9 静かな夜が怖い
家に着いた時には、安心感と疲労感が一緒に訪れた。やはり、プレゼンで緊張しすぎたことがわかる。それに、家に誰もいないという幸せで二階へと駆け上がる力だけはあった。二階へ上がり、自分の部屋へと入ると、そのまま、ベッドにダイブして、いつの間にか目が重くなり、夢の中へと引きずり込まれた。
重たかった目を少し開けてみると、目の前には水奈がいるのであった。そして、水奈は俺が起きていることに気が付いていないみたいで、話しかけていた。
「起きてよ。起きないといけないことしてしまうよ~」
「……」
「起きてよ、まったく。き……キスしちゃうぞ」
「お――――い。何をしようとするんだ――――!」
さすがにいけないワードを聞いたので、俺は反応してしまった。もう少し俺に話しかける水奈を見ていたかった。
「何っておはようのキス」
「寝ぼけたこと言っているんじゃねぇ――。誰がお前とファーストキスなんかするものか」
「何照れているの。嘘に決まっているじゃん」
半分照れた状態で心の中の言葉じゃないというのがわかる。さすがに、最近はこいつの行動も読み取れるようになってきた。そして、心の中で思う。
――バカだろ。そういうのは顔に出さないようにしろよ。それじゃあ、すぐにばれるぞ!
言いたいことだが水奈が傷つきそうなので、心の中だけにしまっておいた。水奈は正気を取り戻し、リビングへと向かった。俺もそのあとをついていくかのように向かった。
リビングでは母が料理を作っていた。
「やっときたわね。待っていたのよ。ほら早く座りなさい」
「は――い」
俺ら二人は返事をすると、席へとついた。今までなんもなかったかのように……。そして、俺ら二人は食べる前の決まった言葉をいい、食べる。
「いただきます」
定量なおかずが四つの皿にのせられ、豪快に食べ進めていった。隣では女子では見られないような勢いで食べているが、その食べ物がどこに消えていくのかは俺は理解できなかった。そして、水奈も理解をしていないのだろうと思うことで知識のなさを補おうとしていた。
夕食を食べ終えた俺は食器を水道に持っていき、スポンジに洗剤をつけて洗う。そういえば、食器を洗うのはいつぶりだろう。最近は勉強のために食器はそのままにしていた。面倒なことはしたくはなかったというのは本音だろう。だが、昔は勉強をしない代わりに家事を少しずつやっていたのを今思い出した。俺はその思い出に浸っていた。
自分の部屋では明日のことを考えた。華音が明日からすむことになるから、その準備で俺はいかなくてはいけない。だが、華音が増えたところで問題はないと思う。水奈とは全く性格が違う。でも、それはどうなっていくのは俺には予想はできない。ただ静かな生活をしたいだけなのにと叫びたくなってしまった。