14 今日は思い出を作る
――十一月三十日月曜日。
あの恐ろしい思いをしてから、一週間が過ぎたときだった。
俺的には、もう体験したくはないことであるし、関わりたくもない。
そして、今日は十一月最後の日。
明日からは普通に新しい校舎へと移動することになる。
だから、今日は特別の日。常磐商業高校との別れだ。名前は少ししかわからないが、学校としては違う。今までにないほどの日になることだろう。
俺は、いつも通りの時間に起きて、朝食を食べる。
いつもでは、静かな朝食も、今日が今の学校へ通う最後の日ともあり、珍しく話した。
「そういえば今日で、常磐商業高校の校舎ともお別れね。たった一年と半年くらいだったけど、いい学校だったんじゃないの」
と母が尋ねてくる。
「そうだね、たしかに与えられたものは沢山あると思う」
と答えた。そのほかの二人は無口。いつもと同じ朝と言ってもいいほど、日常的だった。
学校へとつくと、学校のことでいろいろと、盛り上がっていた。みんな意外と、いい学校だと思っていたのだろう。そんなクラスを眺めていると、真司が俺の席へと近づいて来るのだ。
「なんか、今日は一日は、学校のことで話題になりそうだね」
「そうだな。うちでも少しは話題にはなったけどな」
「やはりそうか。それでさぁ、向こうの校舎は新しいし、インターネット環境が整っているらしいよ」
「マジか。でも、うちの学校って携帯大丈夫だっけ?」
と質問してみる。すると、すべて知っているかのように、
「ダメだよ。だけど、明日からOK!になるらしいよ」
「へぇ――、まさか、使えるようにするとはね」
「それもそうだよ。持っている場所が違うんだよ。今まで県立だったのが、国立になるんだから、待遇が違うにきまってるじゃん」
「それもそうだな」
なんとなく、納得してしまった。そういわれていみれば、今までよりも校舎と校庭がでかいと聞いていた。
普通に考えて、校舎をおおきくすることは、応募人数を増やすということ。
今までの人は、落ちたら私立だというのに、来年は応募人数が多くなれば、私立に行く確率が少ない。
来年は、少しラッキーと言うこと。だから、水奈が受けても受かる確率は、今までよりも上がる。もしかしたら、家族が全員が同じ高校と言うことになる。父も母も同じ学校通しで付き合って、結婚したらしい。俺はすごいと思った。
――家族が全員、同じということは、なんとなくおもしろいことじゃないかと。
俺は少し異例な考えをしていた。
いつもみたいに考え事をしていると、チャイムがなり、ホームルームが始まった。
担任は、話す気満々の顔で、俺らを見ている。
「それじゃあ、今日で、この校舎ともお別れになりますが、どうですか? いろいろと学ぶことがありましたか?」
完全に、いつもの担任と違く、丁寧語だ。なんか、合わない。
「先生は、いろいろと学んだことがありました。そんな中でも、みんなと知り合えたのがよかったなぁ」
なんか、あったのかと思うくらい、変である。そんなときに、一人の子が、
「先生。なんか気持ち悪いですよ」
と言ったのだ。みんなそれはやばいという感じだったが、担任の反応は、
「いやァ――、なんか別れの言葉にみたいなことを言いたくなってなぁ、つい言ってしまったのだよ」
みんなは苦笑い。どう反応したらいいか、わからないのだろう。
そんなことで、最後の一言になった。担任からの。
「今日も一日頑張ろう。今日はいろいろと思い出を作っておこう。以上だ」
と言って、ホームルームは終わった。いつもとは、少し違った雰囲気だった。
それから一時間、二時間と、時間は過ぎていく。いつもみたいに……。でも、内容はいつもと同じ授業。何かやらないのかと思った。
昼休みへとなった。ここで、放送が入る。
『ビンポンポンパ――ン。全校生徒へ連絡です。五・六時限目は思い出残しとしまして、商業科の生徒のみミニ球技大会を行います。昼休みのチャイムが鳴り始めましたら、体育館へとお集まりください』
と言って、放送は終わった。
――学校側も、何か企画してたんかい。
と突っ込みたくなった。それを聞いた教室内は、練習をしよう的なことになっている。ほとんどの人が賛成していた。
クラス一同は、軽く肩慣らしをするために、第二体育館へとやってきた。
でも、誰もいなかった。俺らは、使い放題だと思った。
早速始めることにした。どうやら、ドッチボールをやるみたい。
――お前らは、中学生かぁ
と思っていた。
俺は練習を少し見て、会場である第一体育館へと向かった。そのあとから、うちのクラスの奴らがやってきた。
なんか、俺が先に行ったことがなんかよくなかったような感じだ。
昼休みも終わり、五・六限目が始まった。どのクラスもやる気満々。
それにかわって俺らのクラスは、少し冷静になっていた。でも、競技が発表される開会式には、みんなまじめ。
そんなことで、開会式が始まった。
「ただいまより、開会式を行います。最初に校長先生より挨拶」
