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第15話 ラストダンジョン

 わたしは、目を覚ましました。


 シーンとした室内。わたしの部屋です。


 窓の外は、夕焼けのオレンジ色。

部屋の中も、差し込む光で一面オレンジに染まっています。


 全身、ヒヤッとして服が湿りつく感触。

どうやらわたしは、汗ぐっしょりになっているようです。


 ──“夢”……


 …はー、夢ですか、さっきのは……


 まったく、嫌な夢をみたものです。


 むくりと起き上がって、時計を見ます。

──17:32


 どうやら、1時間半くらい眠っていたようですね。

それだけの時間であれだけ臨場感ある夢をみるとは、自分の夢見力におどろきます。


 

 わたしは、窓際に近寄って、カーテンを開けました。


 もちろん、チビ蔵くんの首が飛び込んでくるなんてことはありません。


 夕焼け色に染まった空、そしていつも通りの自宅前の道路が広がっています。

道路の向こう側は例の雷オヤジの家ですね。


 まったく平穏です。

あんな悪夢のようなことが起こるなど絶対にありません。


 ちまたでは“かたつむり”なる怪生物がいたり、ルト子が変になったり、ジェシカが人間やめたりしていますが、まあそれもチビ蔵くんが解決してくれるでしょう。


 わたしの平穏は、これからも続くのです。

ずっと、ずっと。


 さて、安心したところでゲームでもしましょうか。

ゲームといえばポテトチップスが必需品です。

台所から持ってきましょう。


 階段を下りて、台所に向かいます。

そしておやつ棚を開けて、ピザポテトをつかんだところで。



 ──わたしの動きは止まりました。



 …食べる気しないんですよね。


 やっぱり昼あれだけ食べたから、まだお腹の調子が戻っていないのかな?


 ──否、それだけではありません。

ゲームをする気もしない。


 全然、しない。


 なぜ?


 胸のあたりが、たまらなくざわざわとして──

もやもやとして──


 ……………




 やめましょう。


 もうやめます。自分の認識をごまかすのは。


 いくら目をそらそうとしても、そらしきれませんよ。


 わたしだって、ホントはわかってるんです。

さっきのアレがただの夢なんかじゃないってこと。


 いや、もちろん夢なんですよ?

でも、ああいう夢をみるということは、わたし自身ああいうことになるんだろうなって予想してるということで。


 そしてそれは事実、そうなるんでしょう。

このままでいれば今夜にでも、アレは正夢になるのかもしれません。


 わかってるんです。

チビ蔵くんは勇敢で、スゴいアイテムを持ってますよ。

でも、“かたつむり”には勝てやしない。

なんとなく、わかるんです。

わかってしまう。


 このままでは、チビ蔵くんは十中八九、いや十九くらいで死にます。

どだい、一人では無理なんです。

一人では…このままでは…とても…


 …でも、“ひとり”じゃなければ。

誰かがサポートしてあげれば、ひょっとしたら運命は変わるのかもしれません。

そして、それができるのは…

今、彼の状況を知ってるのは…


 わたしは、弾かれたように走りだしました。

玄関に向かい、靴をつっかけ、外へと飛び出します。


 ──わたししかいないじゃないですか!!!!


 わたしは、主役的存在ではありません。

町の平和を守るために戦ったりしません。

友情にあつくもないし、正義感に満ちてもいません。


 でも、それでも!!

何もせずに、後悔するなんてゴメンです。

後味のわるい中で人生を生きていくなんてお断りです。

そんなのは、わたしの望む脇役的生活ではない。


 だからわたしは、走るんです!!!




──────




 グレイ森。

頭上に広がる夕焼け空はだんだん色が濃くなってきていて。

──夜が近づいてきています。


 この森には、ロクな思い出がないですね。

できれば二度と入りたくないところです。


 でも、わたしは踏み込みました。

あの、不気味極まる洋館をめざして。

怪奇の根源へと向かって。


 あの、館に潜む“何か”がすべての元凶だというのなら。

これは“ラストダンジョン”ということになるんですかね。


 そう思ったら、なにか勇壮な気分になってきました。

脳内で、ラスダン的なカッコいい曲を流して盛り上げます。

よーし、やるぞー!!!


 …まあ、そうでもしないとやってられないということでもあるんですが。




 今日は、あの“水たまり”はないようですね。

ラッキーです。


 ていうか、基本水たまりなんてないハズなんですよ。

だってそうでしょう?

いつもあんな青い奇怪な水たまりが散らばってたら、騒ぎになるに決まってます。

でも、そうはなっていない。つまり、基本的には水たまりはないんです。


 事実、前にルト子やジェシカと例の洋館に行ったときも水たまりなんて影も形もありませんでした。


 では、“あの夜”はなんだったのか?

あの日のグレイ森は、なぜ、あんな異様な状態になっていたのか?


 それには何か、“重大な意味”がある気がします…


 まあ、わからないんですけどね。

頭の片隅くらいにはとどめておきましょう。




 さて、そろそろ洋館がみえてくるハズです。


あの夜は、なぜか洋館がなくて戦々恐々としたワケですが、今日はそんなことないことを祈りましょう。


 歩きます。


 歩きます。


 ひたいのあたりを冷や汗がたれてきたので、ぬぐいます。


 歩きます。


 ……………



 ──あ、みえてきました。洋館です。


 いやー、今日は普通に建ってますね。よかったよかった。


 わたしは、洋館の前に立ちます。


 相変わらず、ただならぬプレッシャーをただよわせていますね。

こう、今にも空がピカッと光って、雷が鳴り響きそうな。


 あらためて、洋館をみてみましょう。


 前からみると、横に広い感じですね。そして3階建て。

ズラッと窓が並んでいますが、カーテンがあるのか、曇っているのか、中は全然みえません。


 色は全体にシックな灰色で統一されています。壁も、屋根も。

どこか、色あせた印象を受けますね。

わたしとしては、こういう渋いデザインは嫌いではありません。この館は嫌いですが。


 玄関口の上のあたりには、テラスらしい空間がみえます。

ギリシャ建築っぽい柱もあったりして、凝ってますね。


 尖塔もあります。前からみて、左の方と右の方にひとつずつ。

いかにも洋館っぽくて風情はあるんですが、どこか鬼の角のようにもみえますね。


 建物としては悪くないモノだと思います。

こんな別荘があったら楽しいでしょうね。

もっともそれも、この館にただようおぞましいオーラで台無しなんですが。


 …台無し? いや、そうでもない?

なんだか前にきた時ほど怪奇感がない気もします。


 事実、わたしがこうしてのんきに建物批評ができているのも、比較的プレッシャーが薄いから?


 わたしが慣れてきたせいでしょうか?

それとも? …ウーン。




 玄関の扉の前にきました。


 灰色の大きな扉。

覗き窓がついていますが、曇っていて中はみえません。


 取っ手はないようなので、押して開く式らしいですね。

押してみます。


 ──開きません。


 うーん仕方ない、蹴破るか…

──いや、待って。


 チビ蔵くんが先に入ったのなら、扉は開いているか、壊されていてしかるべきでは?

しかし扉は開いていない。

つまり、チビ蔵くんはまだ中に入っていない?


 それとも他に入り口があって、そこから入ったんでしょうか。

少し見てまわってみましょう。


 わたしは、館の右側方に回ってみました。



 そこには、チビ蔵くんが壁に体を預けて、チカラなく転がっていました。


 

 「チビ蔵くん!!!!?」


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