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健康病

作者: よむよみ
掲載日:2025/12/06

時は21XX年。

この国はとってもゆたか。

食料も豊富。AI、機械が普及し労働を支えている。

ただ、この国の国民は誰もが病に侵されている。

多くの国民は、転移が起きていてもおかしくないレベルの癌に侵されている。

生まれたばかりの赤ちゃんですら同様に、何かしらの先天性の障害を抱えて生まれている。


――


昔、この国にある政治家が現れた。

「みんなの利益のために一人の犠牲者を選ぶことにしよう」

移植を必要とする多くの患者のために、健康な者を一人犠牲者として皆に分け与えようと、周りに訴えていた。

その政治家も移植が必要な患者ではあった。でも、自身が助かりたかったわけではない。

残りの命を少しでもこの国をよくしようと訴えていた。


初めは見向きもされない意見だったが、とある時期を境に、他の政治家が賛成し始めた。

多くの政治家が集まり、政党になった。


その意見に正常な体を持って働いている人たちは反対したが、臓器移植がいつ必要になるかわからないお年寄りたちはこぞって賛成した。

少子高齢化が進んでいたこの国では、その政党が支持されて、いつしかその法案は可決された。

不思議だった。他にも大事な法案はあるにもかかわらず、この法案は念入りに審議され認められ可決されてしまったのだ。

労働者は、この国に少し絶望した。


制度は直ちに施行された。

健康診断の結果は直ちに国に報告され、管理されることになった。

もちろん、その年から犠牲者が必要な数だけ、選ばれるようになった。


――


制度の施行から、しばらく経過した。

あまりにもひっそりと実施されていたため、人々からこの制度への怒りは忘れられた。

人々は今の生活に必死だ。自らにほどんど関係のない制度の事なんて覚えていられなかった。


ただ、あまり表には出なかったがひっそりと実施はされていた。


「この制度のおかげで完治しました!」

時々、有名人の言葉がニュースで報道された。

この制度は、もともとたった一人の犠牲者に対し、多くの回復者が出る仕組みだ。

ニュースは圧倒的に喜ばしい報道が多かった。


それに、犠牲者側の報道は、美談ばっかりだった。

「皆のために、喜んでこの身を捧げます」

誰だって、嫌がっている人が犠牲になるのは見たくないから、やむを得ない。


この制度は徐々に、当然のものとして受け入れられ始めたのかもしれない。


――


ただ、いつからか、不思議な事が起こり始めた。


この間まで元気にしていた人が、突然、多臓器不全と診断された。

しかも一人や二人ではない。年々、そんな診断を受ける人が増えているのだ。


不思議だった。多臓器不全は徐々に進行するものであって、急に発生したりはしない。

少なくともそんな前例は無かったはずだ。

そんな事が起きないように、毎年の健康診断があるのだから。


奇妙なことに、多臓器不全の診断を受ける人は、決まってお金持ちか権力者だった。


――


それから、次第に健康な人が減っていった。

かわりに、臓器移植を必要とする人が増えていった。

それは、健康な犠牲者を増やす必要があることを示していた。

国民に知らされることなく、ひっそりと健康な犠牲者は増えていった。


もちろん、医療技術が低下したからではない。

それに、国民の健康が悪くなったからでもない。

ただ、国民のだれもが病にかかっていたいと希望したのだ。

この国では、少しずつ、秘密の闇医者が流行していた。

その闇医者では、正しい結果は伏せて、重度の病があると国に報告していた。


――


ある時、真っ当な医者が現れ、正確な診断をした。

その医者は自分の診断に誇りを持っていた。

「あなたは健康体です!」その医者は告げた。

「えっ、なぜ?」患者は叫んだ。

患者は急ぎ、他の医者を探し、再診断を受けた。

国に報告が上がる寸前に、再診断の結果、体に病気が見つかった。

どこかに移転してもおかしくない、がんの診断だった。


最近では、不思議な事象が起きている。

この国がおかしいと叫ぶ者は皆、健康と診断され皆のために合法的に犠牲者に選ばれるのだ。

徐々に国がおかしくなっていると皆、気づいているにもかかわらず、何もできなくなっていった。

その真っ当な医者は、真っ先に犠牲者に選ばれていた。

真っ当な医者たちは皆、他の人のためになるならばと思って、笑顔で受け入れた。


――


ある医者がいた。

