第二話「生徒会室へ」
「なあ? やっぱりそうだよな?」
「ああ、間違いないよな」
「へえ、そうだったんだ」
私立榎原高等学校。
伊達遊李が通っている高校だ。一クラス四十人程度で、二クラス。それが一年から三年まであり、遊李は一年一組となっている。
教室に入ってから、なぜか視線を感じる。
何なんだろうか? と自分の席で何気なく視線を向けながら眉を顰める。
「それにしても、驚いた。まさか、エレミアさんと一緒に登校しているなんて」
「いや、僕だって、本当は一人でいつも通りいくつもりだったんだ」
「それじゃあ、エレミアさんから?」
「まあ、そんな感じ。ケディ先輩に頼まれたことだけど。今日はちょっと色々聞きに行こうかなって」
篤は前の席。
その左隣が未来となっている。丁度真ん中辺りの席なので、なにやら視線も自然と集まってしまう。
「ケディ先輩にか。あの人ってなんだか、俺達とは違う世界にいるって感じがするんだけど。遊李はどう思う?」
「違う世界、か」
遊李も、数ヶ月前までは違う世界で戦っていた。と言っても、ゲームの世界、だが。それでも、ケディから感じられる違う世界にいる感じは、おそらく【アームズ・ワールド】が影響しているのだろう。
いや、そうでなくともケディがお金持ちの子供だというのは有名だ。
しかし、アームズ・ワールドの製作に親が関わっていたとは初耳であった。おそらく、学校中の生徒も知らなかったことだろう。
アームズ・ワールドは今や、全世界で広まっているアーケードゲーム。最初こそ、日本だけで稼動したが、半年足らずで外国でも稼動を開始した。
大会は、まだ日本で行った第一回しかない。
稼動したのは、四月になってから。
そして、大会が行われたのは、十月の中頃。世界中のプレイヤーは早く第二回の大会が行われないかと待っているだろう。
あの時と違い、武装の数もプレイヤーの腕もかなり向上している。
「ねえねえ、伊達くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「え? ぼ、僕?」
そろそろ先生が教室に訪れホームルームが始まろうとした時だった。まだ話したことがない女子生徒が、遊李に突然話しかけてくる。
先ほど、他の男子達と一緒に視線を向けていた子だ。
「あのね、この動画のことなんだけど」
そう言って、スマホの画面を見せてくる。
そこに映っていたのは、遊李とエレミアの戦闘の映像。朝、母親であるさやかに散々見せ付けられたあの動画だ。
そういうことだったのか……と遊李は内心でげっそりとする。
「ん? これって、遊李じゃないか?」
「い、いや人違いでしょ。ほら、僕ってゲームは」
ちなみに、この高校には、中学までの友達は一人もいない。同じ中学の生徒がいるとは思うが、それほど遊李とは関わりがないので、問題はないだろうと。
なので、遊李は新たな生活のためゲームは昔止めた。もうやっていないと。
とはいえ。
「そうかな? でも、このアームズ・ワールドってゲームと伊達くんの名前を検索すると」
そう言って、検索しようとした刹那。
「皆ー! 席につけー! ホームルームを始めるぞー!」
「ほ、ほら! 先生が来ちゃった! 早く戻らないと」
なんとか、助かった。
しかし、やはりだめかもしれない。アームズ・ワールドは全世界で知れ渡っているため、情報誌やニュースでも取り上げられたことがある。
そのため、あまりゲームに興味がない。ゲームを知らない人達にも自然と目についてしまっているだろう。つまり、東京大会で優勝した遊李も……調べれば普通に出てくる。
止めたとはいえ、公式の情報は消えない。
ネットで広まっている情報を全て消すことなど不可能。
(やっぱり、完全に止めることなんて無理だったってことかな……)
先生の言葉を耳にしながら、遊李は頭を抱えた。
・・・・・☆
その日の昼休み。
遊李は、教室から逃げるように出てきて、エレミアと一緒に高校側の生徒会室に訪れていた。数回のノックをすると。
「入っていいよー」
ケディではなく、女性の声が聞こえる。
だが、遊李は彼女のことを知っている。
「失礼します」
「失礼します」
中へ入るとそこには、ケディともう一人。夕日のような明るい色をした長髪に、整った小さな顔立ち。制服の上からでもわかる張りのある胸。
前髪を星の髪留めで止めている女子生徒。
丁度昼食時なので、弁当を食べているようだ。箸を一度置いて、女子生徒は緑茶のペットボトルを手にする。
「君達が、ケディくんが言っていた子達ね。知っていると思うけど、私が生徒会長の片岡星子よ」
「伊達遊李、です」
「エレミア・カティスタンです」
話がしたい。
そう休憩時間に伝えると、昼時に生徒会室に来てほしいと言われた。予想はしていたが、やはり生徒会長である片岡星子がケディと共にいた。
ケディがここを選び、星子が一緒にいるということは。
「あの、生徒会長」
「星子でいいよ。もしくは、星ちゃんって呼んで!!」
「あ、えっとじゃあ、星子先輩」
「もー硬いなー。まあ、この学校の関係上仕方ないかー。まあいいよ。それで、どうしたのかな? 遊くん」
なぜ、自分は遊くんと普通に呼ばれるのだろう、と思いつつ遊李は問いかける。
「星子先輩は、俺達のことは」
「もちろんケディくんから聞いてるよ。そもそも、私は生徒会長さん! 自分の学校の生徒のことは全て知っているのよ!」
マジで!? と遊李は驚くも。
「まあ、全部じゃないけどねぇ。さすがにプライベートなことは全部知ってないよ。まあ、名前は全部覚えているけど」
それだけでもすごい。
それはつまり中高の生徒全員の名前を覚えている、ということだろうか? そうだとしたら、尚凄い。彼女のことは、生徒会長挨拶の時に知った程度。
とても可愛らしく、元気があり、頼られるのが好きな人、という印象だった。
「え、っとそれでケディ先輩」
「うん、わかっているさ。その前に、今日はどうだったかな?」
「いやまあ、驚いた、としか」
本当にその一言である。
突然家にエレミアが現れ驚き、先輩には敬意をと言っておきながら自分のことを先輩だと思っていなくて。
そのことを包み隠さず、ケディに話すと苦笑である。
「それは、妹がすまないことをしたね」
「だから、無理だって言ったのよ。あたしを倒した奴と仲良くなんてできないってあれほど言ったじゃない、兄さん!」
「でも、エレミア。遊李くんは君にとって」
「そ、それは言わないでって言ったでしょ!?」
「おっと、ごめんごめん」
なんだろうか? エレミアのこの慌てよう。
何か自分に隠していることでもあるんだろうか。若干、顔が赤いようにも見える。先ほどの言葉を気にしていないちらちらと見てもいる。
……何なのだろうか?