41 カラオケとネタに突っ込む俺
一行は買い物を済み、バスに乗り込んで旭山動物園へと向かう。
「なんか、歌が歌いたい気分だな。旭山動物園まで距離があるんだろ。なら、おれが歌いたいね」
「そんなこと言っても、難しいだろうよ」
どうやら、俺が歌うことが嫌みたいだ。聞いたことあるのかといいたくなる。
「まあ、どうにかできるだろ」
コソコソと話していると、担任がガイドのマイクを取り、話し出す。
「おーい、みんなお疲れ。どうにか楽しむことができたみたいだな。それはよかった。今向かっている旭山動物園はかなり遠い場所にある。それまでの時間はカラオケだぜ」
「「ウェ――。たのしも――ぜい」」
バスの中はとても賑やかである。こんなにも賑やかにいられるのはなぜだろうか。
「では、ここで歌ってもらうのは和孝。お前だ」
担任は俺を指さしながら、指名してきた。まじかよ。最初から指名してくるとかないだろ。俺だって、緊張はするんだぞ。
「和孝。何やっているのよ。早く、歌いなさいよ」
「うるさいな。トップバッターというのは緊張するんだから、焦らせるな」
「そんなこと言われたって、この空気を早く変えなさいよ」
「やれやれ、この二人はいつも通りだな」
吠える華音とは真逆の真司。この言い合いも見慣れたということだろう。
「そんなこと言って。真司だって、聞きたいんじゃないの?」
「それは聞きたいが、焦らせてもいいものが聞けないだろ。そこはゆっくり選ばせといて、ハードルを上げることで緊張させるのも手だろ」
「お――い、聞こえているぞ。俺で遊ぶなぁ。どう見ても、一番楽しんでいるのは真司だろ」
「そんなことはないよ」
カタゴトで返す真司は、どうやら俺で楽しんでいるみたいだ。勘弁してくれ。なんで、俺の周りにはSみたいなやつしかいないのか。真司とか真司とか真司とか。あぁ、忘れてたが担任もか。
「とりあえず、歌わないと終わらないらしいな」
「当たり前だ。お前は馬鹿か」
「そのネタは古いし、出〇のだろ」
「よくわかったな。さすが、和孝」
「ふざけてないで、速く歌ってよ」
いつも焦らせるのはお前か。華音。
無事に旭山動物園についたご一行は、バスを降りると興奮し始める。
「ここが旭山動物園かぁ~。一度は来てみたかったんだよね。だって、この動物園は全国的に有名なところだものね」
「華音。はしゃぎすぎだ。高校生になってみっともないぞ」
「そんなこと言っている和孝は、歌っているときはすてきだと感じたのに、終わったらこれだから、いやになるよね」
「それは同感だな。俺も、あの時の和孝君すてきとか思っていたのに。そして、いつでも見てられるなぁとか思っていたのに、本当に残念ね」
「真司。お前ってオネエとかじゃないよな。本当に心配しなくてもいいんだよな」
「何言っているんだよ。普通の男の子だよ」
「男の娘じゃなくって?」
「とうとう、男をそんな目で見るようになったのか。信じられないわぁ~」
棒読みの真司である。それにしても、動物園についたのはいいが、何か見るものでもあるのか。全然思いつかない。
「和孝がポカーンとしているけど、大丈夫」
「だいじょうぶに決まっているだろ。でも、ここにきても目的がなくって」
「つまんねぇ――男だな。やっぱり」
真司が辛気臭そうに見ているのを感じ取ると、なんか切なくなる。
「みなさん、お待たせしました。ここがあの有名な旭山動物園ですよ。わ~い、楽しい」
「とうとう、ガイドまでもが頭がイってしまったようだな。そう思わないか、和孝」
「本当にそういうことを真面目な顔で言うのやめて。笑いがこみ上げてくるから」
俺は抵抗できなかった。笑いをこらえることができずに噴出した。それもパロディネタをするガイドが悪いんだぞ。け〇のフレ〇ズの真似なんかするからだろ。今問題になっているからって、ネタにするんじゃねぇ――。
「さて、おまぇら。ちゃっしゃと、やるブフッ――――」
はい、担任OUT。これはケツバット確定だな。というか、あのネタに爆笑しすぎでしょ。どこがおもしろいんだ。それも女性がやるから受けるのか。
「なんか、みんな笑っているね。これはどういうことかな?」
「やべぇ――、一人だけネタがわからないやつがいた――。華音、お前はあの騒動も知らないのか」
「何あの騒動って?」
「マジかよ。俺はしっかりしているぞ。ここで説明すると消されるから言わないけど……」
「別に大丈夫だよ。消されても悲しみ人いないから」
「地雷を踏むな。俺がどんな思いでいるのかを知っているのか」
「おいおい、どこぞの声が混じっているぞ。作者かね」
真司、今のは突っ込むところじゃないだろ。べっべつに誰かの意思なんて引き継いでいないんだからね。
「お前らいい加減にしろよ。作品のことで争っている場合か。別にばれたところで有名でもなんでもないんだから、何かされることはないだろ。売り上げているわけでもないし」
今まで聞く耳を持たなかった担任が問題に大きな傷を残した。やめてくれ。これ以上あれるのは勘弁だ。
「一番現実的なことを言ってきたのが、担任でびっくりだわ。本当のこと言ったら、傷つくことだってあるだろうよ」
「そんなもの知るか。俺は俺の意思で動いているんだ。そんなことで俺の登場シーンが減るわけでもない」
「担任の不意な言葉で作者を傷つけた」
「おいおい、和孝。いきなりネタを使うんじゃない。それはとあるクソアニメだろ」
「この時間軸にはそんなアニメは存在しませんよ」
知っていてもシラを切る。今の時代には必要なことさ。さあ、真司よ、どのようなことを言ってくるのか。俺は準備万端ね。いつでも、できるぞ。
「やめてください。私のために争わないで」
「「別に、お前のためじゃねぇ――よ。自意識過剰にもほどがあるわぁ――」」
三人の声はほかの観光客も驚させるものであった。そして、三人とも何の話をしていたのか忘れてしまった。
「本当にふざけたメンバーだよね。頭のねじがないのは一緒だということね」
華音がため息をする中で、ガイドは真面目な顔で話し始めた。
「さて、コントはこのくらいにして、中に入りますよ。これだけで相当な労力を使ってしまいましたが、これからが本番ですから覚悟しておいてください」
「「は――い」」
これから何かが始まるのだと思うと、気になって仕方ない。それでこの動物園では何が有名なのか想像できない。勉強しかしてこなかった代償なのかもしれない。もう少し、周りを見ていくことが必要だと思った瞬間であった。