3 日常が戻ってきた休み時間
最近の学校生活は退屈しない。でも、周りからの目線が痛いのは確かなことだ。今までは俺に対する視線はガリ勉野郎であった。それが、華音と水奈が来て、大きく変わった。それに俺自身も大きく変わった。それが実感できるのは、今までの日常と異なる点だ。
担任のいじりも慣れてきたが、何かを失ったような気がしてどうしようもないのだ。
休み時間になると、俺の席の近くにいつもの奴がやってくる。
「相変わらずのいじりだな。お前も大変だな」
「それはどうも。なんか、日課になりそうで怖いわ」
「それ、わかる。俺でもあの空気は無理だわ」
「よく言うわ。お前ならあのくらいかわせるだろう」
「そんなことはない。俺にだって、羞恥心や苦手なものくらいあるよ」
そんなこと言っても、いつもかわすのがうまいのがこいつ。どうせ、俺がいじられている間も楽しそうに見ていたに違いない。だって、そういうやつだからだ。
「今、『真司は俺のことを馬鹿にしてたに違いない』とか思っていたんだろ。俺がそういうやつだからって。ひどいよ」
真司は笑いながら、俺のモノマネをして来たのだ。本当に人を馬鹿にするのが好きな奴だ。というよりも、俺の心が読まれているんですけど。これってマジでなんだよ。
「まあ、あまり馬鹿にすると頭によくないから、この辺にしておくか。まあ、お幸せに。俺も探さないとな」
「おいおい、それどういうことだよ。馬鹿にすると頭によくない。よくいうよな」
「それほどでも」
本当はほめていないのに、照れるポイントか。まあ、冗談だろうけど。
「ほめてない。それよりも、彼女いなかったんだっけ?」
「こんな風に純粋な質問をされると余計に心に刺さるなぁ~。相変わらず、容赦ないね」
真司はそれをいうのかという風な顔でこちらを見ている。どう見ても、お前はいいよなとか思っているんだろ。おい、そうだろ。お前のことだから、そこまで深刻には考えていないんだろ。
「それはおまえもな」
「そんな真顔で言わなくてもいいじゃないの。というわけで、俺には彼女なんていないぞ。できたことはあるが、なんかねぇ~」
真司の発言に俺は引っかかる。『できたことはあるが、なんか』って、お前にも幸せなときが会ったんじゃねぇ――か。それに彼女できたことない人に、彼女が微妙みたいな反応をするな。こっちが余計に傷つくだろ。本当に、人のことを考えているのか。
「お前がそういう性格だから逃げられたんじゃないの。すぐに馬鹿にするから。どうせ、彼女ができた時も相当からかったんだろ」
「そんなことあるわけないだろ。俺だって、お前の時と彼女の時で変えるわ」
これはびっくり。そんな風に使い分けることもできるんだな。
「そうか。お前にもそんなことができるんだな。意外だよ」
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。だとすると、俺はやはり馬鹿にしやすい性格ってことになるじゃねぇか」
「そんなことはないような。あるような」
どっちなんだい。とっさに悲しそうな演出を入れてみたのに、こいつには全然効かない。どういうことなんだ、何〇て〇だ~。
「まあ、せいぜい頑張りなよ。お前は大変そうだからな」
「大きなお世話だ。二人の相手をするだけじゃなくて、ほかのやつを相手にするのはたいへんなんだぞ」
「そうだろうな。人なんてそんなものさ。まあ、日常になってしまえば、今の大変さなんて吹き飛んでしまうけどな」
なんだろう。真司のくせにいいことを言っているような気がする。それとも、いいこと言っている風に思わされているのか。
それよりも、俺の周りにはなぜ、少し面倒な奴らばかりが集まるのだろうか。それとも俺の性格が問題なのか。
「な~に考え事してるんだよ。今の生活が充実していいじゃないか。この生活ができるのも高校生の時だけだぞ。それに、来年には受験生だ。大学や専門学校あるいは就職を考えなければいけないときになるんだぞ」
「それもそうだよな。ガリ勉で通ってきたからよくわかるが、大学も今ではどうしようか悩んでいるんだよな」
「あれ? お前ってどこに行くって考えていたんだっけ?」
「徳作経済大学だった。今まではな。でっ、ここに編入を強制にされてからこのままエスカレーターで常磐大学にでも入学しようかなと思ったんだ」
「なるほど、だから勉強に対する意欲が下がったのか。それとも、高校生あるあるの性欲に負けたか?」
「そんなことあるわけないだろ。この俺だぞ。何事にも勉強に尽くしてきたんだ。そんなことは……ありえない」
「おい、今の間は何だ? あれだろ、妹ちゃんと華音に襲われたことがあって、それからお前が襲っているんだろ。確かに男子高校生の性欲はヤバいものな。あんな二人がいたら、手を出さないわけないだろうな」
