワーッと何か出てきそうで怖いよなあ、他にやり方ないかなあ、とか色々かんがえているうちに寝てしまいました」


 のんきな人ですねえ。


「キミには戦士の才能がない」


「うう…言い返す術もない」


 いや、戦場においては緊張感から寝不足に苦しむ人が多いとききます。

堂々と眠りこけられる彼は、ある意味、才能はあるのかもしれません。


「モブ子さんはどうしてここに?」


「あー、それは」


 わたしは照れ屋さんなので「キミを助けにきたよ!」とか素直にいいたくない人なんですが、だからといってちょっと散歩にとかは無理ありすぎですしねえ。


「ま、まあ、サポートくらいはしてあげないと寝覚めが悪いかなって」


「そうですか!! 正直、助かります!!

ゲニーズではカッコつけてましたが、いざ館を前にしたらボクのなけなしの勇気は一気にしぼんでしまいましてねえ。

やっぱり一人じゃ絶対ムリだ、逃げようと思っていたところです」


 どうやら彼はあまり主人公的な人ではなかったようです。来て正解でした。


「でも、モブ子さんがいてくれれば二人力です!! まだぜんぜん怖いですが、なんとか館に踏み込むくらいはできそうですよ!」


 いや、そりゃ二人いるんだから二人力でしょうけど。こういうときは百人力っていうもんじゃ。


 まあ彼のやけに率直なところは嫌いではないかもしれません。


「じゃあ、いこう」


「いきましょう!」




 そういうワケで、わたし達は玄関の前に立ちました。


 さっきお昼寝したので、目はこれ以上ないほど冴えています。

のんきに居眠りしていたチビ蔵くんも同様でしょう。


 コンディションは最高潮──

結果的には、これでよかったのかもしれません。睡眠って大切です。


 扉をガタンガタンしてみます。

やっぱり鍵がかかっているようです。


「ここ、開かないんだよね」


「ブッ壊しましょう!!」


 二人であることと、しっかり睡眠をとったことがチビ蔵くんを強気にさせているようです。

それが吉とでるか凶とでるか──


 人間、群れるとおどろくほど強気になるモノです。

それはわたしのようなぼっち的存在でさえ例外ではありません。


 わたしは、群れていきがっている連中をバカだと思っています。

でも、それはわたしも同じなんです。

今、チビ蔵くんが隣にいてくれて心強いと思っています。


 わたしはぼっちで十分とかいいつつ、ルト子が隣にいてくれなくなった最近はずいぶん不安定だった気もします。認めたくはないですが。


 人間って、複雑ですね。


「てりゃー」


 チビ蔵くんが間の抜けたかけ声とともに扉を蹴破ろうとしています。

あー、これは強気が過ぎてちょっと危険信号かも。


「待って待って。そんなことしたらこれから侵入しますといってるようなモンでしょ」


 まあ、わたしもさっき蹴破ろうとしてましたけど。


「侵入しようとしてるじゃないですか」


「侵入はコソコソやらんと」


「そうですかね」


「通り抜けフープみたいなのはない?」


「ボクはネコ型ロボットじゃないですよ」


「使えないなあ」


 なら、しかたない。


 わたしは、館の中に入り、扉の鍵を開けて、戻ってきました。


「これで進めるでしょ」


「アレッ? 今、サラリと何かトンでもないことしませんでした?」


「なんのこと?」


「ウーン…まあいいか。

いきましょう!」


 チビ蔵くんが先に突入し、ついでわたしも入りました。

扉のあった場所を抜けた瞬間、ヒヤッと空気が変わった気もします。


 チビ蔵くんが立ち止まっています。

館内の空気にふれた瞬間、強気がしぼんで冷静になったんでしょう。

彼の勇気は風船のようなモノですね。


「さ、さああいきますよ!

ボクの背についてきて!」


 声がふるえてますよ。


 さて、行く手には何が待ち受けているのか───


 いってみましょう。




 玄関を抜けると、そこは広間になっていました。


 ちょっとしたホテルのフロントみたいなモノですね。

吹き抜けになっているようで、天井がはるか上の方にみえます。


 前方には螺旋階段。

グワッと円を描いて、二階に向かっているようで、実はカッコいいです。

ちょっとしたお城みたいですね。


 左右は廊下につながっていて、その先に各部屋が並んでいるようです。


 色合いは全体に藍色で統一されていて、外観同様、シックな感じですね。 

決して豪華な雰囲気ではないです。


 広間はうっすらとした暗闇に満たされています。

といっても夕方ということもあって、まわりが見える程度の明るさはありますが。


 螺旋階段の踊り場にある大窓から薄いオレンジ色の光が差し込んでいて、それが大きな役割を果たしているようです。


 

 さて、ここまで説明すればお気づきかもしれませんが。


 あまり、“モンスターハウス”という感じではないですね。


 いや、この館は“動く”んですよ?

