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第一話「先輩と後輩」

「……うーん」


 遊李は頭を悩ませていた。

 その原因は、遊李の右隣でちらちらとこっちを見ながら歩いている少女エレミア。彼女のことは、ほとんど知らない。そして、一騒動あったこともあり、どう話したらいいのかわからない。

 とはいえ、このまま無言のままただ学校に向かうのもむずむずしてしょうがない。

 とりあえずは。


「なあ、エレミア」

「な、なに」


 エレミアはちゃんと反応してくれる。

 とはいえ、視線はお互い正面を見詰めていた。


「どうやって僕の家を知ったんだ?」

「兄さんが、教えてくれたのよ」


 やはり、ケディだったかと遊李は頭を掻く。


「それで、どうして僕と一緒に登校することになったんだ?」

「し、知らないわよ。突然兄さんが、あんたと一緒に今日から登校しなさいって……おかげでいつもよりも早起きしちゃって、ふわぁ」


 突然の欠伸をエレミアは必死に噛み締める。

 瞳から流れる涙を拭い、遊李のほうをちらっと見る。


「なるほど……リア充にしてやるって言うのは、こういうことだったのか」

「リア充? どういうことよ」


 これはエレミアも知っておいたほうがいいことだと思い、遊李は仮面の男の時の会話を包み隠さず話す。すると、エレミアははあっとため息を深い漏らした。


「あんた、そんな言葉に釣られたの?」

「べ、別に釣られてないし。ちょーっとだけ、仮面の男の誘いが気になったからついていっただけだからな!」

《いいえ! 明らかに、マスターはあの言葉に心奪われかけていました!! 証言者エルミが断言します!!》

「だからお前は出てくるなって言っているだろ!」

《なんでですか!?》


 立体映像で出てくるエルミは、遊李の言葉にショックを受ける。しかし、遊李はそんなもの関係ないとばかりに説明を始める。


「いいか。お前ってなんだ?」

《データ・ペットです!!》

「学校ってペットの持ち込み禁止なんだよ」

《はっ!?》

「ばれたら、俺の今後の学生生活に支障が出るんだよなー」

《……わかりました! わたしは大人しくベッドで漫画を読んで大人しくしています!》

「よし、いい子だ。後で、おいしいデータ食品を食わせてやる」

《わーい!》


 扱いやすくて助かる、と空を仰ぐ。

 そんなやり取りの後、丁度横断歩道で止まる。その待ち時間の最中、また遊李から話題を持ち出した。


「なあ、お前はどうしてあの世界に来たんだ?」

「なによ、突然」

「いや、俺が真面目にやっていた時に、お前が来ていたらもっと楽しかっただろうなーって思ってさ。開発者の娘ってことは、稼動前から知っていたんだろ? どうして、プレイしなかったんだ?」


 ケディやエレミアは【アームズ・ワールド】の開発者の子供。ならば、全国のプレイヤー達よりも先にその世界のことを知っていた。

 なのに、エレミアが始めたのは遊李がアームズ・ワールドを辞めてからだ。

 遊李がまだやっていた時ならば、かなり有名で、遊李も興味を示していたはず。

 それなのに、どうして今更? 


