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それぞれの歩み

「は~い、これにて補習終了ですよ~」


二年B組の教室内におっとりとした声が響く。そして教卓の目の前にある机に突っ伏す生徒が一人。


「九常、先生…夏休みにこの量は違うと思うんですけど…」


「ふふっ、それもこれも全て司賀真くんが悪いんですよ~。『眠くて面倒なんでテスト行きません』て電話貰った時にはもう悲しくて悲しくてどうしてやろうかと思って…」


おかしいな、いつから学校ってこんな物騒な場になったんだろう…


「いや~、『人を(いたわ)る』っていう考え方もアリだと思うんですけどね~」


「司賀真君、一体どの口がそれを言いますか?」


何処から取り出したのか、木刀の先を顔に向けられる。ほんの数ミリというところまで。

しかしそこまでの動作が全く眼で追えなかった。一筋の汗が佰都の頬を撫でる。


「せ、先生…?授業中にそんな物騒な物振り回すのは余りよろしくないんじゃないでしょうか…?」


「おや?司賀真くんは可笑しなことを言いますね~。今は普通の授業じゃありませんよ~?」


眼鏡の縁を上げ、満面の笑みを崩さないまま、九常倫帆(くじょうみちほ)はそれでも溢れんばかりの殺気を収めない。


「ハイ、すいません…」


故に謝るしかないと頭の中の思考が固まった。


「素直で宜しいです」


すぐさま木刀を下ろす。そして再び補習の片付けを始めた。

佰都もやれやれといった風に帰り支度を始める。


「そう言えばこの頃聖園近辺での『魔神』の収束警報聴きませんね~」


作業を進めながら九常はポツリと言葉を作る。


「…平和な事は良いことじゃないですか」


「勿論それに関しては先生もそう思うんですが…何だか嫌な予感がしてですね~」


「まぁ何かあったら上の生徒会とかが何とかしてくれるんじゃないですかね」


「だといいんですけどね~。くれぐれも司賀真君は首を突っ込まないで下さいね~」


「何言ってるんですか…俺なんかの一般市民が戦える訳ないでしょ。それが期待の裏返しだとしたら遠慮しておきますよ」


「ふふッ、冗談ですよ。巻き込まれる可能性もなきにしもあらずなので気を付けてという事ですよ~」


「それはここに住んでいる人達も重々承知してます…」


…七年前に起こったっていうイレギュラーなケースもあるかもしれないしな…


佰都は言いながら思う。

しかし、自らの記憶にない事があるかもしれないと言われても、此方としては当たり前だが良く分からない。

それと同時にそれでいいのか、とも思う。

七年前の出来事もそうだがその前に何か大事な事がなかったのか…。

思い出される訳でもなく、思考は止まってしまう。

何時もこんな感じだ…

だが、気になりはしている。大切な物あるいは存在かもしれない。

それがあるだけでも今は救われているような気がする。


…やっぱり何かあった事は確かなんだな…


自然と佰都の口が綻ぶ。


「何ですか~司賀真君。笑ってなんかして…もしかして本当に何かやらかそうとしてます~?」


九常が表情を伺う。

それに佰都は溜め息を付きながら、


「本当に大丈夫ですって、何もしませんよ。それじゃ俺はこれで」


鞄を持って教室を出ようとする。


「は~い、気を付けて帰って下さいね~。明日はちゃんと宿題やってくるんですよ~。たかが六〇ページなんですからね~」


驚異的な現実がそこにあった。しかしここで素直に「はい、分かりました」と言ってしまうと完全に持ってこなければならなくなる!


「……」


無言のまま出ていこうと強行突破を試みる。が、


「へ・ん・じ・は?」


肩を掴む手には砕けるのではないかというほどの握力。この人ホントに教師か?

やはり大人の独り言など気にしないでさっさと帰れば良かったか…と佰都は酷く後悔していた。

だがまずは此処から生きて帰る事を最優先にしなければならないようだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



緻密な造りをした高さ五メートル程ある窓から映る景色はいつも自分達が慣れ親しむものとは異なり、人工物が一切ない自然の姿を現していた。自然と言うからには当然湖があり、森林地帯が広がる。