という声が響いた瞬間、校長はステージに上がり、ステージに一礼した。そして、中央に立つ。号令がかかる。
「礼」
みんなが顔を上げると、マイクを太もものあたりから、胸のあたりに上げて、話し始める。
「みなさん、こんにちは。今日は連絡もなしで、競技大会を実施することについては、謝罪します。さて、私からの言葉は頑張れという言葉だけです。短く終わりにするためです。それでは、全力を尽くしてください。以上」
校長は、いつも以上に話を短めにして、ステージを降りた。その後は、球技の競技の発表だった。
「続きまして、競技の発表です」
こういわれた時は、みんなはドキドキ状態だろう。俺だってそうだ。運動ができない奴なのだから。
「それでは、発表します」
するといきなり、吹奏楽かしらんが、授賞式でよくありそうなジャガジャガジャ―ンというのをやり始めたのだ。
――ここは、授賞式かぁ。どんだけそれがやりたかったんだよ。
思わず、心の中で突っ込んでしまった。
最近は、突っ込みが多くなっているように感じる。水奈のせいで……。
「球技大会の球技は、ドッチボールです」
俺はまさしく、こけた。
――ドッチボールなんかい。
またもや突っ込んでしまった。でも、みんなが喜んでいるのでいいかと思った。
だって、歓声が体育館に響いているのだから。
開会式がおわり、どっちボールの競技へと入る。
最初の対戦相手は、
――二の三対二の一 第一コート
と担任が持っていた紙に書かれていた。
そして、俺のクラスは、二の一。初めて明かすことになった。今回は、二つのコートで行う。二の一のコートはステージ側だ。
俺らクラス一同は、準備運動をして、コートへとたった。
試合であるため、ちゃんと整列をする。
「それでは、二の三対二の一の試合を始めます。それでは、ジャンプボールを行います」
と言われて、クラス一同はいろいろな場所へと散らばる。
そんなときに、真司は、
「背が高いやつよ。ジャンプボールお願い」
「わかったよ」
と言った背の高いやつは、コートの中央へと向かっていった。そいつの身長は、百八十はあるだろう。
笛がなり、ジャンプボールだ。
相手のチームの奴らよりも、俺らのチームのあいつが背が高く、余裕で、ジャンプボールを勝ち取った。
その後、真司の方向にボールが来た。
そういえば、真司は運動系。投げる競技は得意なはずと思った。
俺が予想通り、ボールの速さが速く、ボールに二人も当たった。
笛が鳴る。今ので、こちらが優勢だ。
その後も、相手のボールになっても、真司などの運動系が取り、外野にパス。外野がいい感じにぶつける。
でもその一方、女子は結構あてられて、外野行き。
向こうも手加減はないみたいだ。ほとんどが外野へといってしまったが、優梨愛と華音は残っていた。
ほとんどの男子は、当てられても、外野で当てて戻ってくることで、うちの男子はいい感じ。
俺も負けじと、ボールをよけたりしている。今のところは一度も当てられていない。
――この感じで進めば、勝ちだと。
だけど、そんなにはうまくいくはずがない。相手も本気になり、男子でもあたりまくりになってしまった。
人数を見ると、俺らが十人。二の三が二十人。
大差をつけられてしまった。そんなときに動いたのが、この男、真司だ。
今まで見せなかった魔球を繰り出す。
「行くぞォ―――。おれの魔球だァ――」
といって、秒速二十キロの速さで投げた。それが十人ほどを捕獲した。
こいつは伝説を作った。十人アウトだ。
そのあと、十人当たったボールは、俺の場に転がってきた。
それをとる。そして、時間を見る。
――あと五十秒。
後がないと思えた。
俺は、そのボールを投げることにした。でも、相手は甘く見てる。絶対に当たらないと。
相手を見て、イラっとした。ふざけんなと。その時、おもいっきり投げたら、なんと二人もアウトすることができた。
その後、試合は終了。勝つことができたのだ。
試合終了後、俺はみんなからたたえられた。それはうれしかった。
クラスが温かいと思った瞬間だった。でも、その後の試合もある。みんな疲れていた。それでも、頑張ってコートへと向かっていた。
球技大会が決勝戦まできた。
俺らは三回戦あたりで敗北してしまったが、クラスのみんなは輝いていた。
特に、華音や優梨愛、真司に、俺らのボスと言っていい田江島祐仁。
こいつらが、一番活躍しただろう。そして、みんなが笑顔になったのだろう。
その前に田江島は、俺の一年の時にできた友達。一番仲が良かった。真司と一緒で。
そんなこいつが活躍してくれたんだ。よかっただろう。
今後は、こいつともかかわることになるだろう。それが、新校舎言った後でもなぁ。
球技大会は無事に終了して、放課後へとなった。最終的優勝したのは、三の一。
運動部が多いクラスとして有名だった。俺的には、やはりと思えた日だった。
こんなにも、幸せな時はなかった。
そして、明日からは新校舎だということに楽しみに、家へと向かったのだった。




