表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

俺は、もう一度。

 あの女が倒れた後、あの女を庇っていた連中は罰され、倒れたあの女は公爵家に引き取られて、ひとまず収束した。とはいえ、俺がカーヴァンクル公爵の血を引いていることは露見しているので、しばらく周りが騒がしかったりとか、俺への婚約の申し込みがあったりとか、公爵家側から跡取りになってほしいとかあったけど、自分が望まないことは全部拒否した。

「ニール、可愛い子も多いけどいいの?」

「……いいに決まってる。というか、ルンガーラ、俺の気持ち気づいてるだろう」

「勘付いてはいるけど……ちなみに私はニールの事好きよ?」

「……俺も」

 俺はルンガーラのことがずっと好きだった。ルンガーラは聖女という立場だし、それなりに上の立場にならなきゃルンガーラの側には居られなかったというのもあって、そんな不純な動機もあって俺は上級神殿騎士を目指したのもある。

 ルンガーラは俺の方を向いて笑っている。

 俺は、あの女への強い感情がなければ、魔力切れのままあのまま死んでいたかもしれない。そして、ルンガーラに出会わなかったら、上級神官騎士なんて目指さなかったかもしれない。そうなれば、あの女がいっていたように、イクセルが上級神官騎士になっていたかもしれない。

「……ふふ、嬉しい」

 にっこりと笑ったルンガーラのことが、愛おしく思った。姉が姉ではなくなって、俺を置いていって。そして保護された。保護されて、失意の中にいた俺の前にルンガーラは現れた。

 優しい笑みを零して、笑いかけてくれた。

 ……姉だった人がああなって、母さんが死んで、許せないって復讐心ばかり考えていたそんな可愛くもない子供だった俺。そんな俺に笑いかけてくれて、俺の当時荒んでいた心をいやしてくれた女の子。

 ルンガーラが居なかったら、俺はもっと憎しみばかり考えて生きていたかもしれない。誰かと笑い合う幸せなど感じられなかったかもしれない。イクセルやシュニーと一緒にこんな風に笑いあえなかっただろう。

 ―――あの姉さんだった何かを憎むよりも、この子のことを守りたい、ってそんな風に思えたからこそ今の俺が居て。

「……ルンガーラ、俺に出会ってくれてありがとう」

 思わずそんな言葉が漏れて、ルンガーラは、俺の言葉に笑った。



 姉だった人は、目を覚まさなかった。


 それは、学園を卒業して俺がルンガーラと結婚をしても変わらなかった。あの時倒れたあの姉の姿をした何かは、ずっと、瞳を閉じているのだという。公爵家の本邸でずっと眠っているのだと。俺は一度だけその眠ったままの体を見た。姿は姉さんだけど、中身は姉さんではない事実を実感するのは何度だって辛かった。

 あれは姉さんではない、中身は違うということは俺の血縁上の父親や公爵家のものたちにはいってあるけれど、彼らが知っている”姉さん”は、あの女なのだ。俺の知る、俺の大好きだった姉さんのことを、知っているものはもういない。だって、皆流行病でほとんど死んでしまったから。引き取られてからの時間の方が長くて、俺の大好きだった姉さんは、他の周りにとって”ソニア・カーヴァンクル”ではないのだろう。そんなことは分かっている。目が覚めたとしても、あれは姉さんの姿をした何かでしかなく、俺の姉さんではないのだ。

 それがわかっているからこそ、一度だけしか公爵家には行けなかった。

 俺の”姉さん”はもう、居ない。いるのはあの女だけなのだ。

 

 そう受け入れて、姉さんのことを時折思い出しながら上級神官騎士として過ごす日々。


 そんな中で、カーヴァンクル公爵家から連絡が来た。用件も言わない、ただ早く来て欲しいというその言葉で。俺は訝しみながらルンガーラと一緒に公爵家に向かった。

 そこで、俺は――――、

「ニールなの……? こんなに、大きくなって」

 本当に、本当に久しぶりに、ずっと会いたかった人に会えた。

 俺の姿を見て、戸惑ったように声をかける。今のこの状況も、全て意味が分からないといった様子の”姉さん”。

「……姉さん」

 俺は姉さんの体を、いつの間にか俺の方が大きくなって、俺よりも小さくなっていた姉さんの体を抱きしめて、涙を流した。

「……ニール? どうして、私も、こんなに大きいの? ここはどこ? お母さんは?」

 姉さんは、あの女に体を使われている間のことを何も覚えていないようだった。周りにいる公爵家のものとか、姉さんが目が覚めたと駆けつけたらしい学園の生徒たちとかが、困惑した目を浮かべている。

 俺にとっての姉さんが、戻ってきたということは、彼らにとっての”ソニア・カーヴァンクル”が居なくなったということだろうけど。それでも、俺は―――ずっと会いたかった人に会えたことが嬉しくて、仕方がなかった。

 姉さんは自分もわけがわからないだろうに、困惑しているだろうに、泣き出す俺に心配そうな顔をして、抱きかえしてくれた。





 俺は諦めかけていたもう、会えないと思っていた人にもう一度会えたのだ。






 

 

一応本編はこれで完結です。

凄く難産だった話です。とりあえずこういう話を書いてみようと思い至って、勢いのままに書き始めたものの思ったようには書けなかった気もしますが、転生ものは大好きですが。

転生なら、赤ちゃんの頃からのものか、思い出して今まで生きていた人生と融合するとかそういうものが好きです。

ニールに関してはもう姉に会えないままでもいいかなと書いていましたが、書き進めるうちに姉さんと会えることにしました。あんまりだらだらと目が覚めた後のことを書くのもなということで本編はこれで終わりです。ただ、書きたいこととか、これから付け加えていこうかなとは思っています。

短い話で、色々突っ込みどころ多かったりとかしたと思いますが、ここまで読んでくださりありがとうございます。


2018年3月3日 池中織奈


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