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第5話「葵」

葵視点の一人称です。

 わたしはずっとお姉ちゃんと一緒でした。

 生まれた時から側にいたお姉ちゃんは、言わばもう一人のわたし。お父さんやお母さんでもわたしたちを見分ける事は出来ませんでした。好きなものも嫌いなものも得意な事も苦手な事も全部同じ。わたしたちの幼少期はまるで鏡を見ているかのような錯覚を起こしてしまうほど似通っていました。

 わたしはお姉ちゃんでお姉ちゃんはわたし。わたしにとっては二人で一人の存在。


 しかし小学校に入学してから、わたしはお姉ちゃんと少しずつズレていく感じがしました。

 それは学年が上がるに連れて目に見えるほど大きくなっていきました。

 気付いた時にはお姉ちゃんは外交的でクラスのリーダー的存在。わたしは内向的でクラスの隅にいるような存在。得意な科目も好きな食べ物も変わっていきました。

 わたしは気付きました。

 お姉ちゃんとわたしは似ていた訳じゃない。わたしがお姉ちゃんの真似をしていただけだったのです。幼少期のわたしはお姉ちゃんを見て、お姉ちゃんと同じように振る舞い、お姉ちゃんと同じになる事に満足していたのです。しかし成長するにつれてお姉ちゃんの真似を出来なくなり、性格にズレが生じてしまった。当たり前です、わたしはお姉ちゃんではないのだから。お姉ちゃんは太陽、わたしはそれを反射して光るだけの月。

 小3になる頃には、わたしとお姉ちゃんは全くの別人になっていました。……見た目以外は。


 ……わたしはお姉ちゃんを追いかける事をやめました。

 髪を伸ばし、見た目からお姉ちゃんと違う自分になろうとしました。

 1年ほど経った時には、伸ばした髪のおかげもあり両親もわたしたちを見間違える事も無くなりました。わたしはお姉ちゃんの妹から『葵』という一人になれたのでした。


 お姉ちゃんは『茜』。

 わたしは『葵』。


 鏡合わせの双子は一人一人の姉妹になれたのです。……いえ、そう言うと語弊があります。わたしが自分とお姉ちゃんとは違う事に気付いたのです。ただそれだけの事。お姉ちゃんにとってはそれは当たり前のことだったでしょう。


 そしてその頃から、わたしはお姉ちゃんの事が気になり始めました。ちょっと前までは自分と同一存在だと思っていたお姉ちゃん。しかし、別人だと気づくと急にお姉ちゃんの事が分からなくなりました。だからわたしはお姉ちゃんの事が知りたかった。

 小さな頃からずっと一緒にお風呂に入っているのでお互いのホクロの位置まで知っているのに、この時はわたしはお姉ちゃんが未知の存在に見えていました。知っているはずなのに……知っていたはずなのに。


 わたしは学校ではあんまりお姉ちゃんとおしゃべりすることはありません。お姉ちゃんの周りにはいつも人がいます。先生、友達、男子……、お姉ちゃんはクラスの中心の人気者。わたしが入っていける余地はありません。


 だから学校以外では、わたしはお姉ちゃんに甘えます。登下校の時はいつも手を繋いでもらいます。寝る時は同じベット、お風呂も一緒。お姉ちゃんと一緒にいると安心する。お姉ちゃんの匂いを嗅いでいるだけで幸せになる。本当は学校でも甘えたいです。

 そして甘えれば甘えるほど、お姉ちゃんの事を知れば知るほど、お姉ちゃんの事がどんどん好きになっていく。お姉ちゃんを同一視していた頃とは比べ物にならないほどの甘えたくなる衝動に襲われる。許されるならば一日中一緒にいたいと心の底から思うほどです。


 5年生に上がってすぐの頃、クラスのとある男女が付き合い始めた。女の子の方はお姉ちゃんといつも一緒にいる子でした。それからクラスの女の子の間では恋の話が流行った。誰々が好き、嫌い、気になる、カッコいい……。机に突っ伏して寝ているふりをしていると嫌でも耳に入る。

 正直男の子の何がいいのか理解できない。デートするならお姉ちゃんと一緒の方が百倍楽しいはず……。

 お姉ちゃんのグループの会話も聞こえてきました。お姉ちゃんにも恋バナが振られていて、わたしはそれをドキドキしてそれを聞いていた。お姉ちゃんが「好きな男の子なんていないよ〜」と喋るのを聞いて心の底からホッとする自分がいたのを覚えています。


