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第12話 人間やめました

 わたしの目の前にいるのは、死んだハズのジェシカです。

確かに…!


「アンタ…死んだんじゃ…」


「死んだわよ? アンタに殺されてさあ〜。

それで死んでも死にきれなくて、化けて出てきたの〜」


「つまらん冗談はやめて」


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」


 ジェシカがいきなり奇声をあげます。


「生まれ変わったのよ」


「生まれ変わった?」


「そう。『ミズガミ様』のおチカラでね!」


 ジェシカが右腕を前に出します。

すると、どうでしょう。

ジェシカの右腕が“透けていって”、その向こう側の風景がみえます。


「え…!?」


「きひひ…」


 そして、ジェシカが右腕をわたしに向けて。


 “吹き出しました”。


 そう、“シャワー”のように。


 わたしはとっさに右に飛びます。

シャワーがわたしの後ろの壁に当たって。

壁は、“どろどろに”、溶けてなくなりました。


「よくかわしたわね〜。

意外と反射神経は“平均点”ではないんじゃない?」


 シャワーがジェシカの右腕に戻ります。

なに…今のは…?


 右腕からシャワーを吹き出したのではないのです。

“右腕そのものが”シャワーになったのです。

ジェシカの右腕自体が、“水”になっている。


 ──“青い水”に…!!


「どう? スッゴイでしょ〜?

ミズガミ様から与えられた“チカラ”は…!!」


「………」


 よく見ると。

右腕だけではない、ジェシカの体全体が。

わずかに“透けて”います。

向こう側の風景がぼんやりとみえる。


 ひょっとすると、目の前の“これ”は。

体全体が“水”でできているんじゃないでしょうか。

水だけの存在が、動いて、しゃべっている。


 まったく、奇怪な話ですが…

『水人間』とでも、呼ぶべきでしょうか。


 目の前の“これ”は、ジェシカの姿はしているのです。

しかしそれは、決して血肉の通った“人間”ではない。

ジェシカではない…?


「アンタは…ジェシカなの…?」


「ん〜? 難しい質問ねえ〜。

アタシの意識のうえではアタシだけど、生物学的にはアタシでないともいえる。

つまり、“生まれ変わった”のよ、アタシは。

ミズガミ様の、“永遠の下僕”として!!」


 よくわかりませんが、もう彼女が人間ではなくて、後戻りのできない状態なのはよくわかりました。


「そのミズガミ様ってのは、“かたつむり”のこと?」


「かたつむりィ?」


「例の洋館の中にいるやつよ。

アレがずりずりと動く姿が、まるで殻を引きずって動くカタツムリみたいだから」


「…ははァん。なるほど。ずりずり」


 ジェシカが考えこみました。


「………

く……くくく……

あひゃはははははははは!!!!」


 そして、爆笑。


「たしかに!!! かたつむり!!!

うん!! たしかに似てる!!

いや〜、ルト子のいう“ミズガミ様”よりずっとセンスあるわ〜!!」


 体が水でできてるっぽいのに、笑い涙まで出しています。


「うん、アタシもこれからは“かたつむり”様でいこうかな。

そっちの方が面白いし。あひゃは!!

そもそも、人間からの呼び方なんてなんでもいいのよ。

あのお方は、人間ごときに量れる存在ではないのだから」


 ジェシカがようやく笑いやみました。


「そう。ミズガミ様=かたつむり様よ。そのとおり。

“神”のごとき偉大な生命体…

アタシたちちっぽけな人間は、あの方に食され、そして下僕として“転生”させていただくのが、最大の誉れなのよ。

アンタもみずからその身をさしだすなら、“転生”させていただけるかもしれないわよ?」


「死んでもゴメンだわ」


「そう。じゃあただ死んで」


 ジェシカが再び右腕をシャワーにかえて振りかけてきました。

わたしはなんとかかわしますが、シャワーにあたった壁は、床は、電柱は、空飛ぶスズメは、見る間にどろどろに溶けて消えていきます。

超高濃度の硫酸といったところでしょうか?

“硫酸シャワー”…!


「ちょこまかとうっとおしいわねー!!!

アタシはアンタがずっとキライだったのよ!!!

いつもクラスの輪から外れて、わたしはアンタらバカとは違いますみたいなカオしてさー!!!

人のこと見下してんのがまるわかりなのよ!!! ムカつく!!!!」


 ジェシカが硫酸シャワーが振りまわしながらわめきちらします。


「別にゼンゼン見下してなんかいないけど。

そう思うのは、アンタがまわりを見下しているからじゃないの?

