第9話:私の身体、知りませんか?(side:niigaki)
久々の依頼、久々のレンジャー活動。俺たちは少しワクワクしながらポストにあった手紙を開いた。
『はじめまして。突然ですが5階の一番端の教室、第二音楽室に不思議な噂があるのを知っていますか?』
そんな書き出しだった。皆、一瞬顔を見合わせて続きを読んだ。
『そこでは窓ガラスに居ないはずの人が映っていたり、足音が聞こえるのに誰も居なかったり、急に楽器の音が鳴ったりとするらしいです。出来ればレンジャーの皆さんに本物の幽霊か検証していただき、本当に居るのであれば除霊して欲しいと思いました。』
「除霊は自分たちで頼めばいいのに。」
柊の呟きも最もだ。俺は最後の名前を見る。
『弦楽部・コーラス部一同。』
「そこ使ってる人らやんか。友也、いけるか?」
「はい、俺たちでやりましょうか。……この中で霊感ある人、居ります?」
葛城が問いかけるが、誰も手を挙げない。皆乗り気ではないようだ。
……俺は好きだぜ、こういうの。霊感もあるし。
「俺、多分いける口。」
「隼!」
結奈がさっと遠ざかる。そして隣の桜ちゃんと手をとりあって「怖い嫌だ」と喚いている。
「俺分かんない」
「俺も」
柊と相原も顔を見合わせて首を傾げた。それに葛城は考えて言った。
「一回行ってみますか、皆で。」
「了解。」
……楽しげなのは気のせい気のせい、皆さん。
「嫌あー!」
二人分の叫び声が響いたのは、言うまでもない。
「待ってちゃ駄目?」
結奈の言葉に、すかさず椎名が言う。
「待っててもいいけど、そうやって一人になる方が危ないで?」
その脅しがきいたか、俺に引っ付いてきた。小声で「じゃあ隼に守ってもらう」と言われ、男だからかな嫌な感じはしなかった。
「よし、じゃあくっついとけ。」
「ありがとう隼。」
第一音楽室から第二音楽室まで続く、薄暗くて長い廊下を歩く。これじゃあいかにも居ます、って感じだよ。
「ねーえ、仮面着けないの?幽霊さんに顔バレちゃうよ。名前と顔知られたらマズいよ。」
怖い空気に似合わないトーンと声音で言う相原に、椎名がツッコミをいれる。
「どんだけファンタジーなんだよ!」
「心配なら着けとけよ。」
にやっと笑った柊も、実は既に着けている。
本当は怖いんじゃねーか!
とまあ心の中でつっこむ俺も、皆に合わせて仮面をつける。成り行きで全員着けることになってしまった。
……初期設定じゃ、レンジャーのときは仮面着けるって決まりだったけどな。
今じゃ「そうだっけ?」と言われて、はい終わりだ。俺ももうその点をつっこむのには疲れた。
すっかり無口になって、一行は音楽室の扉の前に立つ。誰一人ドアノブに触れない。誰が行くか様子見のようだ。
ひしひしと「お前が行けよ」オーラが感じられる。
「仕方ありませんね。俺が開けます。一番後ろに新垣さんが居って下さい。」
いつものように貧乏くじを引いた心優しき葛城は、ゆっくりドアノブに手を伸ばした。
「ねえ、待って。」
椎名が止める。多分俺と同じことを感じたんだろう。霊感のない他の人たちは気付いてないが、空気が重くなっている。
「やっぱり居るみたいですね。」
「足音。多分一人だけだけど開ける?」
後ろを振り返って、恐怖におののく人たちをみる。(特に女子二人)
「か、帰りたい……」
桜ちゃんがおずおずと言うと、結奈もこくこくと頷いた。見れば相原も少し、気分が悪そうだ。
「じゃあ、桜ちゃんと結奈は帰っていいよ。相原は送ってやったってや。」
「ありがとう」と行って三人は小走りに去っていく。残されたのは四人。
「友也が居るから、大丈夫やで。」
「大丈夫、と言えるかは分からへんけど……」
元々分かる質らしい彼は、確か京都でお寺巡りをするのが趣味らしい。そんな中、彼の体質に気付いた住職さんたちは簡単な御守りなどをくれたそう。
「じゃあ開けますね。」
普段は第一音楽室を主に部室として使う音楽系の部活ばかりなので、ここはあまり使われない。文化祭や他のイベント時に朝練などの活動が重なるときのみに使用される。
だからかドアが重く音をたてて開いた。
「うわぁ」
誰かが声を漏らす。幽霊を見るためにも、外からの光のみでいる。まだ日は落ちてないから暗くない。だが、空気は十分に暗かった。
「誰か泣いてるんか?」
優しい声で椎名が聞く。泣き声でもしたのだろうか、俺には聞こえなかった。そのとき柊が飛び上がって声をあげる。
「どうした?」
声をかければ震えた声で返事がある。
「誰か、触った。」
えっ。葛城の目が鋭くなる。柊に近寄ると、「これ持っててや」と何かを渡していた。
ふと椎名が近くにいないのに気付く。奥の方に目をやると、ギターの並んだ棚の向こうやピアノの下を見ていた。
「姿はないねんな。どこやろ……」
ポロンと音が鳴る、ピアノだ。幾つか部屋ね中にあるピアノの中でも、一番椎名に近いやつ。それに気付いた葛城は静かに言い放った。
「ちょけてないで出てきた方が良いですよ。」
すると声が聞こえた。全員に届いたらしいが、何を言っているのか分からない。葛城が椎名をこちらに引っ張ってきた。
何度目かで俺たちは理解した。彼女が、何を言っているのか。
『身体……バラバラ。』
『私の身体、知りませんか?』
全員の身体が、硬直した。