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プロローグ

「……朝、か」


 遊李は、ぱちりとベッドの中で目を開ける。

 先日よりはぐっすりと眠れたほうだ。

 それに、今日は学校に通学するためしっかりと眠らなくてはならなかった。ベッドから起き上がり、パソコンのディスプレイを見ると、ベッドの中で未だにエルミが寝息を漏らしぐっすりだ。


「結局連絡とかは来なかったな……」


 あの時、仮面の男改めケディ・カティスタンと連絡先を交換した。しかし、昨日は何も連絡がなかった。まさか、忙しくて連絡できなかったのか? それとも約束というのは嘘だったのか……。

 いや、深く考えるのはやめよう。

 首を横に振り、遊李は自室から出て行き、階段を下りる。そして、洗面所で顔を洗い真っ白なタオルで水分を拭き取る。

 その後、部屋に戻り制服へと着替えた。白いシャツに手を通し、ボタンを留め、赤いネクタイを締め、ズボンを穿く。

 紺色のブレザーを手にそのまま、リビングへと向かった。ドアを開けると、味噌汁の良い匂いとエプロン姿の母親が遊李を出迎えた。


「あら、遊李。今日は早いのね」

「今日も、だよ。まあ今日は気になることがあったから若干早く起きちゃったんだけど」


 伊達さやか。

 今年で三十七歳になる主婦。栗色の長い髪の毛に、四十近いというのに若々しい肌。そして、豊満な胸。ちなみに、遊李がゲームにはまったのはこのさやかのせいである。

 結婚した今でも、ずっとゲームをしており、まだ小さかった遊李には毎日のようにゲームのことを教え、一緒にプレイをしていた。

 さやかいわく、若さの秘訣は大好きなことを全力でやり続けること! らしい。とはいえ、ゲームをやり続けていては健康に悪いのでは? と思うが、ご覧の通り彼女は家事全般もこなし、そこそこ頭も良い。


「高校生になってからは、ゲームをすっかり止めてしまったせいか?」


 すでに椅子に腰を下ろし、新聞を読んでいた父親。

 伊達遊輔。

 黒い髪の毛に、黒ぶちのメガネ。白いシャツにネクタイと一般的なサラリーマンな格好をしている彼は、見た通りのサラリーマンである。

 特にこれと言って得意なことがあるわけでもない。見た目も普通。さやかとは、幼馴染同士だったということで、昔からの付き合い。

 さやかのほうがひとつ年上で、姉のような存在だったという。いつもいつも、地味だった遊輔を誘ってはゲームを一緒にしていたとか。

 それが、高校の卒業式の時に遊輔のほうから告白し、今に至る。遊李は思ったのだ。父さんのどこがよかったの? と。

 すると、さやかは。


「さあ?」


 なんじゃそりゃ、と遊李は当時絶句した。付き合うからには、結婚するからには、その人のことが好きだ。この人のこういうところが良い、などがあるはず。

 それなのに、さやかはさあ? と首を傾げたのだ。

 遊輔に問いかけても、自分にもわからない、と苦笑するばかり。

 よく結婚して、自分を生んだなこの二人……と今でも思っている。


「まったくよ。なんで、やめちゃったの? 昨日だって、新作をせっかく買ったのに! お母さん、寂しいわ!!」

「仕方ないだろ。僕だって、将来のことを考えての決断なんだ」

「まあ確かに、そう言われると」

「なに言っているのよ、遊輔! 私と同等ぐらいのゲーマーだった遊李がゲームを止めちゃうなんて……! あ、目玉焼きが焦げちゃう!?」


 ゲームを止めると宣言してから、さやかは何度も遊李を止めた。宣言した時も、格闘ゲームで勝負よ! といつも通り誘ったのに、きっぱりと断られショックのあまり夕食を作れなかった。

 とはいえ、将来のことを考えて、としっかりと話し合った結果、しぶしぶといった感じだったが……。


「あ、でも遊李ちゃーん」

「な、なんだよ」


 朝食の準備を終えて、さっそく食べようとした時だった。

 さやかは自分のスマホを見せ付ける。

 そこには、遊李がエレミアと戦っているあの動画が映っていた。


「これ、遊李よね」

「し、知らない」


 と、そっぽを向き、味噌汁を啜る。


「お母さんは誤魔化せないわ! それに、ここにはっきりと伊達遊李って書いてあるじゃない」

「……誰かが、俺に憧れてそういうプレイヤーネームにしたんじゃないの」


 設定をしなければ、自動的に本名になるが、ちゃんと変えられるのだ。

 なので、日本人なのに外国人のような名前だったりすることもある。

 しかし、同じ名前があった場合は、同じにはできないのだ。


「確かに、そういう可能性はあるわね。でも、他にも堂々と伝説のプレイヤー復活!」

「うっ」

「【アームズ・ワールド】の世界に帰って来た!」

「ぐっ!?」

「とか、あるんだけど?」

「そ、それはあれだろ? 俺みたいなプレイングだったから、他のプレイヤー達が帰って来た!! とか勘違いしているだけだろ? ほら、よくあるじゃん。あいつみたいなプレイ!? あいつが帰って来たみたいだ……みたいなことって」

「まあ、確かにそういうのはあるわね。でーも、これは絶対遊李だと思うのよねぇ、私は」


 このまま追求されるとボロが出てしまう。

 どうすればいい? と思っていた刹那。

 ピンポーンっとインターホンが鳴る。

 チャンス! と思った遊李は、勢いよく立ち上がる。


「はーい、今行きますよー」

「逃げたわね……」

「ま、まあまあ」


 リビングから離れ、遊李は額に滲み出ていた汗を拭う。


「まったく、母さんのあの嬉しそうな顔。どうしたらいいんだ……」


 これからは、あれをネタにゲームの世界へまた引き込もうとするだろう。

 いったいどうすれば……と悩みつつ訪問者の下へ。


「どなたですかー?」

「……」

「え?」


 そこには、予想外の人物が経っていた。

 朝日が差し込み、キラキラと輝いている金色のツインテール。炎のように赤い瞳で、じっと遊李を睨んでいる。


「エレミア、だよな?」

「そうよ」


 土曜日に、ケディの依頼でアームズ・ワールドの世界で戦った少女。あの時と変わらずの挑戦的な目で、遊李を見続けている。

 身につけている制服は、遊李が通っている学校のもの。しかも、中学生のようだ。兄であるケディが通っているのだ。

 なんとなく予想ができていたが、まさか自宅に訪問してくるなんて。これは予想外だ。いったい、こんな朝っぱらから何のようなのだろうか?


「えーと……」

「じゅ、準備はできてるの?」

「準備? なんの?」

「が、学校に行く準備よ! できてないならさっさと済ませてきなさい! 待っててあげるから!!」


 と、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。

 どういうことなんだ? なんでいきなりエレミアが……そこで、遊李はハッと察してしまう。


(まさか、ケディ先輩のリア充になりたくないか、とかお礼っていうのは)


 エレミアのこと、だったのか? チラチラとこっちの様子を伺いながら携帯を操作している彼女を見て、遊李は眉を顰める。


 ケディ先輩……せめて、事前に連絡をくださいよ……。


 遊李は、いつまでも待たせるのも彼女に悪いと思い急ぎ学校へ行く準備を整えることにした。

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