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4. 派遣ミス(後)

(前)からの続き。

 翌日。


 きっちりと7時に起きた俺は、テキトーにシリアルを貪り、8時の召集に間に合うよう家を出た。


「今日はのどかな天気であるな。いいことがあるに違いない」


 呟くと共に、三年ほど前に任務のターゲットが持っていたのをくすねた音楽再生機器にイヤホンを取り付け、人間界のヒットソングを聞く。


「やはり人間は娯楽を作るのがうまいな」


 俺含め、天使にはそういうのが得意な奴がいない。

 エンターテインメント関係のものは、常に人間界からの恩恵を受けてきた状態だ。


 五百年ほど前には、能ブームが天使界に襲来し、この日本支部への転属について希望が殺到した。

 俺も、支部には他に二人いる「砕魂」の天使たちを押しのけ、京都や鎌倉関係の依頼をもぎ取ったものだ。


 まあ、俺が一番強いからな。

 日本支部以外も含めた、全「砕魂」三十六人で。


 一支部に「砕魂」が数人いると考えると数が合わないように見えるが、一人一人が複数の支部を掛け持ちしているため、これで足りている。


 かく言う俺も、日本の他に、フィリピン・インドネシア・オーストラリアにアメリカ合衆国と担当しているのだ。


 と、噂をすれば。


「お、久しいな、アグネスではないか。やはりお前にも召集が?」


 十歩くらい前で長い銀髪を揺らすチビ:アグネスは、俺と並んで「砕魂」の名を冠する天使界最強の一角。


 くる、と振り向き、パアと輝くような笑顔をしたかと思えば、慌ててゲフンゲフンと咳き込み、いつもの無表情に戻った。


「アグネス、貴様もそんな顔が出来るのな。もう付き合いも七千年になるが、初めて見たぞ」

「う、うるさい。久しぶりで油断しただけ」


 そうか、何に対する油断かは知らんが。


「油断は良くないな」

「知ってる」


 ぶっきらぼうに答えるアグネス。

 こいつは昔からずっと変わらない。


「次のセンチュリー祭では私が勝つ。序列一位をシルフィンから奪い取る」

「言っとけ。あと、次の祭は十回に一回のミレニアム祭に当たるはずだぞ? よもや忘れていたのではあるまいな」

「・・・忘れてない」


 フイッと首を反らすこのチビ女を見て、忘れていたのだなと確信する。


 全く、これだから俺以外の「砕魂」は。


 おっと、せっかく別の被召集人がいるのだから、一応聞いておくか。


「『砕魂』の召集とは珍しいが、ないわけではない。だが中央神殿(オフィス)前広場が集合場所とは、今までにないことではないか。何か知っているか?」

「知らない。私も聞きたい」

「そうか。まあ、行けば分かるであろう」


 音楽再生機器から流れる人類の叡智を、二人でイヤホンを共有して聞きながら、目的地へと向かう。


 七時五十五分に辿り着いた広場は、多くの天使でごった返していた。

 ところどころでペチャクチャお喋りしていて、ひどくうるさい。

 見たところ、三百人はいるのではないか?


「・・・おかしい。『砕魂』はこんなにいないはず。確か・・・一桁人?」

「天使界日本支部には、三人だ。何だろうな。俺のファンか?」


 ならもっといなきゃおかしい。


「・・・万年クレーム受取人に、ファンなんかいないはず。いないよね?」


 不安そうに俺を見上げる、アグネス。

 ふふふ、これがいるんだな。


 クレームと請求書に混ざって、時々郵便受けに入っている。

 内容はストーカー気質のヤバめなものばかりだが。


 不敵に笑っていると、広場の長方形のうち一辺真ん中にある壇上に、日本支部取締役、通称「天使長」が上る。


【あー、マイクテスト、マイクテスト】


 なんであんな、表の(・・)お偉いさんが?

 という俺の疑問は、周りの奴らにも共通のもののようだ。


 ヒソヒソと、壇上の天使長を見ながら、それぞれのグループで何事か話している。

 聞き耳を立てているうちに天使長はフッと口を開き、話を始めた。


【おはよう、諸君。早速だが、任務の話だ】


 前口上もなくいきなり仕事の話に入る天使長。


 サバサバした感じは嫌いではないが、周囲の有象無象どもはかなり不服そうな顔になっている。

 どうせ、前口上があったらあったで不平を言うだろう癖にだ。

 この辺は、人間も天使も変わらない。


【まずは、諸君らの理念を確認させてもらおう。準備はいいか】


 理念、か。


「アグネス。『砕魂』の理念、覚えているか?」

「バカにしないでほしい。週休二日、定時帰宅、ハラスメントのない社風の三つ」


 なるほど、どこの人間界の優良企業だ。


「阿呆か。それは貴様の希望であろうが。まあいい、今から聞いて、思い出せ」


 不良な後輩である。

 ホント、俺以外の「砕魂」は。


 いよいよ、天使長がマイクを再び強く握った。

 さあ、この不徳なチビに、真なる「砕魂」の心得を教えてやってくれ。


【一つ、男女は互いに不満あり】

「「「「「一つ、男女は互いに不満あり」」」」」

「一つ、神罰は絶対ではなぃ・・・は?」


 統率が完全に取れているわけではないものの、大多数の天使が紡ぐ言葉は、俺の鼓膜をガンガン揺らす。

 問題は、彼らの織りなす言葉が、想定とは全く違うものであること。


「違ってやんの、違ってやんの」


 ここぞとばかりにアグネスが侮辱してきた。

 貴様のとも違っているだろうが・・・!

