16 和孝の知らない事実
いつの間にか、碓氷バイパスを抜けて、平凡な道に出ると、碓氷峠文化の村が左側に見えた。そこはなんか、鉄道が展示されているような感じであった。
「ねぇ、和孝。ここって、鉄道がある場所なの?」
「それは俺にいわれても、どうも返せないな。この辺は全く知らないからな」
すると、母が得意げに説明し始める。
「そういえば、ここは昔の鉄道とかが保管してあったり、実際に走っていた鉄道を運転したりできる施設なんだよ」
「それだけだと、説明不足じゃよ。ここは、昔に信越本線というのが軽井沢につながっていたが、長野新幹線ができてから、廃線となったんじゃよ。それで、この場所はその線路を一部使って、電車を運転できるってわけよ」
じいはとても得意げに後ろから解説を入れる。
「なんか、じいは自慢げに話しているように感じたんだけど。それはあれじゃろ。普通にそういうことを知っていたからだろよ」
ババはそんなじいに突っ込みを入れる。それに関しては何も言えないようだ。
「本当に、じいはそういうところあるよね」
母がじいについて話し始めてしまった。
「いつの話だったかな。いきなり、俺は特賞あてたでとかいって、驚かせたりしたよね」
「そんなこともあったっけ?」
じいは母が言ったことを否定した。でも、母の眼は欺けないみたいだ。
「そんなことばかり言って、本当はすごいことでもやってたんだろうけどね」
「そうなんだ。あまり、そんな印象はないけど」
でも、若い時はすごかったのだろうと、想像できた。
碓氷バイパスを走り、そのあとに高速道路へと乗った。ここからは、じじとばばの家の近くのインターの前橋まで向かう。
「なんか、楽しかったというか。すごい風景が見れたように感じる」
「そう。俺的には普通とかいう感じだったけど」
華音は少し目を輝いていた。雪がきれいであって、それがいい感じに見えたからだろうと思う。俺にはそんな光景はあまりうれしいとも言えなかったが……。まさかの泊りになるとは予想外であった。こんなこともあるだろう。でも、よくないお正月になってしまったことはとても残念だと思った。
――本当に俺には災厄な年になりそうだ。
俺は心の中で思うしかなかった。
前橋インターで降りると、いつの間にかじじとばばの家に着いていた。
「じいとばあ。家に着いたよ」
母が少し疲れた顔でこちらを見ていた。そして、戻ってきたのだ。群馬県に。
「なんか疲れたね。長旅立ったように感じる」
水奈が生意気なことを言うが、こいつは途中からずっと寝ていた。校則を降りた途端に目を覚まし、群馬についたという寝言を言い放ったやつだ。本当にふざけているとしか考えられない。まったく、仕方がない奴だ。
そして、じいとばあは車から降り、荷物を家に運び、挨拶してきた。
「それじゃあ、今日中には東京に戻るんだろ?」
「そのつもりでいるけどね。疲れていても、泊まってしまったから時間がないからね」
「そうかい。じゃあ、ばあが作った野菜でもたくさん持っていきな。少し、食生活にも気を付けるようにね」
「その辺はわかっていますとも。それじゃあ、また今度遊びに来るからね」
「おう。待っておるぞ。じあとばあは」
元気にじじが手を振りながら、俺ら一行は家を後にした。
「それにしても、いい祖父と祖母だったわね」
「確かにそうね。いろいろと買ってもらっちゃったし」
――いろいろ買ってもらった~!! ちょっと待て。あの時にショッピングしているときにいろいろと買ってもらっただって? 俺はそんなことしてもらっていないぞ!
そして、水奈は誰に買ってもらったのかを暴露する。
「本当にやさしいじじだったな」
「へ~。じいに買ってもらったんだ」
――なんだよ。女の子には花の下を伸ばしやがって。俺は何も買ってもらっていないんですけど。どういうことよ。これはよ。
俺のちょっとした怒りは収まることを知らない。
「そうなんだ。私なんてばあにブランド品を買ってもらっちゃった」
こちらも何かを買ってもらったようだ。まさかの二つの地雷を踏んでしまったようだな。じいとばあはよォ。本当にふざけんなよ。俺に内緒でね。
そんな俺のことなど知らずに、華音と水奈は話を続けていた。そんな横にいる俺はとても不愉快である。何も買ってもらうこともなく、ただ行っただけの軽井沢という結末で終わる予定だったのに、そんな不意打ちはちょっとどうかと思う。俺の人生というよりこの日常はどうなってしまうのかと心配になるほどだ。
疲れ果てている車内では、沈黙の時間が流れていた二人はつかれたのか、いつの間にか寝ていた。さっきまで盛り上がっていたのに、どこで眠くなったのかといいたい気分。それにしても、寝顔はとてもかわいらしい顔をしているのに、起きたら文句か、暴言しか飛んでこないんだから、本当に素直じゃないと思える。
「もう少し、砂になってくれれば、とてもかわいらしく感じるのにさ。それをひねったように覆してしまう印象はとても痛いと思うよ」
俺が発した言葉がわかったのか、二人は『そんなことないよ』というので、俺は驚きを隠すことができなかった。でも、心字はとても純粋なのはわかる。ひねくれてはいないのだから。




