2 紳士とガリ勉
俺は華音に芝かれるような日を送ることになるなんて思ってもいなかった。でも、母が承諾してしまったので何も言えない。そして、今は車の中で華音に言われっぱなし。
「本当に和孝はどうにかしてもらいたいものよ。学校くらい早く起きなさいよね」
「いつも早く起きているような気がするけど……」
「そうかな。でも、最近は遅くなってきているけどどういうこと?」
「いや、遅くまで勉強しているからついね。今後気を付けるから」
「でも、私は紳士に育てるために頑張る」
俺はここでは返事をするしかないようだ。どう見ても、こいつに一撃くらわされそうで怖いよ。
「わかったよ。頑張ってついていきますよ」
「そのいきね。和孝もどのくらいまで成長できるか楽しみだわ」
「なんか、俺はあまり成長できないような言いぐさじゃないの」
「だって、だらしがないからよ」
俺は母にまで言われたらもうおしまいだ。末期ともいえるだろう。俺の時代は末期なのかも。
学校についてからも華音の監視はきつい。
「和孝。ちゃんと友達付き合いもしないと、大変なことになるわよ」
「それはないよ。別に、今まで以上の友達は必要ないと思っているし」
「そういうところ本当になってない。真司も言ってやってよ」
「確かに和孝は意外とだらしないかもな。勉強のこと以外は全くの知識ゼロのところもあるし、恋愛とかの経験とかもゼロとか、やばいと思ったね」
「それ、どういうことだよ。俺は勉強さえできればいいと思っていてだな」
「そういう言い訳はいらないよ」
華音は俺に向けて笑顔で返すけど、その笑顔が脅威ともいえるほど怖い。そして、何かをたくらんでいるようにしか思えない。どうすればいいの、俺。
「まあ、とりあえず料理とかできるように頑張れよ。俺は意外と作ったりするんだぜ」
「そうなんだ。真司もそういうのし始めるようになったのね。私はあまりそういうところはできないけどね」
「今からでも始めるといいよ。今後、彼氏ができたときにお世話できるようになると思うよ」
真司が華音に変なことを言うので、華音は顔を真っ赤にして教室を飛び出していった。あれれ、僕のことはそういうときは気にしないんだ。
「行ってしまったな。お前はそういうことを平気で言うから驚くよ」
「え? そう」
「なんで、なんでもなかったかのような振る舞いで答えるんだよ」
「いや、別に深い意味はないのよ」
おいおい、こいついきなりオネエになったぞ。俺は何も言えないよ。
そんな風に楽しく話していると、顔でも洗ってきたかのようにさっぱりとした顔をした華音が勢いよく戻ってきた。それも、廊下を走ってきてな。そして、ホームルームを始める前だったので、担任に注意されるというね。災難だなというか、ざまだな。