 怒りのボルテージが一上がる。


【二つ、離反もまた運命】

「「「「「二つ、離反もまた運命」」」」」


 おい百人単位でそんなやるせないこと言うんじゃない。


 そして、何千年も前だが、俺が偉大と奉ずる数少ない先輩の一人に魂まで刻み込まれた、「砕魂」たる者の理念と一文字たりと被っていないではないか。


「こ、これが時の流れか・・・?」


【三つ、されど男女は、何度でも求め合う】

「「「「「三つ、されど男女は、何度でも求め合う」」」」」


【そう。何度でも。もう恋なんてしないと誓っても、いつか相互に望み合うのだ。『再婚』の天使は、一度は共生に失敗しても、諦めない、へこたれない人々のための、調停者である】


 いや、「砕魂」の天使の仕事はそんなんじゃないのだが。



 悪人の魂に対して、神に代わり裁きを下すのがライフワークである。



 よって、おかしい。

 おかし過ぎる。


 この時ばかりは、物理法則の最高傑作であるはずの俺も、異様な状況に良く付いていけていなかった。


【諸君らも知っての通りだが、現在地上の日本では、若者の離婚がすでに大きな問題となっている。故に十年前から、この日本支部にも『再婚』を冠する天使が新設されたのだ。つまり! 今年で十周年を迎えるのだ!】


 いつの間にか、広場中の天使が「うおおおおお」と大歓声を上げていた。


 しかし、氾濫する情報に混乱していた俺は知恵熱で頭が回らず、天使長の言葉がよく聞こえていなかった!


 それは隣のアグネスも同じようだった。

 目からハイライトが消え、ただただフリーズしていた。


【これを記念して、今から一年、『再婚』の天使の人間界大派遣期間を設ける! 得てして暗くなりがちな日本の男女の絆の展望に、一歩一歩、着実なハッピーをもたらすのだぁ! そしてその分、上からの私の覚えは良くなり・・・ぐへへ・・・】



 広場がシーンと静まり返ったのは、脳内がカオスと化した俺でも理解出来た。








 そこから先は、もう良く覚えていない。





 ターゲットとなるバツイチの女性について簡潔に説明された後、「何だお前、新人か?」と分厚いマニュアル本と変な虫眼鏡を渡され、地上に強制派出された。


 アグネスは、気付いた時には側にいなかった。


 本来俺に生まれるはずのない「心細い」という感情を誰とも共有出来ないことを苦々しく思いながら、派出先で目を開ければ、そこは多くの人間行き交う、真昼の渋谷マーク下。


 無論、俺の姿はターゲットと、同じく地上に存在する天使や死神、悪魔以外には見えないため、急に現れてパニックを起こらせる、ということはない。


 以前に来たことがある場所であることに少しだけ安堵しつつ、とりあえずターゲットとなる女性の住所を探れば、最寄駅は・・・茗荷谷?


 渋谷から電車で四十分は掛かるではないか。

 せめて池袋で降ろしてくれと憤った。


 と、目的地を把握したとはいえども、不可抗力ではあるが殆ど話を聞いていなかったため、正直何をするのかよく理解していない。


「そういえば、マニュアル本を渡されたな・・・」


 言いながら、ダンベル代わりになりそうな本の表紙を眺めれば。



 タイトル:「サルでも使える『再婚』の天使マニュアル」



 俺の明晰な頭脳に、雷を浴びたかのような衝撃が走る。


「キヌエ婆、サイコンってこっちだってばよ」


 ガクリと項垂れると共に、天使界の杜撰な職業管理の現状に愕然とする俺。

 そろそろクーデターを起こすべき時かもしれぬ。




 天使界ののどかな天気は、残念ながら吉兆の予報ではなかったようだ。




「・・・はあ、上に立つの面倒くさそうだしやめておこう。この際だ、普段なら体験出来ないことを目一杯楽しもうではないか」


 嘆息しながら、駅を歩いてJ(アー◯)の改札口へ。


 懐からPa◯moを取り出し、山手線に乗り込んだ。


 例え人間から姿は見えなくとも、ただ乗りはしないのが俺のモットーである。


 結構オツムの弱い主人公。

 この先出るか分かりませんが、「砕魂」の天使の過半数はプライド高めな脳筋です。


 そして最後、殊勝な心掛け。

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