異世界へGO! 2
転移門から5m程離れると何か薄い膜のような物を潜った気がした。
目には見えなかったので良く分からなかったが、きっと今の膜のような物が結界だったのだろうと判断し振り返って確認すると、転移門も転移門の傍にあった大岩も見えなかった。
「転移門が消えちゃった…」
「多分隠蔽されているのでしょう。結界には魔物は入れないそうですし、結界を知らない者は幻惑により惑わされるようですから」
「そうなの?」
考えてみると結界に関して瑠紺さんから何も説明されていないと思う…。
もしかしたら瑠紺は話したのに葵がちゃんと聞いていなかっただけという事もあり得るが……。
「ええ、ですから今のところ結界は大丈夫そうですね」
結界が大丈夫だと雪永に説明され、葵はちょっとだけ疑問を抱く。
「結界が壊れていた場合はどうするんだろう?」
「その場合はすぐに会長に報告するように言われてます」
「報告だけでいいの?」
「その後の手段はその時にまた説明されるそうですよ」
「なら今は心配する事無いんだね」
「そうなります」
「じゃぁ心置きなくレベル上げができるね」
葵は雪永にニッコリと微笑んで見せた。
「レベル上げは宜しいですが暗くなる前には戻る事に致しましょう」
「分かってるわ、初日だからね。何事も経験よ、け・い・け・ん」
「御意!」
(キタコレ!! ≪御意≫だってーーー)
葵は人生初の生御意を聞いて少し興奮する。
まさか葵の人生の中で葵自身直接耳にする事があろうとは思ってもいなかったその言葉。
(何、雪永ってもしかして下僕属性ですか? いやぁ~さすがに直接聞くとちょっと女王様にでもなった気分で恥ずかしいぃーーー)
葵は顔を赤くし内心で半分以上他人事のように悶絶していた。
「お嬢様、敵でございます!」
葵はすっかり弛み切っていた気を引き締め雪永が視線を向けている方を見ると、黒い犬というより狼のような魔物(?)が威嚇するように唸り声を上げていた。
「ファイヤーアロー!」
葵は固唾を飲みすぐさま黒い狼に向け魔法を発動させる。
葵の杖から放たれた炎の槍が黒い狼のお尻にグサリと突き刺さる。
ギャイーーン!!
かなり痛がってはいるが絶命には至っていなかった。
葵が続けて魔法を発動させるより早く雪永が剣でその首を刎ね飛ばす。
「スゴイじゃない」
葵は一撃で黒い狼の首を切り落とした雪永の実力を素直に褒めた。
「剣の性能のお陰です。私などまだまだでございます」
そんな事を言われたら葵も瑠紺に貰った杖を使いながら、魔法で一撃できなかったのだからまだまだどころではない。
せめて弱点にきちんと命中させないとダメだろうと反省をする。
「それよりもお嬢様ご警戒ください。今の鳴き声で仲間が集まって来たようです」
「了解!!」
葵が辺りを警戒し確認すると、じりじりと威嚇しながら近寄ってくる黒い狼の姿が5匹ほどあった。
「お嬢様、危なくなったら結界内へとお逃げください。結界内なら安全です」
「雪永もね!」
葵は今度はウインドーカッターを発動させる。
ブーメラン型となった風の刃が葵の差し出した杖の先から黒い狼目掛けて飛んで行く。
さっきの雪永が首を刎ねていたのを見て真似するつもりだったが、黒い狼にいとも簡単に回避されてしまう。
(このままでは雪永があいつらに囲まれてしまう)
内心で焦った葵は土の中級魔法アースエリアランスを発動させる。
魔法で魔力がどの位消耗するか検証をしていない中で、中級魔法をいきなり使うのは少し不安があったが今はそんな事を言っている場合じゃない。
アースエリアランスの発動で5m四方の範囲の土から剣山のように土の槍が一斉に飛び出し黒い狼の身体を突き刺して行く。
今度はうまくいったと安心するが実際に倒せたのは2匹だけだった。
葵は続けてアースエリアランスを発動させる。
しかし今度倒せたのは一匹だけで、後の二匹には避けるように軽くジャンプされ躱されてしまう。
「お嬢様、危ない!!」
アースエリアランスを躱した黒い狼は迷いなく葵に飛び掛かって来たが、雪永が立ち竦む葵の腕を引き寄せその胸に抱き寄せるようにして庇ってくれる。
「……」
「お嬢様、後はお任せください」
雪永は静かにそう言うと、またまた葵に向かいジャンプしてきた黒い狼の首を横薙ぎの一撃で落とし、続けて来るもう一匹の黒い狼の腹にその剣を突き刺しあっという間に二匹を倒していた。
葵は雪永のその身体の動きと見事な剣捌きに暫し見惚れ、そして庇って貰ったお礼を言うのも忘れ思わず拍手をしてしまう。
「凄いわ凄いわ。やっぱり職業は剣士を選んだの?」
今さっきまで雪永が職業に何を選んだのか興味も無かったが、雪永の素晴らしい戦闘を見てとても知りたくなった。
「いえ、私は商人を選びました」
あまりに意外な返事に葵は一瞬ポカンと口を開けてしまう。
「どうして商人? それにとても商人の戦闘には見えなかったわよ」
「お嬢様がこの世界を旅するとなると一番の問題は現金の入手に関してでございましょう。お嬢様が魔術師を選ぶのでしたら私は戦闘のできる商人を目指す事にします」
迷いなくきっぱりはっきりと言う雪永に葵は何も言えなくなってしまう。
もともと一人ででもこの異世界を冒険する気だった葵からすると、相手に合わせて何かを考えるなど思いもしなかった。
雪永は間違いなく葵を第一に考えてくれている。
もっともそれは葵が瑠紺の娘という事になっているからで、そして雪永が瑠紺の秘書という立場からだろうが……。
それでも葵にとって間違いなくこの異世界で頼りにできるのは雪永だけなのだと思い知らされたのだった。