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Stare Melody  作者: kanoon
9/14

番外編: 言えなかったこと、夕焼け空の下 (side:shiina)

テスト終わりの次の日。俺は学校を休んである場所にきた。毎年だ、毎年ここに来ている。午後から友也や柊もくるはずだ。

置いて行かれた隼たちは気にするだろうが、三人だけの秘密なのだ。

従兄弟と、幼なじみと、それから……元恋人。

そして今日は、言えなかったことを伝えにきた。


「よっ、元気にしとった?」

顔を見ただけで泣きそうになる。さらさらな髪が風に靡いていた。去年とさほど変わらぬ姿は胸を締め付けたが、一方で安心させた。

もっとやせ細っていたら、見ていられないだろ。

「もう高2も半分やで。あっでも百合は20歳か。節目やのに、もっと盛大に祝ってあげたかった。ごめんな」

血は通っているのに、あの澄んだ眼には俺の姿は映らない。これほど哀しいことってある?

「誕生日おめでとう、桐山百合。」

そう告げた瞬間、涙が一筋伝った。視界がぼやけて姿が見えなくなる。

桐山百合、2年前に事故で昏睡状態に陥った。植物人間といっていいだろう。

彼女と俺は一応付き合っていた。きっと彼女からしたら俺は青臭いガキだったんだろうけど。

中学に入る前に上京した俺は、時々寂しくなって先に上京していた百合に会いに行くこともしばしばあって。そうすると彼女はいつも笑顔で迎えてくれた。

『椋くんやんか!また寂しくなったん?じゃあ一緒に映画みいひん?』

そうやって二人でいたんだ。次の年には百合の幼なじみの友也もいて、三人で楽しくやっていた。そして彼女の従兄弟である柊とも仲良くなって。

もう既にその時には付き合っていた。どちらかといえばお姉さんみたいだったけれど。

だけど、それは一年程しか続かなかった。たった小さな幸せも、砕けてしまったんだ。

百合は俺が中3のとき事故にあった。俺が庇っていたはずなのに、彼女は二年も目をあけない。俺だって一週間で戻ってきたんだよ?

大切な人は自分が守るって決めたのにね、俺。

「俺はね、元気やった。今めっちゃ面白いねん、生徒会。大変なんやけどね。」

ポツリポツリと、近況を報告する。一年分話してないことがある。

「あ、もうすぐ友也もくるよ。柊もね。友達いっぱい居るし、転校生は何か……嫌われてるのかも分からんけど。相変わらず一位やし、って言ったらまた嫌味って言われちゃう。」

頬に触れてみる。

「もっと百合の関西弁聞きたいねんけど、あかん?」


『椋くん、ちょっと今度付き合ってやー!』

「ええけど、どこに?」

『私の大好きな場所やねんけど秘密。』

そうして連れてこられたのは、とある教会だった。

「教会?」

『良いやろ?心が浄化されるの。あとね、私は椋といたい。』

「……っ、俺も傍に居たい。」

『ありがとう。クリスマスの時、イルミネーション綺麗やからまた二人で来ようね。』

「うん、楽しみにしてる!」

それも叶わずじまいなのだけど。


「好きやった。今はこれ以上言えへんけど、伝わるかな。」

頬を撫でた生暖かい風に手を伸ばす。君の幻影は掴めない。

来年こそ、が悪い意味で続かなくなったら、そう思うと怖い。だけど本当はもう関われない二人だからと、一年に一度の逢瀬に全てを込めた。

二度と会わないという方法だってあるのに来てしまうのは、罪滅ぼしのため?

「目を覚ましてや、頼む。」

そうして去年も同じことを言ったのに。


「あれ、椎名さん。寝てはりますか、……椎名さん。」

柔らかな俺を呼ぶ声。

「……椋さん、」

ふと浮上する。よく知る声の、たまに呼ぶ名前。

「友也、か。柊は?」

「後で来はるそうですよ。椋さんは一人で平気でしたか?」

優しい声に微睡む。人前では言わないで、と言ってある下の名前で呼ぶ彼が好きだった。包まれるような「椋さん」という声は、昔を思い出させる。百合がまだ笑っていた頃。

「平気だった、百合に話してたから。」

「百合、ごめんやで、あんまり来れなくて。あと、今年もありがとうな。」

「ん?」

首を傾げると、友也は笑った。

「こっちの話ですよ。」

それに、そうか、と答える。

「椋さんは何を話してたんですか?」

「うーん?生徒会のことやで。面白くて、皆好きやねんって。」

「俺も、あのメンバーで生徒会やれてほんま良かったと思ってる。」

友也は隣に椅子を出して座ると、しみじみ呟いた。いつもより真面目な感じがらしくなかった。

「あとは、桜ちゃんのこと。嫌われてんのやろかって。」

「嫌ってるわけないやんか!あの子、椋さんにベタ惚れやで?」

「そうなん?」

重くなりそうな空気を打破するために、カラカラと笑って言う。そんな俺に驚きながら友也が返してきた。

全く気付かなかったよ。

「俺幸せやなー、やから百合にも幸せになって欲しい。」

いつの間にかタメ口になっている彼を見る。その横顔は少し寂しげだった。

「幸せになって欲しいな。でも幸せにするのは俺じゃないんだ。」

「せやな、椋さんはもう解放されてもいいと思う。」

今までよう頑張ったな、なんて年下のくせに言ってくる。俺は解放されていいのだろうか。

「百合……俺は、幸せになってもいいの?怒らない?」

少しだけ、彼女が微笑んだ気がした。


「よう、遅れてごめんな。」

病室のドアが開き、柊が入ってくる。しんみりした空気に場違いな彼が可笑しくて、俺たちは笑ってしまった。

「なに笑ってんだよー!」

彼もつられて笑う。小さい頃のようだ。百合は笑っていないけど。

「椋さん、俺花瓶の水替えてきますね。柊さん、百合に喋ってやって下さい。」

柊が来たからか普段通り敬語になる友也に、俺は手を上げて「いってらっしゃい」と言った。柊も「おう、いっぱい喋るぞー」と意気込む。

「何話すん?生徒会のことなら喋っちゃったし。」

「まじ?じゃあ話すことないじゃん。」

ぷくーっと頬を膨らます。本気で不服なようで、俺は「じゃあ、」と切り出した。

「昔話でもしようや。」

「いいよ、俺たちがはじめて会ったときはさあ――」

暫くして友也も合流して、四人の昔話をする。

あそこの公園はどうだとか、あのお店に久々に行きたいだとか。そういえば一度も柊と大阪に遊びに行ったことないよね、とか。

高校であれだけ一緒にいる三人なのに、これでもかというくらい溢れる思い出。皆がいる前では話せない、三人の秘密。

こうやって話すことが大事だって気付いた。

そして日は暮れていく。逢瀬の時間は終わりを迎えた。


「早く目覚ましてな。」

「また来るよ。」

友也と柊が先に百合に声をかけて部屋を出る。俺は振り返って百合に告げた。

「また来年、って言わないことにする。せやから早く。」

それから二人を追って、病院をあとにした。

見上げた夕焼けの空が綺麗で、思わず三人感嘆の声を上げた。俺はシャッターを切っていた。

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