42 不思議な動物園
旭山動物園に入った感想は、普通の動物園じゃないかということである。何がすごいのか和孝わかんない。どうしたらいいの。
「おいおい、さえない顔をしているね。まさにさえない〇〇の育てる」
「真司。真面目な顔でボケるのはなしだよ。それに、他の作品を出しちゃいけないよ」
「そうだった。この辺になったらだいぶ面白くなってきたぞ」
真司の頭は動物園に入った瞬間に猿へと変貌したみたいだ。完全に馬鹿である。
「何やっているの和孝。私とのデートはどうするのかしら」
おっと、華音の口から本音が漏れまくっているぞ。やばすぎるでしょ。この二人に何があったのか。
「はい、皆さん。この動物園に入っておかしいと思ったことはありますか?」
「うちの生徒たちが動物以下になったことか?」
「先生なのに、毒舌ですね。自分の生徒ですよ。いいんですか?」
「いいんだ。別に馬鹿にしたところで減るものはない」
俺たちの神経が減るんだよ。わかるか。馬鹿にされたときの気持ちを……。お前の顔はいつもにこやかだがな。人をいじるときだけは。
「どうやら、この動物園で毒舌の先生を生んでしまったようですね。まあ、この動物園の特徴ともいえるんですが」
「何が何だかわからんぞ。なんで、俺は影響を受けていないんだ?」
「だって、あなたは頭が良すぎて馬鹿になることができないからですよ」
「やかましいわ。本当にお前ガイドなのか。旭山動物園は普通に有名な動物園なはずで、動物を近くで見えるというのがいいのではないのですか?」
「まあ、そうなのですが、最近では動物臭によって、頭がハッピーになるといわれているんですよ。特に北海道は自然に囲まれており、野生にいるような気分になれるということもあり、人気なんですよね」
どうみても、怪しいな。マジでこの動物園に何があったんだ。普通に有名だった動物園がここまで人をおかしくする原因はなんだ。こんな現実におかしなことなんて起こるはずがない。みんな疲れているのか。それともなんだ。この園内にはガスでもまかれているのか。
「和孝君といいましたっけ。あなたは勘が鋭すぎるのです。それがこの園内を狂わせるのです。あなたにはこの動物園に来る資格はない。さっさとされ」
「おいおい、お前の言い方気に食わないな。それよりもこの施設は何かの宗教でもかかわりがあるのか。俺がすべてを狂わせるといったが」
ガイドの顔が一変した。何かを隠しているようにしか見えない。それに、この動物園の中に俺ら以外いないのもおかしいな。
「気づいてしまったのね。あなたにはがっかりだわ。何をしても聞かないんだものな」
「おいおいって、華音がいないぞ。どこに行ったんだ?」
「さあ、どこに行ったんだろうね。まあ、関係ないことだからいいんだけど」
「それを言っちゃいます?」
「それは言うでしょうね。私が殺めたのだから」
「それはまずいですよ。でも、実際はどこかにいるんだろうな。このクソ野郎が――」
そんなことを言ってもガイドの顔が変わることはなかった。何かを殺しても動じないというのか。こいつは……。
「というのはうそだけど、まあ、この動物園で楽しめるような設備を整えているので、遊んでみたらいいんじゃないでしょうね」
「おい、俺の質問には答えていないじゃないか」
「そんなこと言われても、この動物園には夢を見させるのは仕事ですからね。だから、今までことはすべて夢かもしれませんね」
そんな馬鹿なことがあるか。俺は普通にはなしているではないか……。
「か……和孝。起きて。もう、朝だよ」
なぜ、俺を呼ぶ声が聞こえるんだ。何かあったのか。
「和孝が寝ぼけているぞ」
俺が起きたのは、ホテルの部屋であった。それは昨日泊まった場所である。目の前には真司がいた。
「俺は何をしていたんだ。それよりも動物園は?」
「それは昨日楽しんだろう。覚えていないのか、普通に動物を見て楽しんでいたじゃないか」
ちょっと待てよ。俺は昨日は何をしていた。そして、ガイドの正体は何だ。情報が多すぎて困る。なんでベッドで寝ているんだ。あの中で言っていた夢とは何か。もう、俺には理解ができない。
「なんか、浮かない顔をしているな。何か問題でもあったか?」
「大丈夫。何でもないから」
真司は俺の顔を見て、何かを思っているみたいだ。本当にそういうところだけは鋭いよ。お前は。
「とりあえず、顔を洗ってくる。ちょっと考え事もしたいしな」
「やっぱりお前、何かを隠しているな。白状しろよ。俺にはわかるんだぞ!」
「わかったから。少し一人にしてくれ――」
そう言って、俺は洗面所がある部屋へと逃げ込む。とりあえず、顔を洗おう。
蛇口に手を伸ばし、お湯が出る方向へと蛇口をひねった。
一体何が起きたんだ。昨日は楽しく遊んでいた。そんなわけない。俺はガイドの手口を気づいてしまい、謎の動物園へと連れていかれたというのに。それはすべて夢だったのか。もしかして、動物園についても起きなかったとか。でも、それだとあいつが言っていることは間違っている。一体なんだ。
俺は一生懸命、顔を洗った。目が覚めるまで何回も顔にお湯をつけた。
さっぱりした俺は真司がいる部屋に戻ると、俺を待っていたかのように椅子に座っていた。
「では、話を聞こうじゃないか。一体何があったんだ」
「絶対に笑うなよ。冒頭から話す。俺たちは動物園に行ったんだが、その動物園には人が誰もいなかった。俺らだけだったというところで疑問を俺だけが持った。そして、ガイドがそれに気が付いて俺に話しかけてきたときにはみんなの姿はなく、俺とガイドだけが動物園にいたんだ。そして、『この動物園には夢を見させるのは仕事ですからね。だから、今までことはすべて夢かもしれませんね』と言い放った。よく意味が分からなかったが」
「なるほど、それはおかしいな。お前はずっと夢を見ていたというのか」
「まあ、そういうことになるな。いつ、眠らされたのか」
「もしかして、俺たちもそういうことになっているのかもしれないな」
さすが、真司は鋭い。でも、こいつにはしっかりとした記憶がインプットされているのに、なぜ、俺にはそれがなかっただろうか。もしかして…。
「多分だけど、俺らの記憶も改変されているような気がする。なんか、北海道はその辺の技術が進んでいるのを聞いたことがある」
「そういうことか。なんか、動物園がおかしいと思ったんだよな」
まあ、北海道も進化しているってことかな。本当に驚かされるよ。
「これで、本当に修学旅行が終わる。長かった」
ホテルをチェックアウトして、バスへと戻るのであった。