「そ、それは」


 理由を答えようとした刹那。


「あっ! おーい! 遊李!!」

「篤? どうしたんだ、家は反対側じゃ」


 高校からの友達である篤がこちらに駆け寄ってきた。

 篠崎篤。

 誰が見ても、普通にかっこよく身長も高い。土曜日の時に一緒に買い物に行く約束をしていたのは彼と。


「それがさ。日曜日に、未来の家に遊びに行ったんだけど。その時に、忘れ物しちゃって」

「まさか、それで取りに行ったのか?」

「そうだよ」


 篤の後ろでむすっとした表情を浮かべている黒いサイドテールの少女戸田未来。

 二人は、小学生の頃からの付き合いらしく。

 恋人同士、と思っていたがそうではないようだ。ただ、いつもむすっとしておりすぐ一人になりたがる未来を篤が放っておけないと関わっているのだとか。

 未来も未来で別に嫌な気分にはなっていない。ただ、いつもむすっとしているため本当に嫌がっていないのかは遊李にはまだわからない。

 横断ほどの信号が青に変わり、並んで歩きながら進む。


「別に取りに行かなくても、戸田さんに持ってきてもらえばよかったのに」

「あははは。そうなんだけど、なんだか未来に悪いかなって。それに、こうして遊李と一緒に……ん? あれ、その子って」


 ちなみに、遊李は未来のことを名前では呼べない。

 それは、あれだ。

 同年代の女の子と。いや、リアルの女の子と話したことが極端に少ないためまだ名前を呼ぶという行為までいけないのだ。

 リア充になるため、練習はしているのだがこれが中々。


「あー、こいつは」

「こいつとはなによ」

「中等部のエレミアさん、だよね? ケディ先輩の妹さんの」

「はい。そうです、先輩。初めまして、エレミア・カティスタンと言います」


 敬語!? エレミアの突然の変わりように遊李は絶句する。

 だが、明らかに今の彼女は、礼儀正しい後輩、という雰囲気を出している。しかも、出会ってから一度も見たことのない笑顔を浮かべている。


「あ、うん。初めまして。と言っても、俺のほうは一方的にエレミアさんのことを知っていたんだけどね」

「そうだったんですか? 嬉しいです」

「……」

《こ、怖いですマスター。わたし、あの笑顔が怖いです……!》


 漫画を読んで大人しくしていると宣言したエルミも、小声で呟きながら震えていた。


「でも、どうして遊李とエレミアさんが?」

「じ、実はケディ先輩がさ。妹と仲良くしてやってくれーって」

「ケディ先輩が?」

「はい。実は、土曜日。色々とありまして」

「土曜日……なるほど。だからあの時ケディ先輩が」


 そういえば、あの時篤に遊李が遅くなると伝えたのは、仮面の男としての彼ではなく。ケディ・カティスタンとしての彼で伝えに言ったらしい。

 まさか、こうなることを見越して? いや、ただ単純に学校の先輩としての彼のほうがいいからだろう。そもそもあの仮面のままで伝えに行っても怪しまれるのはまず確定。


「わかったよ。えっとじゃあ、お邪魔だったか?」

「いや、別に。どうせなら、このまま一緒に登校しよう!」

「いいのか? 迷惑じゃ」

「いいっていいって! な?」

「……はい。大丈夫ですよ」


 あれ? なんだか一瞬不機嫌そうな顔になったような……と遊李は首を傾げるが、気のせいだとすぐ視線を戻した。


「じゃあ、お言葉に甘えて。あ、僕は篠崎篤。遊李とはクラスメイトだ。そして、こっちが」

「戸田未来よ」


 相変わらずの会話の短さである。

 初めて会った時も、無口な子だなぁっとは思っていた。人見知り、と篤は言っていたが。本当にそうなのだろうか?


「よろしくお願いします、先輩方」

「うん、よろしく」


 その後、他愛のない会話を続け学校に到着した。左側が高等部。右側が中等部となっており、玄関で別れることになっている。

 体育館は共同で、いくつかの部屋も共同。

 特に中学生は高校側に言ってはいけないという校則はないので、よく廊下や教室などでは高校生と中学生が入り混じっていることがある。

 とはいえ、やはり抵抗がある者達は進んで行くことはない。たまたま廊下などですれ違う時は挨拶はするが、それ以上のことはない。

 積極的な者達は、仲のいい先輩後輩同士、という雰囲気を出している。


「それじゃ、俺達はこっちだから」

「はい。今日は、色々とお話ができて楽しかったです」


 何なんだろうか、これは。

 遊李は気になり、篤達が行った後、エレミアへと声をかける。


「なあ、どうしたんだよお前」

「何がよ」

「あの変わりようだよ。まさか、学校では優等生ってことで通っているのか?」

「別に。あたしは、あたしよ。ただ先輩に対しては、後輩として敬意を払わないと、でしょ」

「僕も先輩なんだけど……」

「そうだったかしら?」


 つまり、自分は先輩として見られていない、そういうことなんだろう。

 やはり原因は、土曜日の時に容赦なく勝ってしまったことが原因だろうか……。


(これで、どうやって仲良くなれって言うんですか、ケディ先輩)

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