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8. シルフィンお前

 久々に書いた。

 シルフィンが暴走した。

 俺は今、世の中のためになるいいことをしている。

 俺は今、小さな女の子と手をつないでいる。


 ちょっとニギニギすると、ニギニギを返してくる童女の手。


「でへへ・・・」


 自然微笑みが表情として湧出し、また喜びの笑い声が口から漏出してしまうのも、健全な成人男性なら仕方のないことだろう。


 なにせ俺は世界で一番健全なのだからな。

 一般的な成人男性よりも歓喜の感情が強く出てしまうのは当たり前。


「おにぃちゃん、ホントにこっちに行けばパパとママに会えるの?」

「あぁ、会えるぞ。もう少し歩けば、帰る(・・)スポットがあってだな・・・」


 童女を伴って、どんどんと人気の少ない路地を突き進んでいく。


「ねぇ、おにぃちゃんもお仕事あるんでしょ? 大丈夫なの?」

「何。君に比べれば些事だ」


 雑然とした家々の間にある狭路を進めば、区画整理は行われていないのだろうな、と行政の怠慢を邪推することが可能。


 死角が多く人目を忍べ、拠点を隠すにはもってこいの場所。

 まったく、こんなとこがあるから俺たちみたいなヤツに利用されるんだよ。

 ククク・・・・・・。


「さぁお嬢ちゃん。あの突き当たりにある家が俺たちの目的地だ・・・」

「うん!」


 天真爛漫そうに頷きを返す童女。

 世界一健全な俺は、前屈みになりながら頭を撫でざるを得ない。


 前屈みになる理由は、俺の身長がこの子より60cmくらい高いからだぞ?


