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第4話「スリーパー(覚醒前)』たちの再起動(リブート)」


暗闇の中を走り続けて、どれくらい経っただろうか、蒸し暑さで服が肌にべったり張り付く。


酸素が薄いのか、息苦しさが増している。


「はぁ、はぁ……もう、限界……足が……」


後ろから、リナの弱々しい声が聞こえた。


振り返ると、彼女はLUUPを止めてしゃがみ込んでいた。


歓迎会のために履いてきたお気に入りのブランド物のヒール。


慣れない緊張とバランス維持、そして蒸し暑さで、彼女の足は限界を迎えていたようで靴擦れで踵から血が滲んでいるのが見える。


「……ちょうどいい。次の駅で休憩だ」


ユウトが前方の微かな光――駅のプラットホームを指差した。


そこは「表参道駅」。


ホームには力尽きた人々が座り込んでいるが、渋谷ほどのパニックはない。


むしろ、全員が電池が切れた人形のように静かだ。


私たちは目立たないようにホームの端へ上がり、構内のコンビニ(NEWDAYS)へと向かった。


シャッターが半分降りているが、ガラスが割られ、既に略奪された後だった。


「ユウト、泥棒する気?」


「火事場泥棒だ。生き残るために必要なものだけ借りる」


ユウトは棚に残っていた常温の水と、栄養補助食品カロリーメイトのようなものをバッグに詰め込むと、衣料品コーナーへ向かった。


そして、簡易的なスニーカーと、安っぽいジャージをリナに投げ渡した。


「着替えろ。そのヒールとスカートじゃ、この先死ぬぞ」


「……最悪。私のブーツ、10万したのに」


リナは文句を言いながらも、涙目でヒールを脱ぎ捨て、ダサいスニーカーに足を突っ込んだ。


「でも……生き返ったかも」


「水も飲んでおけ。ここから先は『魔の乗り換え』だ」


ユウトが水を煽りながら、厳しい顔をする。


「乗り換え?」


「ここは銀座線だ。つくば方面へ抜けるには、大手町あたりで千代田線か半蔵門線へ移り、最終的に秋葉原から『つくばエクスプレス』のルートに乗る必要がある。……そのためには、一度トンネルを出て、駅のコンコース(連絡通路)を歩かなきゃならない」


「それの何が問題なの?」


「静かすぎるんだよ。……見ろ」


ユウトが指差した改札階のコンコース。


そこには、数百人の人々がいた。


だが、誰も喋っていないし、動いてもいない。


停電したエスカレーターや通路に、ただ棒立ちになり、虚空を見つめている。


「あれは……?」


「『スリーパー(覚醒前)』たちの再起動リブート中だ」


ユウトが声を潜める。


 「急激な周波数の変化に脳が追いつかず、フリーズしてるんだ。……刺激するなよ。音を立てれば、一斉にこっちを向くぞ」


私たちは息を殺し、LUUPを押しながら、彫像のように固まった人々の間を縫って歩いた。


カツン……と、リナが蹴った小石が響く。


ギギギ……


近くにいたサラリーマンの首が、油の切れた機械のようにゆっくりとこちらへ回る。


焦点の合わないほの暗い目、 口元からは、ツーッと涎が垂れている。


見ないで……気づかないで……


私は心の中で祈りながら、その横をすり抜けた。


心臓の音がうるさいくらいに鳴り響く中、なんとか連絡通路を抜け、別の路線のホームへと滑り込む。


「はぁ……はぁ……生きた心地がしなかった……」


リナがへたり込む。


「まだだ。ここからまたトンネルだ」


さらに数時間後・北千住付近 地下トンネル内を無言で進んでいく。


ウィィィン……プツン。


私の乗っていたLUUPのモーター音が途切れ、ライトが消えた。


ほぼ同時に、ユウトとリナの機体も沈黙する。


「……ここまでか」


ユウトがため息をつく。


「バッテリー切れだ、よく持った方だな」


私たちは動かなくなった鉄の塊をその場に乗り捨てる、ここからは自分の足だけが頼りだ。


「ねえ、あと何キロあるの?」


リナがうんざりした様子でスニーカーの紐を結び直しながら聞く。


「つくばまで、あと40キロ以上……ここからは『つくばエクスプレス』の長い地下区間を歩く」


暗闇のトンネル、 もはや遠くの駅の光すら見えない。


あるのは、GEMが投影する淡いブルーのルート表示と、私たちの足音、そして荒い呼吸音だけ。


永遠に続くかのような静寂と闇。


その深淵を歩きながら、私はふと、ユウトの背中に問いかけた。


「ねえ、ユウト」


「ん?」


「どうして……こんなことになっちゃったのかな。レプティリアンとか、天蓋とか……私たち、今まで何を見て生きてきたんだろう」


ユウトは立ち止まり、懐中電灯で天井のコンクリートを照らした。


「……いい機会だ。話しておこうか」


ユウトの声が、トンネル内に低く反響する。


「この世界の『本当の歴史』と、俺たちがこれから取り戻そうとしているものの話を」


ユウトが振り返る。


その瞳は、暗闇の中でもハッキリと強い光を宿していた。


「学校じゃ絶対に教えない、人類とアヌンナキ、そして奪われたDNAの物語だ」

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