騎士と神官は、聖女の味方でしかない。
立ち上がった俺を見て、目をキラキラさせているあの女は相変わらず俺があの女の味方をするとでも思い込んでいるのだろうか。
聖女の騎士。神殿に仕える騎士が、どうして聖女以外の少女の味方をすると思えるのだろうか。本当に意味が分からない。あの女があれだけ目をキラキラさせて、期待するように俺を見ているのは、あの女が何かを知っているように、そうでなければおかしいというように思い込んでいる何かが理由なのだろうか。姉さんは、どうして、居なくならなければならなかったのだろうか。……俺は、体が姉さんだろうと、あの女を、姉さんだとは認められない。だって、俺の姉さんは、不当に人を貶めたりなんて絶対にしない人だったから。
俺はあの女が姉さんではないことを知っている。……でも、カーヴァンクル公爵家や今あの女の周りに侍っている男たちからすれば、今のあの女が”ソニア・カーヴァンクル”。
複雑な思いになる。俺は、姉さんが大切だった。……本当の姉さんなら、カーヴァンクル公爵家の手の物が気づくようなことを気づかないはずがない。俺のことを、気づかないはずがない。
「聖女様がそのようなことを行ったという証拠はあるのか?」
「ソニアを突き飛ばしたものが、その女の指示であったと告げている。それが証拠だろう!」
「……その証言だけで、聖女様を罪には問えない。証言というものは、本当にそうであるか分からないものだ。俺がいっているのは、その証言が本当のことであるとする証拠はあるのかということなのだが」
「ソニアが信じていることが嘘であるはずないだろう」
「……貴方はそこまで愚かなのか。一人の意見に左右されるようでは、貴方の立場では許されない。なぜならそれは冤罪を生むことになる。現に今も、聖女様に冤罪をかぶせようとしているようにな」
「何故だ、貴様はソニアに惹かれているのだろう、何故そのようなことを——」
いい加減、面倒になってきた。何故もなにも、俺がルンガーラの味方をするのは至極当然の話である。それを何故などと聞いてくるこの男の方がおかしい。
「ニール! ルンガーラさんに脅されているのね……。可愛そうに、私が守ってあげるから、嘘なんてはかなくていいのよ」
どんな、夢を見てるんだ、この女。姉さんの姿で性悪な本性を曝け出さないでほしい。
「……嘘、なんてつきませんよ。な、イクセル」
「ああ。そもそも、ソニア・カーヴァンクル様、貴方に対して聖女様は接触さえもしていない。それは、私たちも知っている。そして神殿の関係者も承知の事実です。それに聖女様はそこの一般生徒にも接触をしていません。もちろん、手紙においても」
俺たちは言い切る。なぜならそれは事実である。神殿の監視や俺達護衛の目を掻い潜ってルンガーラがそのような行動をするのはまず無理な話だ。
「その女神官を使ったんだろう!」
「いえ、私はそのようなことをしていません。そもそも聖女様はそのようなことする必要ありません。そして神官騎士、ニールとイクセルはソニア・カーヴァンクル様に惹かれているという事実はありません。貴方方の供述には穴がありすぎます。きちんとした証拠もなく、聖女様に暴言を吐き、別のものが聖女に相応しいなどというのは、神殿を敵に回す行為だと理解しているのでしょうか。そもそも、婚約者のいる異性を周りに侍らせ、複数の異性とそういう仲になっている女性は聖女どころか、貴族としても相応しくないのです。それにこういう場所で断罪をし始めるのも正気の沙汰ではありません。上に立つものとしてそのような行為を躊躇わずに強行することを知れば、さぞ実家はお嘆きになることでしょう。ソニア・カーヴァンクル様におかれましては、神殿の聖女に対しての敵対心を隠せない方でいらっしゃいます。ですからご自身で破いたドレスをもしかしたら聖女様が破いたかもしれないと言い張ったり、ご自身が買収した女子生徒に自分の背中を押させながら、聖女様のせいにしたりするほどの方が聖女様に相応しいとは私は一切思えませんが。ちなみに、こちらはきちんと全て証拠を集めております。神殿を甘く見てはいけません。そして神殿にとって聖女様は大切な存在です。その存在を害すものを私たちが許すはずがありません。もちろん、貴方たちのご実家には報告を既にすませてあります。この醜態も実は魔法具で放送済みです。ですので、貴方たちが幾らわめこうともソニア・カーヴァンクル様が聖女様に成り代わることはありえません」
シュニーが淡々と、長々と、そういうことを言い放った。
騎士は、聖女であるルンガーラを直接的な被害から守る存在。
そして、神官は、聖女であるルンガーラを間接的な被害から守る存在。
俺やイクセルは、シュニーが「手伝ってほしい」と言わない限り、そういうことはシュニーに全て任せていた。それはシュニーを信頼しているから。
俺はシーンと静まり返った周りのものたちを見ながら、シュニーは流石だななどと考えていた。