真司が大きな声でいうものだから、クラスのみんなからの視線が集まる。それもすごい視線だ。このまま焼かれてしまいそうだ。
「おい、声がでけぇ――ぞ。周りに聞かれたら、どんな目にあると思っているんだ」
「お前がイチャイチャなのは、ここにいる奴ら全員知っているから安心しろ」
「逆にそれは安心できるわけないだろう」
「おっ、華音もこちらを見ているな、まんざらでもないようなご様子で見てるぞ。早くだきしめてこいよ」
「おい、そんなこというなよ。あいつに聞かれたらどうするんだ」
「ここにいますけど、どうかした? それにしても、ほんと――にいい性格してるわね、真司は」
こちらを見ていた華音がこちらの話していることを察したのか、背後から近づいてきたらしい。全然、気が付かなかった。こいつはもしかして、エスパーなのか。そんなことはあってたまるか。ということは、俺のこともよくわかって……。そんなことあるわけないか。
なんて、考えていると真司が笑顔で答えていた。
「それはどうも」
ほんと、いい性格してるわ。完全に華音をおちょくっているよ。
「あっ、むかつくわ、その顔。どうにかしてやりたい気分だわ」
「えっ? 何をするって? 言って御覧なさ――い」
「ほんと、むかつく」
華音は今でも殴りそうな体制であった。これはここで話をそらさなければ……。
「それで、何しに来た?」
「何しに来たじゃないでしょ。私のことを二人して見ているから来ただけじゃない。男子の視線って思いのほか、気づくのよ」
「それはお前が気になっているからだろ」
華音は真司の発言に、顔を赤くして真司を殴る。それを見ている俺は、真司はまんざらでもないご様子で殴られている様子を見て、唖然とした。こいつ、やはりMだな。
「そっそんなことないわよ。何勘違いしているのよ。これだから男子はどうしようもないわ」
「お前だけには言われたくないし、照れ隠しでツンデレを発動しなくてもいいから」
なんか、攻撃したくって華音に爆弾を投げたのだが、それを投げ返されたかのように俺にもこぶしが飛んでくる。本当にこいつのこぶしは痛くってたまらない。
「本当に仲がいいお二人さんですな。俺も見習わないとな」
「「それはどういう意味?」」
真司が茶化したことでなんか恥ずかしくなった。当然、華音も恥ずかしそうにしている。男女が仲良しというのは、高校生にもなるとなぜか知らないけど恥ずかしくなるものだな。
それにしても、はたから見たら仲がいいように見えるのか。まあ、実際には仲がいいというかひかれあっているのだものな。それはそう見えて当然か。
俺は1人で自己解決をしてしまった。でも、華音は『自己解決なんてしているんじゃないわよ』みたいな圧力をかましてくる。本当に俺たちって仲がいいのかね。本当に華音は俺のことが好きなのかねと思うことがただある。
「そういうところが、仲がいいというんだよ。この学校では公認のカップルだからな。あきらめろ。お前ら二人とも素直になっちゃえよ」
なんだろう、この引っかかる思いは……。いつもは誤魔化していた感情が浮き出てくる。俺は本当に華音のことが大切なんだなと改めて思う。馬鹿にしながらも、なんだかんだちょっかいかけてくる華音を。俺はただのガリ勉なのに。
「そっそんなことよりも、今日は一緒に帰らない?」
顔を赤らめながら、華音は俺を誘う。そんな誘い方をされたら、オッケーするしかなくなるだろ。本当にずるいよ。というか、男の精神って女性に対して弱すぎじゃない。すぐに砕けるとか。
「いいよ、どこか行きたいところでもあるのか」
「別にないけど……」
だから、本当に俺の気持ちを試しているのか。ただでさえ、意識をしているのに、それは反則だよ。家でもそんな状態で、俺の理性は持たなくなっているんだぞ。
「ついに、愛の告白か。俺も誰か探さないとな。僕を彼氏にしてくれる人がいないか――い?」
真司が場の空気を壊した上に、大声で叫んで廊下へと向かっていった。あいつの行動力にはまける。それに、顔だけはイケメンだから、誰か寄ってくるんじゃないかと。ただ、性格はあのようなもので、彼女ができないのだろう。
それよりも、叫びながら彼氏にしてくれないとか言って、彼氏にしてくれるとかどこの物好きだよ。
「まあ、放課後待っているから、一緒に帰るか。どこか寄りたい場所があれば、そこにでも行こう。それでいいだろ?」
「そうね、絶対だからね」
「分かっているって。じゃあ、放課後でな」
華音はうれしそうな顔で自分の席のほうへと去っていく。それにしても、うれしそうな顔ぐらい隠せよ。そういうところが周りに勘違いさせるんだ。
でも、俺も人のこと言えないか。一緒に暮らしているのに、喜んでいるんだからな。本当に、男って単純だな。