第12話:食欲の秋、食べ過ぎにはご注意(side:niigaki)
夏も過ぎ、食欲の秋がやってきた。
季節問わず食欲全開な仲間のことは置いといて、誰もが皆美味しいものを望む時期だ。
それなのに。
「今年は美味いもの食べれないの!?」
Oh,no!!と叫ぶ相原に「欧米か」と少しばかり古いツッコミを入れながら、俺は柊に聞いた。
「依頼?」
「おう」
ひらひらと可愛らしい手紙を揺らす。皆で覗きこむ。
『好きな人が出来て、今年は絶対ダイエットしたいんです。どうか手伝ってください』
「ってわけで、今年は皆でダイエットだー!」
ええー!と叫び声が上がる。
今回ばかりは全力で拒否したい。そんな気持ちは俺だけではない、というより全員だ。
「なんで俺らが付き合わなきゃならないのー!?」
相原がいつも以上に喚く。食に煩い彼だ、当たり前なのだが。
それに結奈や葛城まで落ち込んでいる。桜ちゃんは、
「デザートくらい、沢山食べたかったな……」
といかにも女子発言をしている。
椎名は苦笑して皆を見ていた。
「お前も本当は落ち込んでる?」
と聞けば、
「うん、まあ理不尽な気もするよね。俺らが食事制限したところで、その子がダイエット出来るかって言うたらそうでもないやろうし」
と返ってきた。
「そうだそうだ。何なら、バレンタイン前にダイエットしろよー!」
柊もがっくりうなだれている。
「ねえ、柊?これ……見なかったことにしない?」
得意の王子様スマイルと、犬のような潤んだ上目遣い。相原の"頼み事"はいまいち断りにくい。
……のだが。
「あきません、そんなん……選んでしまったのは仕方ありません。抽選が決まりですから、選んだのはもう」
変なとこで生真面目な葛城が声のトーンを落としながら言った。それに彼以外のメンバーがブーイングする。
変なとこで不真面目な椎名も不服そうだ。「友也のお菓子食べたかった」とぼそぼそ言うのが聞こえる。
「えっ!?」と目を輝かせた葛城に、椎名は「何でもなーい」と頬を膨らませる。
ざまあみろだが……葛城地獄耳。
けっ、と俺も小さく小さく呟く。
柊は一度溜め息をついて、周りを見渡した。
「仕方ない、友也の言うことも一理あるからな」
結局そんな判断、それが生徒会長たる所以なのかもなあと思った。
それから数日、俺らと依頼人――飯田未央ちゃんっていうらしい――の秘密のやりとりが続いた。
今どきメールだよな、と思ったそこのアナタ!
違うんです、古典的な手紙なんです。
ってそんなことはどうでもよく。
とりあえず彼女の意向としては、食べ過ぎたくないのと運動を一緒にやって欲しいとのこと。
『ご褒美のスイーツは無しだからね!』
というこちらの言葉に、何とも可愛らしい(だが確実に苦笑を表す)顔文字なんて書いてきたり。
他言は厳禁、と釘をさしておきつつ放課後や休日に集まることにした。
大雑把なメニューはこうである。
・近所のランニング
・テニスat学校のテニスコート(職権乱用)
・スイミングat学校のプール(上に同じ)
・腕立て腹筋等at学校の体育館(更に上に同じ)
暫くこなすうちに未央ちゃんだけでなく、俺たちも疲れ果ててしまった。
「もーきつい」
いつもの女の子っぽさはどこへやら、オッサンのようにどかっと大の字になる結奈。その隣に桜ちゃんも腰を下ろす。
「流石に……やりすぎじゃないですか」
普段運動嫌いな柊や相原、しまいには椎名までも「まだ駄目なの?」と愚痴を零す次第だ。
葛城は運動の出来るタイプだし、俺も嫌いではないからまだ大丈夫だった。
因みにここの奴らは皆普通かそれ以外の細いのばかりだ。
そりゃあ無意味なダイエットなんていらないよな、と思う。
女子2人に関しては、痩せて欲しくないし筋肉もついて欲しくないほどに、中間的な身体をしている。
……決してエロい目で見てるわけではない、決して。
「あと少しで目標値まで行くんです!申し訳ないですが付き合って下さい!」
と未央ちゃんに頭を下げられたら、断るわけにもいかなかった。
ふと思ったんだけど、彼女も痩せる必要ないよね?ぽちゃでもないし、良い感じにムチっと……いやエロい目で見(以下略)
我慢に我慢を重ねて一週間。
「学祭に間に合った!」
と嬉しそうに未央ちゃんは報告に来てくれた。
なんで学祭かというと、失念していたが毎年恒例で、生徒会主催の『告白大会』をしているためだ。
「頑張ってね!」
女子2人がニッコリと笑う。
「今まで頑張ったんだから大丈夫だよ」
と男子組もフォローする。
それに「ありがとうございます」と深々と頭を下げ、彼女は帰っていった。
学祭当日、俺ら生徒会は忙しくて大会そのものに出場することは無かったが(一組のリア充以外、皆興味がないのだ)、わくわくと大会を覗きに行った。
そのときステージに居た未央ちゃんは、俺たちと地味なジャージでダイエットしていた彼女とは少し違っていた。メイクも綺麗にしてあって、女の子らしいピンクのワンピースを身に纏っていた。
照明や装飾だけじゃない、彼女自身がキラキラしていたんだ。
んー、まあ要するに、自分を磨く人って凄いってこと。
……だけど、その好きな人というのが彼女の隣のクラスの葛城であり、フられてしまったのはまた別のお話である