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第三話「エレミア・カティスタン」

《あ! 迷子ですか?》

「誰が迷子よ! ん? なにこのちっこいの。立体映像? あんたの妹? 電話中だったの?」

「いや、エルミは妹じゃなくて」

《エルミはマスターのペットです!! ですです!!》


 確かに、ペットというのは間違えではない。

 しかし、人によってはその言い方は誤解を招く恐れがある。それを知っていた遊李は、馬鹿! とエルミに一喝。

 金髪の少女を見ると、やはり誤解をしているような視線を送っていた。


「あんた……そんな小さな子にペットとか言わせてるの?」

「ば、馬鹿! 誤解するなよ? こいつは、あれだよ。データペットだ!」

《ですから、ペットとわたしは言っているじゃないですか!》

「だから、そういう言う方はな。人によっては誤解を招くっていうか」


 エルミにとっては、間違ったことを言っていない。しかし、周りの人がどう思うのかということを遊李は説明しているのだが。

 まったく理解してくれない。

 すると、金髪の少女がより鋭い視線を送ってきた。


「人型のデータペット。そう、あんたがそうなのね」

「おい。そこで睨み合っているのって、伊達遊李とエレミア・カティスタンだよな?」

「マジかよ。伝説のプレイヤーと期待の新人がいったいなにを?」

「勝負じゃないの? あ、でも遊李さんってデータ消したんだったよね?」


 なにやら周りの視線が集まってきている。

 エレミア? その名前は、確かさっきまで大スクリーンで勝負をしていた。

 え? 遊李は自分の目を疑った。

 先ほどのスタイル抜群で、高身長のエレミアが目の前の? 


《わー、やっぱりアバターとリアルの姿は全然違いましたね、マスター》

「まあうん。そう、だな」

「なによ。リアルのあたしが、小さいからって馬鹿にしてるわけ? いいじゃない。仮想の体だからこそ、理想を求めても。それとも、あんたはもし自分の体が太っていたとして。自由自在にカスタマイズできる仮想の世界でもそのままにしておくの? あたしは、嫌ね。いや、そんなことはどうでもいいわ。いや、よくないけど……伊達遊李!」


 データスティックを突きつけられ、なぜか憎んでいるかのように睨みつけてきた。


「な、なんだよ」

「なんで、あんた。アームズ・ワールドの世界から消えたのよ」


 そのことか……と他のプレイヤーの視線が集まる中、遊李はため息を漏らし語る。


「リア充になりたかったからだよ」

「……はあっ?」

「何度でも言う! 僕は、ゲームから離れリア充になりたかったんだ! このままゲームばかりをしていては、必ず将来損する! 僕は自分の将来を見詰めて、決断したんだ!!」

「じゃあなんで、あんたここにいるのよ」

「うぐっ!? そ、それは」


 周りからも、だよな? あんなこと言っているけど、ゲームが忘れられないんだろ? リア充になるなんて無理無理と言われる始末。

 それが、遊李の心にダイレクトアタック。

 精神的なダメージを受けたことにより、謎の呼吸混乱。


「それは、僕が君を倒すために依頼をしたからなんだ」

「な、なによあんた」


 さすがのエレミアでも、仮面の男の怪しさには一歩引いてしまうほどらしい。そんな仮面の男は、苦しんでいる遊李の胸ポケットに手をいれ、ちょっと借りるよとデータスティックを引き抜いた。

 そのまま、受付へと持って行き、しばらくしてまた戻ってくる。


「さあ、これで準備完了だ。エレミア・カティスタンくん」

「なによ」

「是非、伊達遊李くんと勝負をしてくれないか?」

「はあ? 何言っているのあんた。こいつは、自分のデータを……あぁ、歓迎戦か。でも、いくら伝説のプレイヤーだとしてもデータが完全に消えた状態で。しかも、数ヶ月あの世界から離れていたのよ。そんな奴があたしに勝てるとでも思っているわけ?」


