第五話「仮面の素顔」
《はっはっはっは! やっぱりお前は、戻ってきたな。俺の宣言どおりだ!》
「う、うるさいな! あれは……一度だけ! 一度だけの約束なんだ。もう、戻らないって」
《そうかぁ? なあ、皆どう思う?》
《絶対、そのままあの世界にはまっていくな》
《遊李くんなら、絶対そうなるね》
《それに、あんな戦いを見た後だとなぁ》
遊李は、高校が違う中学まで一緒だった友達と立体映像電話で会話をしていた。まるで、その場にいるかのようにな立体映像で写された少年達が、けらけらと笑っている。
仮面の男から頼まれて、わがまま少女エレミアと戦い次の日。
丁度日曜日だったため、中学までの友達を代表して健司が電話をかけてきたのだ。
「まさか、公式サイトでアップされているなんてな……」
《そりゃ、当たり前だろ? 伝説のプレイヤー対期待の新人のバトルだぜ?》
《しかも、遊李くんは初期装備だけで勝ったんでしょ? 動画コメントでも大盛り上がりだったよ》
ベッドに寝転がりながら、遊李はため息を漏らす。
【アームズ・ワールド】の公式サイトでは、運営が、そしてその日ゲームセンターに遊びに来ていたプレイヤー達が選んだ試合の動画をアップする枠がある。
遊李は、そのことを健司から知らされ公式サイトへと行くと、アクセスランキング日刊第一位になっていた。タイトルも、伝説のプレイヤー伊達遊李が帰ってきた!? 期待の新人を初期装備で撃破! となっており、動画の最初のコメントがなぜか愛称電ちゃんの電子実況娘が書き込んでいた。
《伝説を、もう一度その目に焼き付けろ!》
何をやっているんだ電ちゃん……と頭を抱えた。
《掲示板でも、遊李が帰ってきた! また、先導して盛り上げてくれるのか! 次の大会も優勝頼むぜ! とか書き込まれていたよ。まあ、俺達が書き込んだんだけど》
「お前達かよ!」
掲示板のことは今知った。
動画アップサイト以外にも、プレイヤー達が日ごろの活躍や愚痴、疑問など書き込む掲示板もある。まだ全力で遊んでいた頃は、よく書き込んでいたものだと遊李は思い出す。
《それにしても、あの噂は本当なのか? 遊李》
「あの噂?」
なんのことだ? と健司の言葉に首を傾げる。
《なんだか、アームズ・ワールドの製作者と関わりがあるって話だよ》
「あー、そのことか」
《動画で見たけど、遊李が最後の一撃の前に使ったあのアイテム。あれって、今度実装される予定だったサポートアイテムの騒音玉だよな?》
《しかも、遊李くんが戦ったあのエレミアって女の子。アームズ・ワールドの製作関係者の娘とかって》
「……」
遊李は、勢いよく起き上がり先日のことを思い出す。あれは、エレミアに勝利した後のことだ。
後はさっさと高校での友達のところへと行って、買い物を楽しむだけだ! と思っていたのだが。
・・・・・☆
「ふう……」
《やりましたね! マスター! さすがです、マスター! データチキンもうまくなります!! はぐはぐ!!》
【データ・ペット】専用の餌をおいしそうに食べながらエルミは、大喜びをしていた。そんないつものエルミを見詰めていると、真横から突き刺さるような視線を感じた。
見ると、対戦相手のエレミアが……涙目になっていた。
「……」
「え、えっと」
どうすればいいかわからず、遊李は上着のポケットに手を入れる。
丁度、飴玉が入っていた。
なんで入っていたんだろう? と首を傾げつつも、それを手にエレミアへと近づいていく。
「なによ」
「飴玉、食べる?」
「あたしは、そこまで子供じゃない!!」
ですよねーっと、遊李は小さく笑う。
だがしかし、エレミアは言葉に反し、遊李の手からりんご味の飴玉を奪い取る。
「ま、まあだけど。人の好意を無下にはできないわ。だから、受け取ってあげる」
そっぽを向きながら、ありがとうっとお礼を言うエレミアが微笑ましいと思え、笑ってしまう。
