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僕たちは戦争をはじめる  作者: だいだらぼっち
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僕たちは偵察をはじめる 1-2


1-2 僕たちは偵察をはじめる



「これが地上」


 高く木々の梢がそびえ、根を張った木の根がからみあう。

 深々とつもる落ち葉に、兵士たちはおそるおそる足をふみだした。

「い、色があるんですよね」

 画板をもち、鉄筆を何本も胸元につけた速記兵が枯れ葉を拾い上げる。

 若い女の声だ。

「日中は遮光板をはずすな。目が潰れるぞ」

 その手を先任曹長がつかむ。

 ヒカリゴケの淡い単色光に照らされる地底世界に色はない。

 モノクロの世界だ。

「はやく日が暮れればいいのに」

 速記兵は夢中で見たものを画板に描き始める。

 歩きながらも手を休めるつもりはないらしい。

「分隊長。先行します」

「頼んだぞ。おまえの目がたよりだ、ミルヒ」

 先任曹長が手近の木の上にワイヤーフックを射出した。

 非公式ながら地上で活動しているとうわさのレンジャー隊出身だ。

 腰のベルトの魔法動力のウインチがうなり、高枝に立つ。

 ワイヤを打ち出し滑車で滑空していく。

「おかしいな。鳥がいない」

 ミルヒ先任曹長は目を細めた。鳥のさえずりが聞こえない。

 遠くからどろどろと低音が轟いてきた。

「分隊長!」



 最初はねずみと羽虫の群れだった。

 おびただしい数のうごめきが絨毯のように森の奥からおしよせてきた。

『ミルヒ、ネズミの群れがおしよせてきた。地上ではよくあるのか』

『最悪です。分隊長、これは』

 魔法通信がノイズで乱れる。

 次は森の動物たちだった。鹿、イノシシ、クマ。

 あらゆる地をはう動物たちが立ちすくむかけぬけていく。

 大きなヒグマが唸り声をあげて走ってくる。

 分隊長は盾を構えた。

 魔法動力の装甲がクマの突進をうけとめる。

 剣でクマの喉もとから脳髄を一撃でえぐった。

「いいなー。あたしも晩御飯捕まえよう」

 小柄な魔法兵が駆け抜ける鹿の群れに雷撃を加える。

 バタバタと倒れる鹿の群れに歓声があがる。



『分隊長、これは大規模な狩りです。勢子が動物を追い込んでるんです』

『狩り?』

『地上の人間たちが大勢で森の動物を追い込んでるんです。声が聞こえます』

 遠くから太鼓をうちならす音が聞こえてくる。

 大勢の人間が叫んでいる。

『分隊長、俺が樹上にリフトアップします』

『重い装甲剣兵や人形兵を上げるのは無理だ。さきに速記兵と医療兵をあげろ』

 頭上にもどってきたミルヒ先任曹長がおりてくる。

 医療兵と速記兵をロープで結び、ウインチでひきあげる。

 太鼓と大勢の人間が走ってくる音がどんどん近づいてくる。

「こわい」

「鉄器は高額なはず、いざとなったら投げ捨てて逃げなさい」

 おびえる速記兵に先にリフトアップされる医療兵の声が遠くなる。


 わあああああああああああ

 大勢の人間が飛び出してきた。毛皮や布で包まれた汚れた男たち。

 地底人たちが金属資源を奪い尽くして四百年。

 地上は、石器時代にもどりかけていた。

 石斧、革張りの太鼓、角笛。

 つんぞく声と怒声。

「動物の革だ!」

「布!」

「金属だ!」

 地底人と地上人の四百年ぶりの遭遇は、お互いにとって高価なものをあげつらうことから始まった。

 地上人は地底人が身にまとう装甲を。

 地底人は地上人が身にまとう動物の皮や布を。

 太陽を捨てた地底人にとって植物から作られる布地や動物の皮は、大変貴重だった。

 ヒカリゴケの淡い光で育つ繊維質のキノコから織られる布しかない。

 地上の物はなんでも羨望の的だ。

 それは地上人たちにとっての金属も同じだ。

「地底人だあああ」

 地上人たちが歓声をあげる。

 目を血走らせた男たちが飛びかかってきた。

「きゃああああ」

 悲鳴をあげる速記兵が樹上にリフトアップされる。

 分隊長の装甲をしがみついた地底人たちが石斧や石のナイフで必死に削ろうとする。

 爪の先ほどでも持ち帰れば家宝になる。


『地上の軍はこれほどまでに貧弱なのか、ミルヒ』

『こいつらは近隣の農民です。動物たちを追い立てるために太鼓や大声をあげておいかけてるだけです』

『非戦闘員なのか』

『この森をぬけた先にこの狩りを催している王侯貴族たちが獲物を待ち構えているはずです』 

『回収地点でか。まずいな』   

 分隊長は盾でしがみつく男たちをなぎはらった。

 装甲兵の重量に踏まれた男が悲鳴をあげる。

 魔法兵の雷撃が走り、失神した地上人たちが倒れ伏す。

『我々は地上を目標地点までゆく。速記兵と医療兵をつれて森の終わるところで合流しろ』

『了解です。分隊長』



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