 明らかに馬鹿にされている。

 それは、自分が絶対負けないという自信からなのか。集まっているプレイヤー達も、ほとんどが同じ意見だが。

 中には、それでも遊李なら……と思っている者達も少なくはない。


「と、言っているが。本人は、どうなのかな?」

「……僕は」


 仮面の男からデータスティックを受け取り、しばらく考える。

 自然と過去の栄光が蘇る。

 初めて、アームズ・ワールドの世界にダイブし、さっそく対人戦をして勝利を収めた。当時から、センスはあると言われ続けてきた遊李は。

 皆の期待通り、大会で優勝。

 遊李自身も、心から喜び、一週間はにやにやが止まらなかったほど。それが、突然現実的なことを考え出し、世界から退場。

 そんな身勝手なことをして、果たしてあの世界はまた自分を受け入れてくれるのだろうか? 顔を上げると、エレミアがじっとこっちを見詰めていた。


「……うん。難しいことじゃない」

「なんですって?」

「だから、お前に勝つことは難しいことじゃないって言っているんだ。それに、一度やってみたいって思っていたんだよ。初期装備で上級者への挑戦ってやつを」


 刹那。

 周りがどっと湧く。


《ま、マスター! さすが、言うことが違います!!》

「てことは、あたしに挑戦すると。またこっちに戻ってくると。そういうことなのね?」


 威嚇するように、それでいて、どこか嬉しそうな視線でエレミアは問いかける。更に、周囲のプレイヤー達の期待の視線も集まる中。


「まあ、この一回だけな」

「……ふん。いいわ。一度だとしても、戻ってくるなら叩き潰してあげる! 伝説を倒し、あたしは更に強くなるわ!! 後で、言い訳したって遅いからね!!」

「決まり、だね」





・・・・・☆





 エントリーを済ませ、遊李とエレミアは二人だけでダイビングルームへと移動をしていた。

 真っ白な空間に、八台のカプセル型の機械が設置されている。

 ここでは、仮想世界へとダイブするためにプレイヤーが絶対訪れる場所。

 慣れたようにカプセルに腰を下ろし、差込口にデータスティックを差し込む。すると、頭上から顔全体を覆うようなヘルメット型の機械が下りてくる。


《皆さーん!! 元気ー? 電ちゃんはちょー! 元気だよー!! さて、今回はなんと! なんとなんと!? ちょー! ちょー!! スペシャルな戦いだよ!!》


 すると、ここから少し離れた場所にある観戦室の映像が目の前に流れる。

 いつもの元気な電子実況娘の姿が、声が、なんだか本当に懐かしいと思わせる。


《今回行われるのは、なんだか久しぶりかな? 歓迎戦!! だけど、ちょーっといつもの歓迎戦とは違うんだなぁ。なぜって? それはこういうことなんだよ! じゃじゃーん!!》


 電子実況娘のコールに大スクリーンに映ったのは、遊李とエレミアの顔写真。

 それを見た観客達は、当然大いに盛り上がる。


《いいね、いいね。その盛り上がり方! そう! 今、話題のシューティングスター! 期待の新人エレミア・カティスタン選手と。色んな意味で伝説のプレイヤー……伊達遊李選手によるガチンコマッチ!!

 これは目が離せない! もはや歓迎戦じゃない! 夢の対決がここにー!! というわけで、そっそく選手のお二人にコメントを貰っちゃおうぜー!! まずは、エレミア選手!》


 映像は切り替わり、ダイブルームにいるエレミア本人の顔が映し出される。変わらぬむすっとした無愛想な表情で、だが自信に満ちた瞳で口を開く。


《やるからには、全力でやるわ。いくら相手が伝説の古参プレイヤーだったとしても。それは過去の話よ。時代が代わったってことを思い知らせてやるわ!》


 確かに、伝説伝説と言われているが、それは過去のこと。

 そもそも、自分が伝説のプレイヤーと言われていることすら、遊李にとっては実感が湧かない。自分はただただ全力でアームズ・ワールドの世界を楽しんでいただけの古参プレイヤーだったのだから。


