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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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そして5


葵は精力的に聖女の仕事を熟した。

この世界の穢れの殆どが集まっていると言っても過言ではない深層の森の浄化が済めば、聖女としての務めも殆ど終わったと言ってもいいらしい。


あとは各国の要望に応え穢れの酷い所に出向きながら途中大地の恵みを施して回るのだが、その移動は偽聖女に任せてあるので葵が拘束される事は全くなかった。


ルーベンの立てた予定で移動する偽聖女の乗る馬車に転移できるようにして、実際に浄化や大地の恵みを行使する時にだけベールを被り入れ替わる方法を取り、空いた時間の殆どは深層の森の浄化をして歩いた。

雪永も化学肥料の持ち込みは諦めたが、自分で学んだ農地改善や改良などの知識を広めて行った。


かなり強行的な日程を過ごしている偽聖女一行には申し訳なかったが、葵はお姉さんとの約束だけは果たさなければと懸命になっていた。

途中で投げ出し現実世界に逃げても多分逃がしてくれないだろう事は予測できたし、お姉さんといいもう一人の神様といいその恐ろしさは肌が感じ取っていた。

だとしたらさっさと聖女としての役目を果たし、今はその役目から解放される事を目指していた。


あとから聞いた話では葵の他にも聖女は何人かいるらしい。しかしその実力は期待されている程ではなく、お姉さんが執着しているのは葵だけなのだそうだ。

それでも穢れの浄化も大地の恵みも一応はできるらしいので、必ずしも葵でなければならない訳では無い。


だから他の聖女達ではできない深層の森の浄化さえ終わらせれば、お姉さんの葵への執着もなくなり聖女の辞退を申し出ても許されるだろうと考え急いでいた。


そうしていよいよその時が来た。

深層の森全体の浄化が済み、魔物の弱体化も済ませ、あらかたの強い魔物達も既に倒した。

これでこの世界の冒険者でもこの深層の森の魔物討伐が可能になっただろう。


「オリヴィア様に面会したいのですが」


葵は神殿へと足を運びお姉さんとの面会を申し入れると、簡単に奥へと通されお姉さんの部屋へと案内される。


「あらぁ、久しぶりねぇ~。もっと頻繁に顔を出してくれてもいいのよ」


葵はお姉さんのウエルカムな雰囲気を無視して報告を急ぐ。


「深層の森の浄化が終わりました」


「あらっ、随分と早かったのね」


「急ぎましたから」


「あらあらっ」


「これで聖女の勤めから解放してくれますよね」


「あらあらあらっ」


「やはり私はここで聖女を続けるのは無理です。父と母に会えなくなるのは心苦しいですが向こうの世界に帰って生活したいです」


「そうねぇ・・・」


葵は初めてここ異世界に足を踏み入れた時のことを思い出していた。

魔法のある世界にワクワクして魔法を使ってみたいとはしゃぎ、異世界を探検したいと強く望んでいた。

しかし実際に異世界で生活してみると葵が考えていたような世界では無く、現実世界以上に不便で不自由で思い通りに行かないことが多かった。


でも瑠紺に葵に合った能力とチャンスを貰え、お陰でお金だけは本当に考えてもいないほど手に入れる事ができた。

どちらの世界を選んでも、少々の贅沢をしたとしてもこのまま一生遊んで暮らせるだろう大金だ。


でも人生はお金だけではないとなんとなく分かったような気がする。

お金を持った今だからそんなことを言えるのかも知れないが、充実していると感じる心がないと何をしても空しいだけだった。


魔法を使えるようになって強い魔物を倒していた時は楽しかったのに、聖女の勤めとして魔法を使い始め義務のように魔物を倒すようになってからは全然楽しくなかった。

雪永が一緒に居てくれたから続けられたようなものだ。


「向こうの世界でもっと自分を磨く努力というかもっと色々と勉強して、誰かに強制されるのでは無く自分で納得のいく人生を送りたいです」


「あなたほどの器を持つ人間がまた現れるか分からないのよねぇ。本当に残念だわ。でもあなた一つ大事なことを忘れているわよ」


「何ですか?」


「私もアズールもあなたの記憶をたぶん消せないわ。だからあなたにはここでの記憶もこれまでの記憶も全部忘れることが無いの。それってかなりの弊害になると思うのよ。向こうではうっかりにでも魔法は使えないんですからね。アズールもかなり神経を使うことになるわね」


この異世界に関わった記憶を抱えてこれから生きる事にどんな弊害があるのか葵には何も思いつかなかった。

ただの思い出になるだけだと思えば別に何の問題も無い。今までだってそうして生きてきた。


「大丈夫だと思います」


「でも彼の記憶は間違いなくすべて消されるのよ。あなた今では大分頼りにしているみたいだけれど、記憶を無くしあなたのことを忘れた彼に我慢できるのかしら?」


「えっ・・・」


葵は自分のことしか考えていなかったことに気づく。言われてみれば確かに雪永の記憶は間違いなく消されるだろう。


「できる限りあなたの記憶も消せるように私達もやってはみるけれど、あなたの魔力が膨大すぎて消せる気がしないのよね。多分アズールも同じだと思うわ。あなた本当にその状況に耐えられるのかしら?」


葵はここへ来て思ってもいなかった問題を提示され動揺していた。

お姉さんに指摘されたように葵は雪永をかなり信頼している。はっきり言ってあんなに探し求めていた本当の父や母より。そして今では本当の父のように思える瑠紺よりも。


「・・・・・・」


雪永が葵のことを忘れてしまう。そう考えるだけでなぜだかとても胸が痛んだ。


「お嬢様大丈夫でございます。私はお嬢様の幸せを心から願っております。その思いは記憶を消されてもきっと忘れはしません。この心が覚えていると誓わせてください。ですから不安になることなど何もありません。一からまた始めるだけです」


雪永は葵を安心させるように優しく微笑んだ。


「あら、まぁ」


雪永の言うことなら信じられる。葵は素直にそう思えた。


「この先の事など分かりません。でもこれからはもっとしっかりと自分とちゃんと向き合います。だから聖女の勤めから解放してください。お願いします」


葵は揺るがない決意を持ってお姉さんに頭を下げた。

そして葵を忘れてしまうだろう雪永に今度は葵が信頼して貰えるように頑張ろうと心に誓う。


「まぁいいわ。後はアズールに判断を任せるわ。私もまたたまには向こうの世界へも遊びに行くわ。その時はよろしくね♡」


案外あっさりと許されたことに葵はちょっと拍子抜けするが、これから瑠紺とも話し合わなければならないのだと気持ちを引き締める。


でもきっと瑠紺なら許してくれるだろうと葵は確信めいた事を思っていた。なぜなら今まで瑠紺は葵の事を最優先に考えてくれていたのを知っているから。


「きっと大丈夫」


葵は自分に言い聞かせるように呟くと雪永と現実世界へと戻るのだった。



ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

葵がこのまま異世界と決別できるのか、現実世界でこの先どう暮らしていくのか想像にお任せします。

人生は長いのでどんな結末になるのかは作者にも予測不能って感じです。本当にすみません。

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聖女頼みなのに男尊女卑の異世界と現実世界。雪永と現実世界で幸せになれる未来を想像しながら
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