第0話 人を美味しく食べたいな
“ソイツ”は、森の奥に潜んでいた。
そして嗤っていた。
“人間”という生物を。
──まったく、人間なる生物の低レベルさには笑いがとまらない。
まず第一に、頭がわるい。
奴らは毎日の大半を、特に必要とも思えない労働と、つまらぬ馴れ合いに費やしている。
やりたくもない労働をして“貨幣”なる紙クズを得ること、
そしてやりたくもない同調をして仲間はずれにならないことが、奴らのすべてなのだ。
愚かで、非合理的な生き物だ。
生きていて楽しいのだろうかね、奴らは。
むしろ滅ぼしてやるのが慈悲にさえ思える。
僕はちがう。
僕は、楽しいことだけして生きている。
それが、当然なのだ。
生物としての“あたりまえ”だ。
それができない生き物は、愚かなのだ。
そういう社会を作ってしまうのは、知能劣悪だ。
脳みその品質が低い。
もっともみた感じ、奴らの脳はとても小さい。
それも仕方のないことなのかもしれんが、な
本当に哀れな劣等生物だよ。
クックックッ。
第二に、貧弱だ。
奴らは、知能が低いだけではない。
なんと肉体的にもモヤシ体質だ。
いいところ無しとはこのコトではないかね?
奴らはおどろくほど、ノロく、弱い。
人間どもの中でもっとも強い個体が全力で僕を殴ったところで、僕の体に毛ほどの痛みすら与えることはできないだろう。
そして僕は、彼らの肉体をたやすく潰せる。
いや、潰さない方が難しいくらいだ。
あまりに脆すぎてな。
弱者は壊れないように、優しく優し〜く扱わねばならないなあ〜。
クックックッ。
さらに哀れなのは、アレで一生懸命鍛えた結果らしいということだ。
鍛えてもあの程度というのは、遺伝子的にゴミの極みなのだろうな。
彼らはゴミ遺伝子すぎて、鍛えて鍛えてちょびっとだけ強くなるという無駄すぎる努力に、人生を費やさざるをえないのだ
本当に哀れだ。
哀れすぎて笑いがとまらないよ。
クックック。
第三に、原始的だ。
たとえ知能劣悪で貧弱であろうとも、高度なテクノロジーがあればそれをおぎなうこともできるだろう。
“奴ら”のようにな。
しかし、人間どもにはそれすらない。
奴らの街を走っている、“車”なるモノを見るがいい。
移動用のマシンらしいが──
なんだ? あのノロさは。
僕が走る方が1000倍は速いぞ。
あの程度の馬力を実現するのに、排気ガスだとか、燃料だとか、
なんらかの犠牲をともなわねばならんらしい。
どこまで低次元なのか。
軍事テクノロジー的にも目を覆わんばかりのモノがある。
街ゆく警官が、抑止力として、“拳銃”なる武器を所持しているようだが。
豆鉄砲か何かかね?
子供の玩具にも劣る。
そして、人間どもの間では、“核兵器”なるモノが最大の破壊力として知られているようだが。
ハ──
アレで最大だと?