自分がそうだから、人のことも自分を見下しているんじゃないかと思うのよ。

アンタに見えてる不愉快なわたしは、アンタ自身の鏡なの」


「ごしゃごしゃとワケわからんことをほざくなあ〜〜ッッ!!!!!」


 “ミス・0点”に難しい話をしてもムダでしたか。


 ジェシカの怒りに反応してか、シャワーの出力がさらに強まります。


 かわしきれない──!


 そう思ったわたしは、近くにあったポリバケツを手にとり、盾にします。

ポリバケツが瞬時に溶けてなくなり、しかしシャワーは防げたかと思った瞬間、飛沫が一滴だけわたしの太ももにかかりました。


 “ジュワッ”と、嫌な音がして。

白い煙とともに、わたしの足からおびただしい血があふれだします。


「くッ…」


 骨までは達してないようですが…


「あひゃははは〜〜!!!!

当たったあ〜〜!!!

オワリねえ〜!!!」


 バカ笑いして勝ち誇るジェシカですが、このバカをいい気にさせるのは正直、不愉快ですね。

とりあえず余裕ぶっておきましょう。


「ふ…この程度でわたしを倒そうなんて。

とんだお笑いぐさね」


 サラリと髪をかきあげてみたりして。

いや足は普通に痛いんですけど。


「ハァ〜!!!?

アンタのそういうところがねえ〜!!!

ムカツク!!!ムカツク!!!ムカツク!!!ムカツク!!!

ルト子の気持ちわかるわあ〜!!!!」


「…恥ずかしいとは思わないの?」


「はァン?」


「アンタだって親もいる人の子でしょうに。

そんな醜いバケモノっぷりさらしてて、申し訳ないと思わないの?」


 ためしに情に訴えかける作戦にでてみることにしました。

わたしの脳裏には、ジェシカの死体にすがりついていた彼女の母親の姿が浮かびます。

まあ、ぜんぜん似ていなくても親子は親子なんでしょうから。


「アンタに少しでも人間の心が残っているのなら。

おとなしく成仏しなさい!!」


 成仏といっていいのかは微妙ですが。


「………」


 ジェシカが黙ります。が。


「く……くくく……

あひゃははは〜〜!!!

──おい!」


「ハッ!!」


 ジェシカがとりまきのヤンキー女に目配せすると、とりまき達は何かをジェシカにわたします。


 ジェシカはそれを、わたしの方にほうり投げてきました。


 “生首”でした。


 この顔は……

あのときみた、ジェシカの母親、ですね……


 その死に顔は、驚愕と恐怖に固まっています。


「あひゃははははははは〜〜!!!!

家に帰ったら幽霊だとかゾンビだとかうるさいからさ〜、そのババア。

殺しちゃった♪」


「アンタ…」


「あひひゃひゃひひひゃひゃひぃひゃひひゃ〜〜〜!!!!!」


 どうも、すくえないようですね。

彼女は、身も心も、完全に人間をやめているようです


 “始末”するしかないですかね。 


「死ねぇぇひゃあーー!!!!」


 トドメを刺しにきたのでしょうか。

今度はジェシカの両腕が硫酸シャワーとなり、

左右2方向からわたしに迫ります。


 これは、かわせないですね。

空でも飛べない限りは。


 しかし、わたしは。


「ギャッ!!?」


 突然の悲鳴。

見ると、ジェシカの両腕のシャワーが、途中で“ちぎれて”います。


 何が起きたのでしょうか?


 つづけて、“キューン”というカン高い音が何発も。

ジェシカの体に次々と大きな穴が空きます。


 これは──“光線”でしょうか?

白く輝く直線が飛んできて、ジェシカに穴を空けています。


 まあ、確証は何もないんですけどね。

だってあたりまえじゃないですか。

“光線”なんて、おもにマンガやゲームの世界の話なんだから。

現実にお目にかかるモノじゃありませんよ。


 しかしそれはたしかに、今、わたしの目の前にあります。


 光線がジェシカを貫くたびに、“ジュワッ”と小気味よい音がして、穴が空きます。

なるほど、“熱”なんですね。

あの水の体には物理的攻撃は効果がないでしょうが、熱で“蒸発”させればダメージを与えられると。


 ジェシカが膝をつき、そして両手をつきました。

その体からはところどころ白い煙をふいています。

戦闘不能状態というやつでしょうか。


「ぐッ……うゥッ……!!」


 そしてジェシカの向こう側、袋小路に入り口の方に、“人影”がみえます。


 “光線”だなんて、非現実的な攻撃ができる者。


 …わたしを助けてくれた者?


 それは───



「あっ、アンタは…!!」



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