3 学校にいる人見知り彼女の正体
俺が家に帰ってきたときには、まだ水奈はいなかった。それもそうだろう。五時限の授業を終わらせて帰ってくるのだから。すると、いきなり、着信音が俺の手の中で鳴り響いた。
「誰からだろうか?」
スマホの画面を見てみると、そこには真司と言う宛先が書いてあった。
「急いで帰って、用事でもすんだのか? それよりも、どんなことをメールしてきたんだろう」
スマホのロックを解除し、メール画面を開くと、そこにはこんなことが書かれていた。
――用事が終わって、メールしてみたんだけど。
華音との話は終わったのかな。俺には話してくれなかったことってなんだのかを知りたくって。メールしたんだけど。
真司は内容が気になるようだが、俺は普通に返信をした。
――華音は何も話さなかったよ。だから、少し何かを話して帰ってきたんだ。
すると、そのあとにまたもや返信がメールボックスに入っていた。
――そうか。わかったよ。
なぜ、真司は内容を知りたいのかと考えてしまった。どう見ても、真司には関係ないから話さなかったのだろうとは予測はできる。なのに、どうして。疑問が残るばかりであった。
しばらくして、玄関が開く音がした。
――帰ってきてしまったか。まったく、早すぎだろう。
水奈が帰ってきたときには、俺がリビングにいるときであった。早すぎると思ったが、時計を見てみると、大体五時間目が終わって、帰ってくるくらいであった。
――三時三十分
デジタル時計にはそう表示されていた。
「ただいま、お兄ちゃん。少し早く帰ってこれた」
「どうしてだ?」
「短縮の四十分授業だったから」
考えてみれば、水奈の学校は遠い。俺が通っている場所より少し遠くなる。こいつは歩いて帰ってくるので、四十分はかかる。それは中学が自転車通学を禁止しているからだ。
「いよいよ、二学期の始まりだね。同じ場所で違う学校と言うのも悲しいような」
「そんなことないだろ。大事な友達がいるんだから、そうでもないだろう」
「そうだけど」
いつもの水奈らしくなかった。なんとなく、悲しそうな顔をしていた。
「それじゃあ、私は二階に行くから」
「わかったよ。下のことはしておくから」
水奈は二階へと上がってきた。そして、俺はちょっとした仕事をやることになる。
「お風呂掃除でもするか」
俺はバスルームへと向かい、そこでスポンジを持って、浴槽をゴシゴシ洗って、時間が過ぎていった。
お風呂掃除も終わり、俺は二階へと上がって、勉強をすることにした。
「さて、勉強でもするかな。明日の予習として、英語の勉強からだ」
通学バックから教科書や参考書を取出し、机に向かって始めたときだった。ドアが乃っされた。 俺は欠かさずに、『どうぞ』といって水奈を部屋へと入室させた。
「どうしたんだ? 今から勉強するところなんだけど、重要じゃなければ悪いが、戻ってくれ」
この言葉で自分の部屋へと戻ると思いきや、逆に話し始めようとしていた。
「ねぇ、お兄ちゃん。とても重要な話があるの。これは後々にもかかわることだから、聞いてほしいの」
「それで、どんな話だ」
水奈は真剣な顔へと変化した。今までにないほどの真剣さだ。
「いい、お兄ちゃん。この家に私のいとこが引っ越してくることになってるの」
「なんだと――――。それマジかよ。そんな人を済ませる場所はないと思うけど」
俺は少しばかり納得がいかないと思っていた。いきなり、俺には相談なしでそんなことを決めてしまうなんてありえないと思うし、それをどうして今頃なのかと思うくらいだ。
「それで、一つだけ開いている部屋があるらしい。お兄ちゃんのお父さんの仕事場らしいけど、最近は帰ってこないから、使って大丈夫だとお父さんの方に聞いたらしいの」
「そうなのかよ。あの父親は意外と、『OK』とか出しちゃう人だからな。だから、俺が今の俺としていられるのだけど」
心の中で一つだけ思った。
――まったく、両親そろって勝手なんだからな。しょうがないことかもしれないけど。
しょうがない人たちでしょうがないが、今父親は仕事の関係でいない。群馬の方に転勤している。なんか、優秀な人材だといい、本部の方に呼び出しを食らったそうで、群馬県でひとり暮らしをしながら過ごしているというわけだ。
それにしても、そのいとこと言うのは、水奈と同級生なのかどうかはわからないが、どうせ女だろうとは予想はつく。そうじゃなければ、水奈とそこまで仲良くはないだろう。
「それで、その子は水奈と同級生なの?」
「違うよ。お兄ちゃんと同じ高校二年生」
「え――――――。本当なのか、それじゃあ、俺はあっているかもしれないじゃないか。どこかで」
「そうだね。あっているかもしれない。お兄ちゃんと同じ学校にいるから」
「それは、誰なんだよ」
水奈は口に出そうとしたが、一回深呼吸して、言い放った。
「それは、桜間華音と言う子なの」
「えぇ、俺と同じ中学で、同じクラスにいるあいつなのか。信じられないわ――。やっぱり、世間は狭いというものなのかもしれないな」
あまりにも衝撃な結末に俺は、さすがにどうしようもないかと思った。明かされていく真実。それをまるっきり知らない俺。情けない。どうしようもない男なのだと、改めて思い知らされた。
水奈は笑顔になって、言い残した。
「その子が来るからね。そのうち来るとか言ってたから、引っ越しの準備とかで忙しくなるかもよ。それじゃあ、邪魔者は消えるとしますか」
俺の部屋から出て行った。あれだけのことを伝えたというのに、平然とした顔でだ。信じられない。あまりにも衝撃であった。昔から知っているのに、いとこがいて、紹介解かないのかと思い返してみると、そんなにもかかわっていないことを思い出す。
「俺って、情けない男かもしれない」
やっと、自分の愚かさに気付いたのであった。




