第八話「タッグマッチを」
「……」
(なんだろう。なんだか怒っているような。何か怒らせるようなことを……したかも)
直輝をボコボコにしなさいと、言われた後。
いつものように集合して下校をしているのだが……エレミアはまったく口を開ける様子がない。その表情は、明らかに怒っているように遊李には見えていた。
おそらく原因は、屋上での会話だろう。
あの時は、遊李も悪乗りをしてしまったと思っている。確かに、あんなことを言われれば不機嫌になるのも頷ける。
なんとか謝って、機嫌をと思った時だった。
「待っていたぞ! エレミア・カティスタン!」
「うっさい、邪魔よ」
タイミングがいいのか悪いのか、直輝が制服姿ではなく、最初の真っ赤な服で目の前に現れる。
機嫌の悪いエレミアは、いつも以上に相手を威圧する声音で呟く。
その言葉に、さすがの直輝も一瞬怯んでしまったようだ。
だが、すぐ気持ちを整え。
「随分と機嫌が悪そうだな。なら、その鬱憤をこの俺とのバトルで晴らせ!」
「ちょっと待った」
ここは、エレミアに言われた通り、自分がなんとかしよう。
遊李は、エレミアを護るように直輝との間に割り込む。
「伊達、遊李だな。なんだ?」
「その勝負、僕がやってやる」
「お前が?」
「そうだ。僕が勝った時はエレミアに付きまとうのは止めてもらうぞ」
「さしずめ、姫を護るナイトってところか。なら、俺が勝った場合はどうするつもりなんだ?」
直輝が勝った場合。
正直、そのことは考えていなかった。
どうしようかと考えていると、エレミアが遊李の背後から姿を現し口を開く。
「あんたが勝った場合は、勝負でもなんでも受けてやるわよ」
「勝負でもなんでもか……その言葉、忘れるなよ!! なら」
「タッグマッチで勝負をしない?」
「ね、姉ちゃん!?」
姿を現したのは、直輝の姉である茜。
もう仕事が終わったのか?
「あの、お仕事は終わったんですか?」
「あぁ、今は休憩時間なのよ。私の会社ここから近いから。どうせ、馬鹿な弟のことだから下校時間も君達のところに行くんだろうなぁって」
貴重な休憩時間を割いてまで、弟の暴走を止めに来たということか。
「それで、姉ちゃん! タッグマッチってどういうことだよ! 俺は、一対一のガチバトルをやりてぇのに!!」
「近日タッグマッチが開催されるのは知っているわよね?」
「そりゃ、知っているけど」
「どうせなら、いつもと違った形式で戦いましょう。それに、あたしも戦ってみたいし」
「それは、姉ちゃんの都合だろ! 俺は!」
「まあ、俺はどんな形式でも良いんですけど……」
チラッとエレミアの様子を伺う。
今朝の言葉から、彼女は自分とはタッグを組みたくはないだろう。エレミアがいやと言えば、申し訳ないがタッグマッチでの決着は。
「……いいわよ」
「え?」
「その提案、あたしは呑むわ」
「ちょっ! お前まで!!」
「はい、決定ねー。ほら、いつまでも人様に迷惑かけてないで、家に帰って宿題を済ませなさい」
「お、俺は認めてないからなー!!」
それじゃあね、と直輝の首根っこを掴み遊李達から離れていく。
《姉は強しって感じですね! それにしても、どうしたんですか? 今朝はタッグなんてーと言っていたのに》
その通りだ。
いったいどういう心境の変化なのだろうか。
「別に。茜さんも言っていたけど、いつもと違う形式で戦ってみたいって思っただけよ。それに、そのタッグマッチで優勝すれば、限定武装も手に入るんでしょ?」
「まあ、そうだな」
「足を引っ張られても困るから、家に帰ってすぐ日々野のゲームセンターに集合よ。いいわね?」
「お、おう」
言うだけ言って、さっさと歩いていくエレミア。
いつも以上に勢いがすごく遊李は一瞬押されてしまった。
・・・・・☆
タッグマッチ戦。
その名の通り、プレイヤー同士がタッグを組みトーナメントを勝ち進んでいく。大きな大会ではなく、一種のイベントのようなものなので、参加者はかなり多いだろう。
ゲームセンターによって行われる日にちが違い、最初は日々野で行われるが、日々野で参加したと言って、次に行われる秋葉原で参加できないことはない。
だが、優勝者のタッグは参加不可能となる。
武装は、同じもので限界突破できるのに、複数所持はだめなのか? とよく質問が出るが。問題はない。
大会やイベントで手に入る武装は、最初から限界突破されている。
そのため、他の武装のように複数所持で限界突破をする必要はないのだ。
「僕達が登録した時点で五十組か。結構多いな」
タッグマッチ戦は、明後日行われることになっている。
丁度土曜日ということもあり、参加者は多いようだ。
「ここから、一気に八組まで減らされる、か。まあ、いつも通りだな」
「どうやって、八組まで減らすの?」
「ペアから一人を選出して、バトルロワイヤルで、減らすらしい」
トレーニングルーム内で、アバターとして二人は告知を確認していた。エレミアは、二丁の拳銃を展開しトレーニング用のターゲットを早撃ちし終わり、こちらを振り向く。
「じゃあ、それはあんたに任せるわ」
「まあ、うん。任された」
「はむはむ……はむはむ……マスター! いつものように応援頑張ります!!」
「あ、うん」
新発売のデータ・ソースカツサンドを食べながらエルミはどやっと宣言。
「それじゃ、さっそく特訓始めるわよ。あのはげをボッコボコにしてやるために」
「相当嫌いなんですね」
「思い出しただけでも、ぞわぞわするわ。あいつ、一度負けたからって、色んなところで待ち伏せしていたのよ……四月になってから現れなくなったと思ったのに」
それは、遊李と出会った頃からだろうか。
それとも、四月になり学校のほうが忙しくなっていたから……。
「ともかくよ! あんたには、絶対勝ってもらうからね!! そのためにも、あたし達のチームワークを向上させるわよ!!」
「なんか、エレミアが言うと違和感あるな」
「ど、どういう意味よ!?」
「言葉のままの意味ですよー」
「なんですって、このちび!!」
「ちびって言わないでください! アバターが高身長だからって調子に乗らないでくださいよー!!」
相変わらず仲がいいなぁっと二人の口喧嘩をしばらく見詰めていた。