「な、なによ! なに笑ってるのよ!!」
「いや、なんでもない。それよりも、僕はこれから予定があるから」
「あっ……!」
「ん?」
先に、ダイブルームから出ようとすると、エレミアが声を漏らす。それを聞き取った遊李は、足を止め振り返ると。
「……」
無言のまま、我先にとダイブルームから出て行くエレミア。なんだったんだろう? と思いつつ、遊李もダイブルームから出て行った。
そして、騒がしい歓声が響く場所へと戻ってくるとすぐに仮面の男が話しかけてきた。
「よくやってくれた遊李くん。おかげで、わがまま娘を止めることができたよ」
「別にいいよ。それよりも、僕はこれから買い物に行くから! あ、でもその前に」
どうしても、気になっていたことがあった。
満腹になり、遊李の肩dえぐっすりと眠っているエルミの寝息を聞きながら遊李は問いかける。
「あんた、何者なんだ?」
「まあ、予想はしていたけど。うん、いいよ。もう正体を明かしてもいいだろう」
ずっと気になっていた。
普通じゃない雰囲気に、高級の車を所持。更に、アームズ・ワールドで今活躍している新人を倒してほしい。
こんなの一般人では考えれない。それに、アイテムストレージに入っていた謎のアイテム。
あれはおそらく仮面の男が受付の時に入れたもの。
仮面の男は、ゆっくりとその祭などで売っていそうな仮面を外していく。
「え? う、嘘だろ……」
遊李は、仮面の男の素顔を知っていた。
そう、知ることになった。
なぜかって? そんなの当たり前のことだ。なにせ、仮面の男の正体は……。
「け、ケディ先輩!?」
現れたのは、モデルかと思う整った顔立ちの青年。周りのプレイヤー達も、その仮面の下から出てきた素顔に驚いている。
いや、遊李が一番驚いていると言ってもいいだろう。
なにせ、彼は遊李が通っている高校の生徒会副会長なのだから。そこで、遊李は思い出す。
(待てよ。確か、ケディ先輩のフルネームって)
「に、兄さん!?」
「え?」
大事なことを思い出そうとした刹那。
背後から聞こえるエレミアの驚愕した声。
兄さん。
やっぱり、そうだったのか。
彼、ケディのフルネームは。
「ケディ・カティスタン……まさか、エレミアのお兄さんだったんですか!?」
「ははは。その通り。エレミアは、僕の妹。そして、僕はこのアームズ・ワールドの製作者の一人であるナイル・カティスタンの息子でもあるんだ」
「製作者の息子?」
アームズ・ワールドは色々と謎多きゲームだった。運営は、有名なところがやっているために安心だと言われていたが。
まさか、ここで製作者の一人が明かされることになるとは。
しかも、その息子と娘がこの場にいる。
「じゃあ、あのアイテムは」
「そう、今後実装する予定だったサポートアイテムのひとつだよ。妹を止めるために、使う許可を得たんだ」
「や、やっぱりあれって……ひ、卑怯よ! 実装前のアイテムを使うなんて!!」
確かに、実装前のアイテムを使うのはどうかと思うが。
「とはいえ、いつかは実装されるし。注目プレイヤーが使えば、その実用性などを知らしめられる。これは運営や製作者達の一存でもあるんだよ、エレミア」
「で、でも!」
「それに、約束だっただろ? 誰が挑もうとあたしは負けない。だから、一度でも負けたら言うことを聞くって」
「そ、それは……」
反論しようとするエレミアだったが、どうやら言い返せない様子。そんなエレミアを横に、ケディは遊李の肩に手を置く。
「改めて、妹を止めてくれてありがとう。このお礼は必ず」
「は、はい」
こうして、仮面の男改め、ケディの依頼を完遂することができた。
だが、そのお礼というものがどんなものなのか。
そして、ケディがあの時に言ったリア充になりたくないか? というものが気になって、ぐっすり眠ることができなかった遊李であった。