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姉の姿をした何かの自爆

「な、なななな……なんで」

 あの女は、なんで、と言った。そんなことをしていない、ではなく、何でと。否定ではなく、そんなことやっていないという必死な訴えでもなく、何で、と言った。

「公爵家と、神殿の方できちんと調査を引き続きしたそうですよ。それでも、貴方がその行動をしたことはきちんと報告されています。その事実が間違いと、貴方たちは断言が出来るのでしょうか? 私は少なくとも、証言をした本人を信頼しております。そして、公爵家と神殿の調査を信頼しております。貴方が聖女様を貶めるために行ったことに関しては、王家の調査の者も入っております。さて、それでもなお、貴方は自分はそんなことをしていないと言い張りますか? 王家の調査を否定するということは、王家に反感を持っているということにもなりますが」

 シュニーが淡々と告げている。

 ……わざわざ、あの当時のことまで調べなおしたのか。というか、今でもどうにか調べなおすことが出来ることならば、当時ならもっと調べやすかっただろう。それをしなかった公爵家には、やっぱり、良い気持ちは感じられない。王家まで出てきたのは、ルンガーラが聖女だから。その特別な役割を持つ、国にとっても重要だから。

「王家が……? どうして。私は、聖女になるべき存在なのに……。私は”ソニア・カーヴァンクル”で、あるのに」

「あら、まるで貴方自身がソニア・カーヴァンクルではないような言い方をされておりますね。それに聖女になるべき、存在とはだれがおっしゃったことなのでしょうか。聖女の存在を決定するのは我らが主です。私たちのあがめ慕う神がお決めになることなのです。ソニア・カーヴァンクル様の、御意志で決められることではありません」

 ルンガーラを、あの女は相応しくない、などと言い張っていたけれどあの女が決められるものではないのだ。聖女、という存在を決めるのは、俺達ではない。神であり、神殿であり、個人が決して決められるものではないのである。

「私は……聖女になる、存在なの。私は、皆に愛されて、私は、”ソニア・カーヴァンクル”であるのだから……生徒会長にも、神殿騎士にも、皆に愛されて…そう、なるはずなのに」

 聖女であるルンガーラに言いがかりをつけておきながら、自分が追い詰められるなどと一切考えていなかったのだろう。追い詰められて、大勢の前だというのに、ぽろぽろと言葉を放っている。

 俺と、目が合う。

 俺に向かって声を上げる。

「ニール、貴方は私の味方でしょう!? 私のこと、本当は好きなんでしょう??」

 ああ、と思う。この女は、まだ、気づかない。俺の名前を聞いても、気づかない。この女が求めているのは、男女の愛なのだろう。そんなもの、俺が芽生えさせるはずなんてないのに。

「………俺が、ソニア・カーヴァンクルを、そういう意味で愛することはありえない。というか、まだ、気づいてないという事実に俺は驚いていますよ。カーヴァンクル公爵家は、気づいているというのに」

 ああ、もう苛々してしまう。本当に、何故姉の姿をして醜態をさらしているんだろうか。姉さんなら、俺のことを絶対に気づいてくれるのに。気づいてくれて、笑いかけてくれるのに。

 姉さんのこと、ずっとずっと考えてる。失ってしまった、姉さんのことを忘れられない。

「――――ソニア・カーヴァンクル、先ほどのシュニーの話を聞いて、貴方は一欠けらも思い出さなかったのでしょうか。貴方が、母親と弟を置いていったことを知っているものがいると聞いた時に、誰がそれを知っているか、とか考えなかったのですか」

 俺は問いかける。本当に欠片も思い出さなかったのかと。それにあの女は、何をいっているのか分からないといった表情を浮かべている。周りの生徒たちも、何故そんな話をしだすのか分からないという顔をしている。

「―----俺は、おいてかれたんですよ。他でもない、貴方に。姉さんの姿をしている、貴方に」

 周りが静まり返る。あの女は、目を見開いている。

「貴方は、俺と母さんにすぐ死ぬといった。倒れた母さんを放って、カーヴァンクル公爵家の騎士を探しに行った。姉さんの姿をしていても、貴方は、姉さんなんかじゃない。姉さんは、優しい人だった。間違っても、母さんに暴言を吐いたり、病気で臥せった母さんをおいていったり、他人を貶めたりなんて出来ない人だった。本当に貴方が評判通りの、心優しい少女とか、家族思いだとか、なら俺に気づかないなんてありえない」

 俺の言葉に、あの女は何かを呻いている。

「……ソニア・カーヴァンクルの弟? 死んでいる、はずでしょう? 生きているなんて、ありえない。だって………そうだったはずだもの。ソニア・カーヴァンクルは母親と、弟を失った……そんな少女で」

「……ソニア? まさか、本当に……? それに、自分がソニア・カーヴァンクルではないみたいに」

「だって、そうだたもの。ソニア・カーヴァンクルはヒロインで、母親も弟も死ぬはずの存在で…だから……なんで、ソニア・カーヴァンクルの弟が、生きて……」

 そんなことを言い放ったあの女は、ふらふらと歩きだし、そして、舞台の上から、落ちた。




 ――――そして。





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