34 辛さと涙
華音の思いを実感した俺は心が痛くなった。俺が思う以上に苦しんでいることが分かったのだ。
「とりあえず整理すると、お前はそんなにつらかったのに、なぜ言わなかったんだよ」
「だって、好きな人に言うのは、とても緊張するのよ。それがわかっていて言っているの!」
「そんなことないだろう。人前で発表するよりはましだと思うけど」
俺は冷静に考えたときに、そんなことを思ってしまった。
「なんでそんなことが言えるの。私にはわからないよ」
「そんなこと言われてもな。俺とお前では考え方が違うのだから、仕方ないだろ!」
「それはそうだけど……」
何か言いたそうな華音だが、うまい言葉が見つからないようだ。やっぱり俺には理解できないのだろうか。
「それよりも、こんな話をしないでさ。普通の話をしようよ」
「そんなこと言われても、私にとっては重要なことなんだから、話をそらさないでよ」
華音はいつも以上の声で言い放った。それを聞いた俺は、驚いて心臓が飛び出るかと思った。
「周りに聞こえたらどうするんだよ。この部屋でもめているとかバレたら、面倒なことになるぞ」
「そんなことは関係ないもん。これは、家族での問題なんだから、周りがどうこう言えるものじゃないの。わかっているの!」
「怒ったように言わないでくれよ」
そんなこと言っても、この勢いが止まるとは思えなかった。
「別に怒ってないし。ただ……」
「ただ、なんだよ。はっきり言えよ。そっちがその気なら、いろいろと言ってやるよ」
つい、ムカっとしてしまった自分がいて、情けないと思った。
「いえるものなら言ってみなさいよ。あんたが思っているほど、私は優しくないし、意地が悪いのよ」
「そんなこと、約半年もいればわかるさ。それが本心でないぐらい。お前のことをどれだけ見てると思っているんだよ」
「……」
華音は何も言葉に表すことができなかったようだ。
「華音。お前はいつも頑張っているよ。だから、恋愛について一生懸命考えていたんだろ。どうしたらいいのかわからずに。周りに相談することもできずに」
華音は下を向いた。認めたくなかったのだろう。自分が一人で抱えていることを……。
「俺は知っているよ。お姉ちゃんとしてしっかりしないと思っても、なかなかできないと思っていることも」
「やっぱり、和孝にはすべてお見通しなんだと。鈍感に見えて、鈍感じゃないんだね。本当にすごいよ。私にはそこまで気づく能力はないよ」
華音は涙を流しながら、辛そうに話していた。
「だから、もう頑張らなくてもいいんだよ。華音はもう頑張ったんだからさ」
「あっありがとうぉ――――」
俺は優しく華音を抱いた。今までのつらさを受け止めようと思って。