 端末をかざせば、家のロックが解除される。

 ガチャリ。


 ゆっくりドアを開けながら、この感触を忘れぬようにと、もう一度童女の手をニギニギした。

 そんなことをすれば、原初より生物に植えつけられた反射的行動として、鼻息が荒くなるのは必然。


 いくら至高の存在たる俺であっても、例外には成り得ない。


「でへぇ」

「おにぃちゃん、ここからなら行けるのぉ?」

「ああ、イケるさ」


 自分の思う最高の笑顔で家の奥に(いざな)いながら、目を細めて童女に答える。


「天上の世界に、なぁ・・・・・・」













 時は七時間前、午前九時頃までに遡る。


 本来「戦」の管轄であるはずの二級神罰の雑魚について、なぜか「砕魂」である俺に断罪の依頼が来た。

 なんでも、創造神からの直々のお達しらしい。


 そうであるならば、この仕事を受けるのに否はあらず。


 早速ターゲットが現在潜伏している場所へと、茗荷谷から徒歩で向かう。

 その、道中。

 新大塚駅周辺でのこと。


 通勤のピークはとうに過ぎているのだが、人通りはそこそこ多く。

 早足な俺には、鬱陶しい。

 いらぬ騒ぎを起こさぬよう、人間にぶつからないようにしなければならないからだ。


 天使なら誰でも持っている「すり抜け」技能を使えばいいのかもしれないが。

 こちらに気づかない人間が体を通り抜けていく時の、「ゾワッ」とする感覚が未だに慣れない。


 だから使いたくない。


「あの、すみません」


 耳に、甲高い女の子の声。

 言われたのはもちろん、俺ではない。

 当たり前だ。

 ターゲットとなった人間以外は、天使を見ることは出来ないのだから。


 何気なくワクワクしながら、声の発生源へと視線を送ってみる。


「おねがいします、パパとママを探してください!」


 道行く一人に頭を下げる童女。

 無視される。


「すみません! おねがいします、パパとママを探してください!」


 今度は別の人に、さっきよりも深く頭を垂れる童女。

 無視される。


 ・・・日本の首都東京とは、世知辛いところであるな。

 こんなんで、2020年のオリンピックの際に「おもてなし」出来るのだろうか。



「ん、待てよ。あの童女・・・」


 理性が何かに、気付き始める。



 無視される度、新しいお願い先を見つけるために方向転換して。


 方向転換の度に、腰をふりっ。

 スカートピラッ。

 腰をふりっ。

 スカートピラッ。

 腰をふりっ。

 スカートピラッ。


「でぇへへ・・・」


 小さな女の子が動き回っているのを見て、微笑ましい思いをしない大人は存在しない。


 天使界では紳士で有名な俺も、微笑ましい思いで童女をみっちり観察。




 だからこそ気付いた。




「はいてない・・・だと・・・」


 慄きながら、崩壊寸前な鼻の毛細血管を修復する。


 俺の明晰な思考回路は、ラインナップ豊富な脳内ビッグデータのさらに奥、機密ファイル「はいてない」へとアクセスされ、量子化された膨大な情報の処理に費やされる。




 ・・・太古の昔より世界中で尊ばれる「チラリズム」とは、スカートの下に秘部を隠す一枚の薄い布があってこそ発生する。


 色。

 アングル。

 シチュエーション。


 「チラリズム」には、無限を超える組み合わせがあり。


 すべての男は必ず一つ、最高と呼べる「チラリズム(美学)」を胸の奥に秘めており、それを見つけるためにこの世に生を受けていると言っても過言ではない。


 だが殆どの男は、自らの「チラリズム」を探求せども極めることが出来ないまま、人生を終わらせてしまう。


 道は厳しい。

 長く生きて百年な人間では、探求するどころか入り口にすら立てない者も多いのではなかろうか。


 俺ですら、最高と思える「チラリズム」の出会いまでに五千年はかかったというに。


 しかしせっかく「これだ!」と思ったものでも、ひょんなことから今までの考えを覆すような組み合わせを発見してしまうことがあるのも、「チラリズム」の醍醐味であろう。


「み、認めぬ・・・」


 なのに最近、この絶妙にして絶頂にして絶対のものたる「チラリズム」を根底から覆す、まったく新しい概念が発見された。



 それが、「はいてない」だ。




 品性への暴力であり、想像力への冒涜である!




 伝統を重んじる俺みたいな奴は、揃ってこう主張したものの。

 「はいてない」の圧倒的な破壊力に打ちのめされた軟弱な連中は、競って新たな概念に傾倒した。


 結果。


 天使界の男たちは現在、従来通り「チラリズム」を支持する保守派と、瞬く間に勢力を伸ばした「はいてない」を崇拝する革新派とに真っ二つに分かれ、近々戦争が勃発するのではないかという噂がまことしやかに囁かれている。


「俺は『はいてない』など、断じて認めぬうううううう!!!」


 他者に聞こえていないとはいえ、天下の東京の往来で一体何を叫んでいるのか。

 自分でもそう思わないでもなかったが、俺の中で滾る熱き矜持にさせられたのだ。


 なら悔いはない。



 問題は、本能(もう一人の俺)だった。


 スカートをピラピラさせまくる童女からは、はけば生まれるはずの「チラリズム」を微塵たりとも感じず。

 すなわち、「はいていない」。


 気付いてしまったが故の本能の暴走は抗いがたい衝動を生み、衝動は体の制御を奪う。


 イコール。


 「はいてない」など認めないと叫びながら、はいてないかもしれない童女の股下に向けスライディングを決める長身の男という図が、新大塚の駅前に形成された。


「え、ええ!? なに!?」


 突然の事態に、戸惑う童女。

 些事である。




 さあ。

 刮目しよ!




 カッ! と目を見開きながら、いざ童女のスカートの直下へ行かんという、まさにその時。




 タイミングばっちしに。

 スマホを弄るOLが俺の股間を、ハイヒールで踏み抜いた。




「う」


 鬱蒼と木々茂るジャングルの真ん中、狩猟民が小さな鳥を射抜くシーン。


「う」


 広大なサバンナでメスライオンがシマウマの首元にかぶりつき、二匹一緒くたにゴロゴロと転がっていくシーン。


「う」


 海底から勢いよく泳いできたホホジロザメが、アザラシに噛み付いたまま勢いで海上を跳躍するシーン。


 チカ、チカ、チカと脳の中で3シーンが切り替わり。


 漸く認識される、激痛と現実。


「うぼわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!???????????」


「あら? なにか踏んだかしら?」


 キョロキョロと辺りを見回した後、「気のせいか」とすたすた通り過ぎていく。


 患部を左手で抑え白目を剥きながら、右手をOLに伸ばす俺。

 飲み込めない唾液が、地面を濡らす。


 おい待てやああああ・・・。

 俺の素晴らしい遺伝子を後世に残せなくなったらどうするつもりだぁぁ・・・。

 末代まで呪ってやるううう・・・。


「・・・あ?」


 怨念の送り先たるOLはなにも気にすることなく、俺をガン見している(・・・・・・・・・)童女の方向へ歩く。


 このままではぶつかってしまう。


「おい、危な・・・え?」


 接触したと思いきや。

 OLは童女の体をすり抜けて、何事もなく前方へ進んでいった。

 これは。


「え、え?」


 すり抜けられたことに驚愕したのか、童女は困惑、狼狽し。

 説明を求めるような視線で、再度こちらを見た(・・)



 ・・・人間からの無視の連続。



 天使()を視認可能。



 なによりも、背負う小さなリュックサックには、天使界から人間界への渡航を示すタグ。



 なるほどな。


 この子、天使だったのか。



 薄れゆく意識の中。



 グラウンド直上からの景色。

 童女世界アンダースカート、には。


 俺ですら気配を感じ取れなかった、存在感の薄い白パンが。


 そこに、「チラリズム」と「はいてない」という相反するものたちの未知なる遭遇、いや融合による昇華(アウフブーヘン)すら感じてしまい。

 心からのサムズアップを、彼女とパンツに送る。



 きょとんとする童女の姿を視界に入れたが最後、股を起点に全身を冷却する激痛から。

 俺は、気絶してしまった。

 3話の最初でオリヴィアのおっぱいに反応しなかった理由が判明。

 主人公は、真性のロリコンだったのだ。


 あと作者は革新派です。

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