4 にぎやかな休日
俺はアニメストであまりされたくはないことをさせられた。
「これさぁ、買ってよ。私ほしい」
「そんなことを言って。これって、コスプレとか言う奴じゃないか。こんなものを何に使うんだ?」
「それはね、お兄ちゃんに着せるの。じゃあ、その前に試着させちゃうかな」
「これを着ろというのか。冗談じゃないぞ。こんな変なもの。いやだぞ」
「変なものとは失礼な。すいません。これの試着をしたのですが……」
店員に問いかけていた。
「はい、分かりました」
女性店員が俺と水奈の近くまで近づいてきて、何をするのかを問いかけてくる。
「これをどなたがきますか?」
「この方です」
水奈は俺のことを指をさして、指名した。
「指で人を指すな――」
女性店員はクスクス笑った。何かがおかしいような気がした。
「笑うんじゃない」
店員は笑いが止まらないのか、まだ笑っている。でもすぐに収まり、俺は試着室に誘導されることになる。
「じゃあ、着てみてください」
コスプレを無理やり持ってこられて、着させられて、水奈が一言。
「意外と似合っているじゃない。これは、美人に近いじゃないの」
「マジでって、うれしくないわ――」
「そうだった? 私はてっきり……」
「お前は鬼かっ」
無理やりコスプレを買わされた。 これを家で着なくてはいけないという屈辱。
――不幸だ。なぜ、こうなる。本当に水奈、ふざけんなよ。しょうがない着てやるか。
家に帰りたくなくってもうおかしい状態の所まで来ていた。恥ずかしいことをさせられるほかにも、どうせ写真でもとらされるんだろうと予想がつくからだ。意外と、そんなところがすごそうな女であると俺は思う。
水奈と一緒に次の店に移ることにした。なんだか、アイドルっぽいものがそこらじゅうにあるような場所だ。もしかしたら、この場所はあの有名になったアイドルグループの場所では……。
店内はすごいものであった。エスカレーターにはポスターがあり、オタクやマニアが来そうな雰囲気が漂っていた。すると、水奈は何かを言いたそうな顔でこちらを見ていた。
「どうしたんだ?」
「ねぇ、お兄ちゃん。ここってさ。BBGの劇場だよね」
「なんだって、バカな兄とバカな妹がさまよってる?」
「そんな略し方あるわけないでしょ。ふざけてるの? 私もそこをバカにすると怒るよ」
「そんなことしらねぇ――よ。ただふざけただけじゃないかよ」
「何がふざけたなのよ。ほかの人の気持ちも考えてよ。まったく、アイドル好きを馬鹿にする気なのかな?」
「そんなことではないけど、ただ思いついただけなんだよな」
「じゃあ、よけいにふざけないで、お兄ちゃんのバカの変態」
少し怒らせてしまったようだ。それに、変態とまで言われた。その時は周りから『白い眼』でみられた。
「あの人って、妹にどんなプレイを要求してるのかしら」
「関係ねぇ――ところを突っ込んでくるな」
「あら、怖い怖い」
「ふざけてるのか」
「変態が怒っちゃった」
「うるせぇ――よ。いい加減にしろ」
見知らぬ女たちに怒ってしまった。それにしても、ひどい言われようだ。こいつが言っただけなのに、あんなことを言うなんて、どっちが変態なんだ。変態でそんなことを思うこと自体が変態の領域を超えているという話だ。
「何やってるのかなって言ってみた」
「何かのマネか?」
「いや、別に――」
何かと言いたがる水奈を見て、何やっているんだろと思うときがやってきたようだ。
「それよりも、悪かったよ。バカになんかしてさぁ」
「それでよし」
「どんな上から見線だ」
「じゃあ、下からこんにちは」
「なめてるだろ。完全にさぁ」
「いや、べ――つ――に――。ただ、哀れだと思っただけですけど、何か?」
今のはマジでウザいと思った瞬間であった。
――もうふざけてるだろ。バカにしすぎていることくらいわかっているんだよな。
こんな相手をするのは嫌になったし、バカげているようにも感じ始めてしまった。なめた顔面を殴りたいという衝動に襲われた。
「まあ、落ち着て」
「お前のせいだろ」
「いや、そんなこと言われると私惚れちゃう」
「気軽に、惚れるとか使うな。バカ」
照れ隠しだろうが、全然隠しきれてませんよ。どうするのですか? ちょっと大変なことになりそうだ。それはともあれ、オフィシャルショップへと足を運ぶことにしたのであった。
そこで何かのグッズを買った。そして、水奈は笑顔になった。今までのふざけた顔ではなかった。
油断していたときであった。何か危ないものを持ってきていた。世間から見れば危ないものはないが、俺にはちょっと危険度がMAXになるものである。
「これを着て、いい感じになるじゃないのかな?」
「なんで、そこで疑問形になる。俺に岐路と言うのだろうが、断る」
何か嫌な予見がするのは俺だけなのだろうか。それともみんなが悟るものなのか。不明である。
「何で着なくちゃいけないんだよ」
「それは決まってるでしょ。似合うからよ。そういうところは生かすの」
「生かしたくねぇ――。マジでやめろよ。俺の体力が持たないだけじゃなく、恥ずかし度があがっちゃうからさぁ」
「ふ~ん。そうなんだ。じゃあ、もっと恥ずかしいものでいいじゃないかなってことで」
「何でそうなるんだよ――――――」
俺の心の声が聞こえなかったパターンであった。あまりにも悲しいことである。ついていないと言えばついていないだろう。それはしょうがないことなのかもしれない。最終的に水奈が大量のお金ですべてコスプレを買った。
「それより、いくら持ってきたんだ?」
「財布には五万あるけど」
「あまりにもありすぎなんですけどォ――。そんなにはいらねぇ――だろ。盗まれたりしたらどうするんだよ」
「その時はその時。気にすることないって」
「お金持ちが言いそうな言葉を使いやがった。本当にいくらあるんだろうか」
「ざっと考えて百万円は銀行に預けてあるんじゃないかな」
桁違いの金額にびっくりするほかに、うらやましいと思ってしまった。俺のお小遣いは少ない。だから、こいつがそんなに持っているのが、ずるいと思ってしまうほど、貧乏なのである。
後々考えると、なぜ俺の場所に来たのかは俺には不明のままなのであった。何かと問題があるのだろうけど、その辺は触れないことにした。
自宅に帰る途中のことである。
「そういえば、俺は家でコスプレを着させられるんだっけ?」
「そうだよ。化粧もして、万全にしたあ・げ・るから」
どうやら、水奈は相当気合が入っているようだ。この気合いに飲み込まれそうで怖い。
「それじゃあ、約束だよ」
最後に見た笑顔はとても今までの中で輝いていた。