あんなモノでは、僕の体に、かすり傷すらつけることはできないだろう
彼らには、僕にダメージを与える手段がない。
彼らは、技術的にも“もたざる者”であり、低次元の極みなのだよ。
第四に、醜い
人間どもは、おそろしく不細工で、滑稽な容貌をしている。
見ているだけで笑いがとまらないくらいだ。
見てくれだけでコメディアンやれるね。
ひょっとして彼らは、僕を笑わせるためだけに存在しているのだろうか。
人間どもはどうしてこれほど醜い風貌をしているのか、たいへん疑問に思うのだが。
僕の仮説としては、神は“その生き物のレベルにあった容貌を与える”のではないか
そう考えれば、低レベルな人間どもがこれほど醜いこと、そして僕がこれほど美しいこともスッキリ説明がつく。
彼らは低スペックすぎて神にすら見放されたのだ。
本当にかわいそうな生き物たちだ。
このように、人間とはどこまでも低レベルである。
だから僕は、彼らをみていると、たいへんいい気分になれるのだ。
奴らと比べて、僕はなんてアタマがいいんだろう──
なんて強いんだろう──
なんて文明的なんだろう──
なんて美しいんだろう──
僕は、完璧な生き物すぎる。
正直、申し訳なくなるくらいだ。
だから僕は、彼らを“食べて”あげるのだ。
あまりに低劣すぎて存在意義が怪しい彼らだが、僕が食べてあげれば、何らかの役には立ったということになる。
それは、とても“名誉”なことなのだ。
そしてそれが、“完璧すぎる”という原罪を背負った、僕のつぐないでもあると思うのだ。
もちろん、ただ食べるだけではない。
そんなのは、食材に対する冒涜だ。
僕は、彼らを“美味しく”いただくのだ。
人間たちも“料理”というモノをするね。
僕が彼らに共感できる、数少ないモノのひとつだ。
ただ食べるのは簡単だ。
しかし食材は料理をすることで、より美味しくいただくことができる。
より大きな“幸福”を生みだすことができる。
それは僕にとってもうれしいことだし、また食べられる側にとっても誇らしいことだろう。
それが食べる側の“礼儀”であると、僕は思うのだ。
ただ、食い散らすなど原始的だ。
僕は決してそんなことはしない。
僕は、人間を“料理”するのだ!
最大限、美味しく!!
よーし、腕をふるうぞお〜。
僕の腕前、とくとごろうじてくれよな!!
──と、そのために。
僕は、体にクン、とチカラを入れた。
すると、僕の青く美しい身体が淡く輝き、小さくなってゆく。
小さく、より小さく。
そして、形を変えてゆく。
──ある生き物の形に。
──“人間”の姿に!
僕は、人間になった。
まあ、見た目だけだがね。
醜い人間の姿になるのは気がすすまないのだが、最大限、僕の美的センス的にあまり醜くない風貌にしたつもりだ。
どうしてこんなことしたのかって?
もちろん、人間社会に入りこむためさ。
料理とは、食材ごとにふさわしい調理をほどこさねばならない。
そのためには、食材のことを知り尽くす必要があるのだ。
だから僕は、人間たちの中に入りこむ。
彼らをより近くから“観察”するために!
僕はこと“料理”において手間を惜しまない。
それが僕の“信念”なのだ!!
──さて、それではどこに“入りこむ”か?
せっかくなら色々と楽しみたい。
下等生物の生活を体感してみるのも、なかなか悪くなさそうだしな。
僕的に、いちばん惹かれるところは──
そうだな……
“あそこ”だ。
“あそこ”はいい。
“あそこ”なら、色々と、人間どもを…
クックック…
あとは、周囲の人間の記憶を操作し、僕を“始めからいた”と思わせるだけ。
そんなことできるのかって?
できるさ。
僕にかかれば、人間どもの単純な脳みそをいじるなどたやすいこと。
僕の正体が見破られることはないだろう。
なんせ人間はアタマが悪い。
僕も一応、この優れた知能を駆使して、“カムフラージュ”をほどこすつもりだ。
それを奴らが見抜けるということは絶対にない。
僕の正体が暴かれる可能性…
そして、僕がやられる可能性は…
僕と人間の性能差…
そして、様々な不確定条件を加味して計算すると…
何度やっても、
“0%”だ
わかりきったことだがな。
クックック…
さて、それでは征くとしよう。
楽しい楽しい“食事タイム”の、始まりだ!!!
──しかし“ソイツ”は、想像すらしていなかったのだ。
まさか自分が、ゴミのような人間どもに、手痛い“逆襲”を受けるハメになろうとは…!!?
それも…
人間の中でもとりわけ凡庸で、箸にもかからぬ存在である…
たったひとりの、ちっぽけな“少女”に…
──『脇役少女』に…!!!