《自信満々の言葉の槍! いつも通りのエレミア選手でした! では、次に遊ちゃん言ってみようー!!》

《誰が、遊ちゃんだ》

《お久しぶりだね、遊李選手! 突然、いなくなっちゃって電ちゃん悲しみでデータの海に沈んで行きそうだったぞー》


 もちろん冗談で言ってるのだろう。観客達も、それをわかっているのか電ちゃんを泣かせたぞー! やなんて野郎だー! などと叫んでいる。

 冗談、だとわかっているんだよな? と遊李は少し心配になりながらもこほんと咳払い。


《電ちゃん! お久しぶりですー!!》

《ちょっ! お前、邪魔するなって! 今は、僕のコメント時間だぞ!?》


 言葉を発しようとした刹那。

 エルミが画面いっぱいに姿を現す。


《あ、久しぶりだねエルミたん! お元気だったー?》

《もちろん! エルミは、いつも元気いっぱいです! 最近の流行はエネルギーコーラのがぶ飲みです!!》

《いいから! お前はちょっと下がってろ! ……こほん。えーっと、まあなんていうか昔の実力を出し切れるかは正直わからない。だけど、この世界に恥じない戦いはするつもりだ。ちなみに! この一度抱けだから! そこのところを》

《はいはーい! 遊李選手ありがとうございまーす!! さあ、皆! アームズ・ワールドの世界に戻ってきた遊李選手のこれからの活躍を期待しつつ、応援張り切っていこうー!!》

《おおー!!!》


 だから違うから! 僕は! と言おうとしたが、機械が起動する。

 なんて奴らだ……と思いつつ、遊李は意識を次第に機械へとゆだねていく。この感覚、本当に懐かしい。仮想の世界へとダイブする。

 この感覚は、あの頃からずっとわくわくしていた。ずっと離れていたのに、その感覚は、忘れていなかったみたいだ。


《では、伊達遊李選手対エレミア・カティスタン選手によるスペシャル歓迎戦まで! カウント! せーの!!》

《三! 二! 一!!》

《レッツ!! ダイブ!!》


 意識が、いや体全体がまるで落ちていく感覚。

 ほんの数秒ほどその感覚の後、目を開ける。

 するとそこは……。


「帰って、来たか」


 仮想世界。

 ざっと見た感じは、高層ビルが並ぶどこにでもありそうな街並みだが……正面には、現実ではちょっとありえない人物が立っていた。

 長い銀色の髪の毛に、モデルのような抜群なスタイル。肌に吸い付くようなボディスールを身に纏い、手や足、背中には機械な武装をてんこ盛り。

 目を覆っていたバイザーを上げ、青空のように澄み切った瞳で遊李を見詰める。


「ふーん、それがあんたのアバターね。案外、普通。リアルのあんたみたいに」

「うるさいな。言っておくが、昔はこれでやっていたんだよ」


 現実とはかけ離れた容姿のエレミアのアバターに対して、遊李のアバターは現実とほとんど変わっていない。変わっているところと言えば、メガネがなく、ちょっと身長が高いぐらいだろうか?

 昔から、自分によく似たキャラクターで、名前でやりたいという気持ちが強かった遊李。そのほうが、よりゲームの世界で生きているというのが実感できるからだと語っていた。


「……まあ、知っていたけど」

「なんだって?」

「なんでもないわよ! 電ちゃん!!」

《はいはーい! では、二人がちゃんとアームズ・ワールドの世界にダイブしたので今回のルールを発表しちゃうぞー!!》


 いったいなんだったんだろうか? と気になりつつも、遊李は電子実況娘の言葉に耳を傾けた。

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