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第三話「連絡先を」

「それで、どうして僕とエレミアを?」

「それがエレミアのためにもなって、君もそれでリア充になれると思ったから」

「エレミアのため?」


 どういうことなんだ? とケディの言葉に遊李は未だ居心地の悪そうな様子のエレミアへと視線をやる。


「ふむ。リア充になりたいか……あ、じゃあ私ともお友達になろう! うん、そうしよう! というわけで」


 一人で何度も頷き、一人で決め、立ち上がり遊李に近づいてくる星子。

 胸ポケットからメモ帳とペンを取り出し、さらさらと何かを書き始める。

 そして、ぺりっと紙を一枚取って遊李に渡す。

 そこには、星子の名前と電話番号、メールアドレスなど様々な連絡先が書かれていた。


「えっと」

「登録よろしく!!」


 ぐっと親指を立る押せ押せな生徒会長の勢いに押されながらも、遊李は小さく頷く。そして、その隣のエレミアへと視線を向ける。


「エレミアちゃんは、ケディくんから教えてもらってね。あ、そうだ! 遊くんは、エレミアちゃんの連絡先は教えてもらった? これから仲良くしていくなら、必要だよね?」


 そういえば、教えてもらっていない。

 もはや、星子の領域に入った二人はぎくしゃくながらも視線を合わせる。


「ほらほら。交換しちゃいなよ!」

「で、でも」

「……」


 戸惑うエレミアに対し、遊李はポケットからメモ帳とペンを取り出し自分の連絡先を書いていく。それを呆然と立っているエレミアへと押し付けた。


「そっちはまだ教えなくていいよ。教える気になったら、連絡してくれれば登録するから」

「……う、うん」


 こんなやり取り経験したことがない。

 遊李は、いやエレミアも何か変な空気になってしまい言葉が全然出てこない。エレミアは押し付けられたメモを見詰め、遊李は視線を逸らし頭を掻く。

 そんな様子を、星子は何度も頷きながら見詰め、ケディは微笑ましそうにしていた。





・・・・・☆





「それで、帰りはどうするつもりなんだ?」


 現在は、もう下校時間。

 部活や学校で居残ることがない限り、生徒達はさっさと学校から去って行く。遊李達も、同じだ。荷物をまとめさっさと教室から出て行く。

 そんな中、篤が問いかけてきた。

 エレミアのことだろう。


「それは」


 どうなんだろうか。

 あの後、二人で何も話さないまま分かれてしまった。このまま下校も一緒になることは……登校時でも、目立っていたというのに。

 エレミアがどう思っているか。

 そんなことを考えながら、玄関へと向かうと。


「あれ? あそこで待っているのって、エレミアさんじゃないか?」

「マジ?」


 篤が指差す場所。丁度高校と中学の分かれ目の壁に、エレミアが立っていた。まるで、誰かを待っているかのように。

 篤は小さく笑いほらっと背中を押す。

 遊李は、よくわからない気持ちのままエレミアへと近づいていく。


「え」

「遅かったじゃない。いつまでも待たせるつもりだったの?」


 名前を呼ぼうとした刹那、言葉を遮るようにエレミアから話しかけてくる。その表情は、強気で自信に満ちていて、なんだか嬉しそうにも見える。

 朝や昼の時とは大違いだ。

 いったい、何があったんだろうか?


「遅かったじゃないだろ。同じぐらいに終わったはずだし」

「それでも、あたしは待ったわ。女の子を待たせるなんて男としてどうなの?」

「いや、勝手に待っていただけじゃ」

「なによ、文句あるの?」

「別に」


 これ以上言い争っても、めんどくさくなりそうなので、エレミアの睨みを見て遊李は会話を止める。すると、我先にと下駄箱へと向かっていくエレミア。


「ほら、何してるのよ。早く帰るわよ」

「……了解」


 何なのだろうか。急に積極的になった。

 いや、これが本来のエレミア。

 おそらく、午後の授業の間に気持ちを切り替えた、と考えるのが妥当だろう。すでに、篤と未来の姿はない。

 学校から出て、携帯を確認すると一通のメールが届いていた。

 篤からだ。


「仲良く、ね」


 それは、エレミアとの仲を応援するものだった。


「どうしたのよ?」

「別に」


 どうやら、まだエレミア側からは連絡は届いていない様子。気持ちを切り替えただけで、まだ自分の連絡先を教えるまでの仲までは発展させないようだ。


《ふわあー。おはようございます、マスター》

「もう下校時間だっての」

《では、おはこんにちはー》


 学校から出ると、今まで静かにしていたエルミが姿を現す。約束通り、学校にいる間は大人しくしていてくれたようだ。

 こういうところは、忠実で遊李も助かっている。

 だが、毎日のように自分についてくることだけは止めてはくれないようだ。


「ねえ、出会った時から気になっていたんだけど」

《マスターを?》

「ち、違うわよ! ……あんたのことよ」

《私ですか?》


 咳払いをし、エルミを指差すエレミア。

 確かに、初めて見る者には、いや慣れている者達にもエルミが気になる対象だろう。彼女は【データ・ペット】と自称しているが、本当にそうなのだろうか? と飼い主である遊李自身も疑問には思っている。


「どう考えても、ペットって感じじゃないわよね。本当は何者なの?」

《エルミはエルミです!! マスターのデータ・ペットです!! あ、マスター! 今日は、ラブきら魔法少女の最新刊が発売する日です!》

「あ、うん。後で、本棚に入れておいてやるよ」

《わーい!!》

「漫画を読むデータ・ペットなんて聞いたことがないわよ……」


 その後、遊李は彼女との出会いを軽くだが説明した。

 エルミは、ゲームの登録特典。

 【アームズ・ワールド】の初期プレイヤー全てに配られたデータ・ペットの一体。そのシークレットだったと。

 運営にもちゃんと確認を取っているので、間違いはないと。


「エレミアは、製作者の娘なんだよな? そこのところは聞いたことはないのか?」

「シークレットがあるってことは聞いていたけど。まさか、こんな子だったなんて」

《あー! 私のこと馬鹿にしてますね! これでも、めちゃくちゃ優秀なんですから!!》


 自分で、自分のことを馬鹿にしているじゃないかとエレミアの視線が語っている。

 遊李も、これでもはいらなかっただろうなぁっと思いつつもエルミのフォローをする。


「まあ、確かに優秀だな。パソコンにウイルスが入って来た時も、それを一瞬で取っ払ってくれたんだ」

「データ・ペットがウイルスを? そんなの聞いたことがないんだけど」

《えっへん! 私は、他のデータ・ペットとは格が違うんです!!》


 その代わり、他のデータ・ペットと違ってすごく騒がしいので慣れていなかった時は、よく疲れていたものだ。


「ふーん」

「そういえばさ、お前家はこっちでいいのか? 普通に僕と同じ方向に帰っているけど」

「大丈夫よ。仕方ないから、あんたの家まで一緒に帰ってあげる。感謝しなさいよ?」

「なんで上から目線なんだ……」

《マスターに失礼ですよ!!》

「お前も、時々俺をナチュラルに馬鹿にするだろ」

《え!? そ、そうでしたっけ?》


 まあ、本人には自覚はないようだが。結局、自宅へ帰るまでエルミについて詳しく問いかけられ続けた。

 自宅に到着した後は、何事もなかったかのようにどこかへと去って行く。

 その小さな背中を見詰め、遊李は大丈夫なんだろうか? と若干心配になりつつも自宅へと入っていくのだった。

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