 ……恋。

 もし、一緒にいてドキドキしたり幸せな気持ちになる人がいるとしたらそれはお姉ちゃん。お姉ちゃんの事は大好き。話を聞く限りこれは恋らしい。でもわたしとお姉ちゃんは女の子同士だけどこれも恋って言えるのかな。でもでも……わたしはお姉ちゃんが大好きなんだ。

 わたしはお姉ちゃんに恋をしている……のかもしれない。

 なんとなく、そう自覚した5年生の春だった。



 そして、一度自覚してしまうと気持ちが止まらなくなりました。

 お姉ちゃんと手を繋ぐだけでドキドキが止まらなくなる。わたしはお姉ちゃん違って、あまり感情が顔に出ないのでバレてないとは思うけど……。それでも毎日の手を繋いで登下校の間はこの心臓の音がお姉ちゃんに聞こえてないか不安になる。


 お姉ちゃんの匂いが急に嗅ぎたくなって、お姉ちゃんの脱いだ服をこっそり嗅いだ事もあります。特に素肌に直に接触している下着は頭がクラクラしました。そんな自分の変態性に自己嫌悪してしまいます。

 他にも罰ゲームと称して、何度も自分の欲望を満たそうとすることもありました。お姉ちゃんを抱き枕にしたり、お風呂でお姉ちゃんをくすぐったり、服を交換したり……。無邪気な妹を演じて――何も知らないふりをしてエッチな悪戯してお姉ちゃんを困らせる事は本当に興奮しました。

 そして日に日に歯止めが効かなくなり、毎晩お姉ちゃんが寝静まった後にお姉ちゃんの匂いを嗅ぎながら身体を弄ることが日課になりつつあります。あまり激しくするとお姉ちゃんが起きるのであくまでこっそりと、ですけど。

 それと悪戯してて気づいた事なんですけど、お姉ちゃん性知識皆無です。わたしと一緒で無邪気キャラを演じている……ってわけではなさそうです。ピュアお姉ちゃんです。



 一学期が終わった日の夜。

 わたしは得意なゲームでお姉ちゃんを負かして、お姉ちゃんを抱き枕する権利を得ました。学校から帰る時に待たせてしまった負い目に漬け込んだので簡単にお姉ちゃんは言うことを聞いてくれました。

 ベッドに入るとお姉ちゃんに背中から抱きついてその身体を堪能します。うなじ部分に鼻を当てて深呼吸。全身を突き抜ける心地よい匂いに力が抜けそうになります。最近育ってきた胸を押し当ててお姉ちゃんの感触を全身で味わう。ついでにお姉ちゃんを抱きしめる形で胸の前の方に回している手でお姉ちゃんに気づかれないように、お姉ちゃんの胸をこっそり触りました。う〜ん、絶壁。わたしの勝ち。

 そんなこんな堪能しているうちに眠くなってきたのでお姉ちゃんに寄りかかるようにして、わたしは意識を落としました。


 次の日は盆地祭りでした。

 お姉ちゃんと色違いの浴衣を着てお祭りを楽しみました。去年までと違って、今年はお姉ちゃんとのデート(わたしの中だけ)。必死にいつも通り振る舞おうとしますが、度々にやけそうになってしまいます。

 大好きなわたあめを買って、お姉ちゃんの横で花火を見ます。えへへ、楽しいなぁ。

 ふと、お姉ちゃんがこちらを見ていました。ど、どうしよう。何でこっちを見てるの。恥ずかしい……けど、嬉しい。

 どうやらお姉ちゃんはわたしの綿あめが食べたかったみたいです。本当にピュアお姉ちゃん。

 そんなこと言われたら全部あげたくなっちゃうけど、そんなことしたらお姉ちゃんへの好意がバレてしまうかもしれない。だから「葵」らしさを演じ、一口だけ……と言った。


 お姉ちゃんが一口だけ綿あめを口に含み千切ると、細長くちぎれてしまった。

 そこでポカーンとするお姉ちゃん。多分取り過ぎちゃった、とか思ってそう。

 仕方ないから反対側からわたしが食べ取る。半分くらい食べたところで、このまま進むと…………ちゅーしてしまうんじゃないかと言うことに気づいた。えっ、どうしよう。止まらない…………。