そんな穏やかな風景をぼんやりと見据え、少年は問う。


「なぁ~、俺らって何のためにまたこんな古くさい教会に集められた訳、フェイロス?」


「…はぁ、東護、何で貴方はいつもいつもそう話を聞いてないんですか…さっきそれについては説明した筈です」


呆れるような口振りでフェイロスと呼ばれた青年は東護の方を見る。


「何か話してたか、洲貝?」


対して東護はこれは話してくれないと察してフェイロスの言葉を無視し、質問の相手を右から左へ変える。


「だからソルークの生徒会長が今日此処に来るって事よ。本っ当に話聞いてないわねあんた」


「分かった分かった、そんなぐちぐち言ってっと背ぇ伸びねぇぞ」


「教えてやったってのに何なのよ!あんたも周りと比べれば小さいじゃない!やっぱ殴るしかないのかしら?殴るしか!」


「見た目的に子供(ガキ)だから仕方ねぇだろ。あと、お前よっか全然大した事ねぇよ。やるんならやるか?」


多分目の前の幼女(見た目)は身長一四五、六ぐらいであろうが…本人は断固として認めようしない。


「あぁ~!二人して何してるんですかまったく!」


仲裁に入るフェイロスを含め、それから数十分経過してようやく落ち着きを取り戻す三人。

紅茶を一気に飲み干し東護は再び問う。


「え、じゃあ何?今の今まで決まってなかったってことか?」


「いえ、五月頃にはもう決まっていたのですが、丁度その頃魔神がソルークのある西郭のエリアを襲撃しまして。生徒会長含め封印に対処していたと」


「決まったばっかの生徒会長を出す程の大物だったの?」


「ええ、その魔神の魔力量や監視員の調査によりその魔神の発生源や周囲の魔力に対する光体量の濃縮度からして、通常のケースと比べると異常な事態であるそうです」


フェイロスが小型の端末から空中に映像を映す。そこにはその調査によるデータや魔神が発生した周囲の状況などがあった。


「へぇ~、今回の発生源結構魔力で地面抉ってんな…規模もバカになんねぇし」


「ホント、こりゃまた派手にやらかしたわね…、聖園の近くだったら被害はそれなりに出てたかもね」


「それが不幸中の幸いですね。ですが今回までとはいかなくとも狂暴化した魔神が増えている事は確かです。もしかするとこれは…」


一旦息を置き、東護が口を開く。


「六災の予兆ってか?」


その言葉に他の二人は表情を険しくする。


「断定できませんがその可能性もあるかもしれません…」


三人は暫し沈黙を続ける。

再び世界を造り出した元凶が今に甦る。

七年前の事を抜けば、一五〇年以上前の災いが再び起ころうとしている。

つまりは二つの世界が、重なってしまう…


…マジで向き合う必要が出てきたってことか…


この道を選んだのは人間(じぶんたち)なのだ。

滅びを受け入れず別の“前”を向いた。

しかし、その代償は大きく、深い。

もはや永遠に返すことのできない代償に立ち向かう自分達は出来損ないの英雄であり続ける。

だがそこにまた生き甲斐を見つけた事は紛れもない事実であると、東護は思った。


…ん?


ふと自分の手元に生徒会の通信ウィンドウが開かれた。画面に触れ通信状態にする。


「何?」


『会議中のところ申し訳ありません。東郭側の外界の魔神の封印を終えました事を報告に上がりました、会長』


凛々しい女性の声が響く。東護は「あぁ~」と思い出したかのように返事をする。


「ご苦労さん副会長。悪いな仕事任せちまって」


『いえ、これも生徒会として当然の事なので』


「まぁあんまり無理すんなよ。お前自身が何考えてんのか俺にはわかんねぇが、たまには肩の力抜いて休んどけよ」


『…継承者は皆自らの意志を持ち、行動し、生きています。当然、私も。それは会長が一番知っている筈ですよ。ではこれから部下に撤退命令を出しますのでこれにて』


通信が切られウィンドウが閉じられる。東護がやれやれと嘆息を漏らすところを二人の生徒会長からの視線を感じる。


「振られてやんの」


「うっせ…」


からかってくる義御学園(ぎおんがくえん)の幼女(見た目)を軽くあしらう。


「しょうがねぇだろ本当の事なんだから。アイツは実力はある。だけど、それだけだ。土台っつーか、支えっつーか、そんなものがないんだよ」


…正確にはなくもないか…


倶篠(みなしの)学園生徒会副会長、紀王壬夜(きおうみや)は初めて生徒会に加わった当初から今にいたるまで微塵も性格を変えずにいる。

周りを拒絶し、自ら孤独を望む冷徹な感情。


「拒絶というより、巻き込まないように配慮しているようにも見えますが…」


「本当にそうだったら素直じゃないにも程があるわよ…」


「まぁ、これから色々と考えるところがあるんだよな」


「上が何言うか分かんないけどさ…やる時にはやらなきゃね。そのためのあたし達なんだから」


大きく腕を組み、洲貝巳御(すがいみお)は言う。

そして次の瞬間静寂を保っていたところに勢い良く開くドアの開放音が響く。三人の目線はそちらに向く。


「す、すいません…遅れました。ソルーク女学館生徒会会長…ミラ・セレティーユ、只今…到着…しました…」


そこには、完全に息を切らしたボサボサの銀髪ツインテールの女子生徒の姿がそこにあった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



荒れ果てた荒野の上に複数の継承者らの姿があった。それぞれが下された撤退命令に従い作業をしている。

その集団から外れ、ただ一人、空の彼方を見据える倶篠(みなしの)学園生徒会副会長、紀王壬夜は首から下げた金属製のペンダントを握り占めている。


「兄さん…」


そっと口から溢れた一言は吹き荒れる風に流されていった。


こんにちは、どっぴおです。

今回は酷く遅れました。なにぶん受験生の身なもんで…

今回はそれぞれの学校生活と人間関係を詳しく書いてみました。そろそろ本格的に戦闘シーンを書いていきたいと思います。楽しみです。

では、今後とも宜しくお願いします。

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