昔は真っ当な医者だった。もちろん国家試験にも合格している。


昔はとても苦労していた。しかし、今は簡単だった。

何もする必要はない。健康診断を行い、どこかに異常があると報告するだけ。

それだけで、高額の報酬がもらえるようになってきた。


「献金のおかげで、政治家になり、政治家を動かし、遂に国を動かすことができたよ。ありがとう」

「いえいえ、あなたの理想が叶って、こちらも応援した甲斐がありました。おめでとうございます」

ある政治家から、電話がかかってきて、そんな会話をした。


政治家の理想を聞いた時、このビジネスを思いついた。

医者であり給料は高かったが、医者のため忙しくお金を使う暇がなかった。

思いついたビジネスをせっかくだから試してみたかった。それだけだった。

大量に稼いで余ったお金を献金し、政治を動かしただけ。


今では、皆が望んで誤診断を欲しがっている。私は望みをかなえてあげていた。

それから、多くの医者とも裏でつながるようになった。

真っ当な事を言う邪魔なやつには、正しい診断結果を出すだけでいい。

正しい結果を出すだけだから、何も気に病むことは無い。


想定以上のシステムが構築されていた。献金した甲斐があった。

「そろそろ、あれも邪魔になってきたな。この事実を知る人がいるのは悪い事だ。」

医者はそう考えて、その政治家に、完治の診断を下した。

いつもしている反対の事をしただけだ。


後日、法にのっとって合法的にその政治家は処理された。

マスコミはこぞって、「自らの理想のために、自らを捧げた偉大な政治家だ」と報道した。

政治家本人も、不治の病が完治したことを喜び、さらに掲げた理想のために命を捧げられることを誇りに思っていたらしい。

多くの国民は、「ざまあみろ」と心の中で思っていた。


その政治家の体は解体され、いくつかの臓器は診断結果に反し、異常が見つかった。

誤診はまれにあることだ。残りの正常な臓器は、予定通り臓器移植用として利用されることになった。

この国では臓器移植が必要なほどの診断を受けた患者がたくさんいるのにもかかわらず、なぜか国内では臓器移植は利用されず、全て海外に売られていった。


そして、そのお金は国益となった。

その分、子供手当が増えていった。

国は、従来の仕組みに従って、国益の増加に伴い、人口を増やそうとしている。


――


あまりニュースを見ない、貧しい家庭があった。

両親とも病気がちで、ニュースを見ることもできず、とても貧しい家庭だった。

ある時、そんな家庭に子供が生まれた。

この子供は生まれた時から、先天性の病と診断され、親はとても悲しんだ。

しかし、ある時、不思議なことに完治した。その報告を受け、親はとても喜んだ。

そして、完治の報告と同時に国にさらわれていった。

やはり親はとても悲しんだが、見舞金を受け取り喜び、また子供を産んだ。

この国は既にAI、機械化が進んでいて、まともな働き口は無かった。

病を持った親にはなおさら仕事が無かった。

自分たちが生きていくには、子供を産んで子供手当を受けとるしかなかった。


この国には臓器は海外に売るほどあったが、この家庭には臓器を買える程のお金は無かった。

海外では、連れ去られた子供の年齢の体が最も高額で売買されているということを、この親はまだ知らない。


――


この国では、健康だと過酷な労働を強いられるだけでなく、臓器移植のために連れ去られてしまう。

もう法に支配されていて、誰にもどうすることもできなくなっていた。


なんのことはない、税金が診断料に変わっただけだ。

そして、診断料が払えなければ、健康になって、臓器移植のために連れ去られるのだ。

診断料を稼げなければ足きりとなって、国の利益に変換されていくのだ。

どうやら、この国のお金の流通量が、この国の人口の上限を定めているようだ。

ただ、外貨は順調に増えている。

その外貨は子育て支援に使われていて、人口も少しずつ増加しているようだ。

多くの人が自分や子供を守るため、たくさん子供を産んで子供手当を受け取っている。

誰にも知られることなく、誰が意図したわけでもなく、国の臓器移植ビジネスが完成していた。


――


時は21XX年。

この国の国民は、病になるために日々必死に働いている。

ただ、病になれなくても心配することは無い。それが、この国のためになるのだから。


後味の悪い、不気味な作品となってしまいました。

こんな未来にはならないように…、と私は願います。

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