 寸前のところでお姉ちゃんが顔を背けたのでちゅーをする事はなかった。良かった……。いや、残念…………なのかな。

 とりあえずお姉ちゃんの顔を見ることが出来ないよ……。花火見て気を紛らすけど、正直頭の中はさっきのちゅーでいっぱい。あのままちゅーしてたら、という妄想が止まらないよぉ。顔熱い。胸のドキドキが花火の音をかき消すくらい大きい。あぁ〜もぉ〜。


 気づいた時には花火は終わっていて、お姉ちゃんに「帰ろっか」と言われた。そこから家に帰るまでは記憶が曖昧。お姉ちゃんの顔見れないし、緊張し過ぎて何も喋れないし。なんかいつの間にかイカ焼き持ってるし。ナニコレ。


 家に帰り着くと流れるようにお風呂に入り、歯を磨いて、ベッドに入った。お姉ちゃんにおやすみなさいを言って早く寝ることにする。早く頭の中を巡っているちゅーを消したかった。



 寝れない。

 ちゅーが気になって気になって気になって気になって眠れない。

 ちゅーを意識すると自然と息が荒くなる。祭りで体は疲れているのに頭は考え事がグルグルしててまるで寝付ける気がしなかった。

 チラッと横を見るとお姉ちゃんがスヤスヤ寝ていた。さっきのちゅー未遂もお姉ちゃんにはどうでもいい事らしい。ちょっとイラっとくる。わたしばかりなんでこんなに悩んでいるの……。

 ちゅー、しようかな。

 いいよね、お姉ちゃんが悪いんだもん。わたしの気持ちにも気づかないし(気づかれたら困るけど)、わたしをおちょくるだけおちょくって自分がスヤスヤと寝てるし。

 …………コッソリすればバレないよね。

 わたしはお姉ちゃんの上にうつ伏せで乗っかって、お姉ちゃんの顔を見る。スヤスヤと眠っているその顔は胸の奥をキュンキュンとさせる。ぁあ〜、もぉ。

 ゴクリと唾を飲み込め、ちゅーをするための心の準備をする。……よし! ……イヤイヤ、もう少し待とう。……チャンス! ……やっぱり無理ぃ。


 わたしがそんな葛藤をしていると、お姉ちゃんの目がうっすらと開いた。寝ぼけ眼が周囲を見て、最後にわたしの方を見て一言。


「何やってるの葵。重いんだけど」


 至極ごもっともな意見です。

 さて、どうしよう……。


「……眠れない」


 とりあえずそう返答した。嘘ではない。

 でも、どうする。なんて言い訳する。のしかかりたかった、なんて言い訳出来るわけない。

 ……正直にちゅーしたかったって言う?

 いやいや、流石のお姉ちゃんでも引くって。だってわたしは実の妹だよ。同性の妹にキスしたいって言われたら引くに決まってる。あぁ、……でもちゅーしたいなぁ。


「明日は日曜だから夜ふかししてもいいけど、あまりお寝坊さんするとお母さんに怒られるよ」

「……ちゅー」

「ん?」

「……ちゅーしたい。……お姉ちゃんと」


 アレ?

 声に出しちゃった……。

 ほら、ポカーンとしてるじゃん。どうしようどうしようどうしようどうしよう。

 わたしはとりあえず何か言おうと必死に取り繕う。なんて言ったのかも思い出せない。必死に嫌われないようにちゅーの言い訳を並べてた……と思う。


「じゃあ……キス、しよっか」

「……うん」


 ほへ?

 えっ、ちょっとまっ……。


 でも優しいお姉ちゃんはちゅーしたいと言ったわたしを受け入れてくれた。お姉ちゃんとのちゅーは言葉では言い表せないくらい気持ちよかった。こんなの一度知ってしまったら忘れられない。


 もっともっとお姉ちゃんの事が好きになってしまった。


 もう、お姉ちゃんへの想いを抑えられる気がしない。お姉ちゃんはこれで最後と言っていたから、わたしは我慢しないといけないのだけど。









 そんなことできるわけ無かった。





 8月6日。

 プールで疲れて寝てたお姉ちゃんにわたしはちゅーをした。

 我慢……出来なかった。


 だってわたしは、お姉ちゃんの事が大好きだもん。


 ……大好きなんだもん。

無表情キャラが心理描写で饒舌に喋るというギャップが好きです。共感できる人いますかね……

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