だから、もっとすごいおどろおどろしい感じを想像していました。

いきなり怪生物が襲いかかってくるかとも思ってました。


 でも、まったくそういうことはなく。

いたって普通の屋敷です。住んでもいいくらいですね。


 正直、拍子抜けです。


 チビ蔵くんも、とまどっているようですが。


「ウーン…いや、これは“ワナ”かもしれない!

なんでもないと思わせて、いきなり襲いかかってくる気なんだ」


「そうかもしれないけど」


「油断しないで!!」


「してないけど」


 とりあえず、館の中を見てまわってみることにしました。


 まずは、右の廊下の方をみてみます。


 思ったとおり、両側にズラリと部屋が並んでいるようですね。

これを全部見てまわるのは大変そうです。


「これ全部見るの?」


「いや、その必要はないでしょう。

“ヤツ”は相当、体が大きいハズなんです。

部屋ひとつに引きこもっているなんてありえない。入りきらないですよ」


 まあ、館まるごと動かすようなヤツですからね。


 では、大ざっぱに見てまわればそのうち見つかるでしょう。

次は左の廊下を見てみましょう。


 そう思って、広間を横切っていた、そのとき。



 “音”がきこえました。



 ガチャン、ガチャンと鍵を開けるような音。

玄関の方です。


 ──誰か入ってくる!!?


「モブ子さん!」


 わたし達は螺旋階段の裏にあるスペースに隠れました。

ここなら玄関からはみえないハズです。


 扉が開きます。

入ってきたのは───


 『ルト子』でした。


 ルト子はキョロキョロとあたりを見まわしています。


「ミズガミ様ー? いないんですかー?

…また町に行っているのかな」


 …“町”?


「せっかく“食料”をお持ちしたのに」


 ルト子のあとからは、ゾロゾロと男たちがついてきます。

10人くらいでしょうか。年齢は10〜20代くらい? 全体的に若い感じです。

そして揃いもそろって目つきがおかしいですね。ほぼ白目をむいている感じで、正面をみていません。あれで前が見えるんでしょうか。


 よくみると、男たちの中にはハヤト君も混じっていますね。

例にもれず、彼も白目をむいていてヤバい感じです。


「いないんなら…“つまみ喰い”しちゃおっかな?」


 ルト子が舌なめずりをして、男たちの中にひとりに絡みつき、口に吸いつきました。


 すると、どうでしょう。

見る間に、男の体が“ゴキュッゴキュッ”としわがれていくではないですか。


(モブ子さん)


 チビ蔵くんが小声で話しかけてきます。


(彼女、つかまえましょう)


(え?)


(チャンスですよ。“ヤツ”の話を聞きだす。

さっき言ってた、“また町に”ってのも気になります)


(それはわたしも気になるけど。

…うん、つかまえようか。でもどうするの?)


(ボクにはこれがあります!)


 チビ蔵くんは、熱線銃とは別の、石造りのような小型の銃を取りだしました。


(『30分石化するガン』!!)


 またそのままですねえ。


(たー)


 チビ蔵くんは石化ガンをかまえ、ルト子に向かって発射しました。


「うッ!?」


 ビクリと体をふるわせ、ルト子が男から離れます。

そのまま、見る間に動きがにぶっていき、立ったまま、ピクリとも動かなくなりました。


「やった!!

どうです、ボクの腕前は!」


 チビ蔵くんが飛びだしました。


「まるで弁慶の立ち往生ね…」


 わたしもルト子の前に出ていきます。


 わたし達の姿をみて、ルト子がギョロリと目をむきました。


「モ…モブ子ッ……チビ蔵ッ……キサマらッ……」


 あれ? どうやら顔は動くようですね。


「口まで固めたら、話を聞きだせないじゃないですか。

だからそう調整しました」


 ずいぶん融通のきく道具ですね。

これが未来パワーでしょうか。


「ミズガミ様の……ジャマをする愚物同士……手を組んだというワケッ……」


「あんなよくわからないのの手先になってるバカほど、愚かではないと思うけどね」


「〜〜〜〜ッ……!!!」


 わたしのことを憎々しげににらんでいたルト子でしたが。

──ふと、様子が変わります。


「ッ……モ、モブ子……」


 …ルト子?


 なんでしょう、このやぼったくてバカそうな喋り方。

前までの“ルト子”のような?


「あたし……“アイツ”ら操られてるの……助けて……」


「………」


「伝えたいことがあるの……近くにきて……」


「………」


 わたしは、ルト子のそばによりました。


「話したいことって何?」


「それは………」


 ルト子の口が。



 耳元まで裂けて。

“がぱっ”とひらきました。



「死んで」


「モブ子さん!!!!!」


 ルト子のトカゲのようにひらいた口から、滝のように“青い水”が吐きだされます。


 あれは……ジェシカの“超硫酸水”と同じ……


 そして、それを───


 わたしを突きとばしたチビ蔵くんが、頭からひっかぶりました。


「グワア〜〜」


 チビ蔵くんの、目が、鼻が、耳が、口が。



 “どろりと”溶けて、なくなっていきます。



「チビ蔵くーーーんッ!!!!!」


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