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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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そして4


「多少そちらの世界の知識を持ち込むのは見逃すがソレはダメだ。私としては絶対に許せない」


「どうしてですか?」


葵は引き受けてしまった聖女としての役目に手を抜く気はないが、雪永が学んだ農地の改革法や手っ取り早い化学肥料の使用は農業の発達のために許されるだろうと考えていた。

知識や肥料が広まれば大地の恵みを施して回らなくても改善されていくので、きっとこちらの世界の人達は喜んでくれると思っていた。


「文明が発達すると人類を滅ぼすことになる。魔法もそうだ。少々便利な程度に納めておかないと人間は際限がなくなり悲惨な未来を招くことになる」


葵は確信めいて話をする目の前の神様の話を信じることはできなかった。


「私の世界はかなり文明が発達して便利になってますが人類は滅んでいませんよ」


「フン、絶滅に向かって転がり出している事に気づいていないだけだ。いや、薄々気づいているのだろうが、自由だ権利だと自分に都合の良いものを手放せずにいるのだろうな。目の前のものしか見ようともしない。もしくはもう既に自分で考える事を放棄したのか」


「何を言っているのか全然分かりません」


「お前が認めずとももう既にそちらの世界の未来は見えている。アズールも結末を確認するまで戻る気はないようで困ったものだ」


アズールって確かお姉さんは瑠紺さんのこちらでの名前だと言っていた。

瑠紺さんがいったい何の結末を確認しようとしているのか葵にはまったく見当も付かない。

第一葵を娘だと言って大事にしてくれているのに、まだ何か隠し事をしていると言うのだろうか?


「いったいあなたには何が見えていると言うのですか?」


「逆に聞くがお前には何故見えていない? 人類は文明を手にし繁殖することを止めたのだぞ。それはすなわち絶滅に向かっていると何故気づかない」


「繁殖って」


そりゃぁ人口の減少は問題視され少子化対策がどうのとニュースになっているのは葵でも聞いたことがあるが、それは年金や税金とか経済の話で繁殖という言葉にはピンとこない。


「人類はより強い遺伝子より優秀な遺伝子を残そうと努めていた筈だ。それがどうだいざ優秀な者の誕生により文明を発達させると途端に繁殖意欲を無くす。そして種の数が減れば絶滅など簡単だ。新たなウイルスによる病気に天災に争い。原因がどうだろうと滅ぶのは本当に簡単だぞ。お前の世界で過去に滅んだ文明はけして天変地異が理由ではないだろう。多分種の減少がもたらした結果だ」


確かに葵も過去に滅んだ文明の話はいくつか聞いたことがある。でもそれは殆ど都市伝説みたいなもので、実際にどのくらい文明が発達していたかなんて知らないし、何故滅んだのかも知らない。

だからこの神様がさもそれが絶対だという言い方をしても、そう簡単に信じられる訳がなかった。


「何故そう言い切れるんですか」


「女は子を産み家庭を守り男は外に出て働く。これにはちゃんとした理由があるんだ。人口が増えすぎたら戦争を起こし人口を調整する。多少男の数が減ろうが女が健在であれば種は保存できていた。そうして世界の均衡は保たれていたのだ。それがどうだ文明が発達したら女にも自由と権利をと種の保存と繁栄の意識など無くしてしまった」


葵は結局男尊女卑の話かと溜息を吐く。


「繁栄の神様であるあなたまでそんな事を言うのですね。それじゃぁ女には自由も権利も無いと言うのですか?」


「自由とは何だ? 権利とは何の権利だ? 本当の意味を理解できないヤツほど声を大にする。お前とこれ以上話しても無駄なのは良く分かった。とにかくソレをどうしても持ち込むというのなら私はお前を排除せねばならない」


神様の殺気が膨れ上がっていくのを感じ、葵はこの世界へ来て初めて本当の恐怖を覚えていた。


「お待ちください! 私が浅はかでございました。向こうの世界の文明を安易に持ち込むことは絶対にいたしません。どうぞお許しください」


「分かれば良い。魔法を広めるのも構わないが、行き過ぎる魔法の行使も発展も我は望んでいないとしっかり心に留めておけ」


「承りました」


神様に頭を下げる雪永に葵は少し不満を感じていた。

そして神様がすうっと姿を消したのを確認して葵は口を開く。


「こっちの世界は神様まで男尊女卑の考えなんだものびっくりだよね。どうりでジェードのあの国があんな態度な訳よね。なんだか私こっちの世界で聖女を続ける自信無くなったよ」


「お嬢様がそうお考えならオリヴィア様との約束を早めに果たし、こちらの世界に干渉するのをお止めになってはいかがですか」


「それもそうね。でも・・・」


そうなると折角再会できた本当の父と母とも二度と会えなくなってしまう。

向こうの世界でもう既に一生遊んで暮らせるだけの資金は確保できているけれど、こちらの世界と完全に縁を切るだけの覚悟はまだ葵には無かった。


「すぐにお決めになることも無いでしょう」


雪永はそう言ってくれるが、葵はやはり早いところ聖女の勤めを終わらせるに限ると思うのだった。



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