そして1
馬車は街中から外れ神殿のような大きな建物の門を潜り入り口前で止まるとそこで降ろされた。
そして広い神殿の中をルーベンの案内で歩きながら、葵はその内装の美しさに目を奪われていた。
ドアも壁も窓もシックな雰囲気なのに、一目でお高いだろうと窺わせる床石にひかれた絨毯に壁や天井に設置された照明器具。どれもこれも葵の目を引き、興味を引いた。
「お嬢様、足下にお気を付けください」
雪永はキョロキョロする葵をそれとなく注意してくれた。
(うん、どう考えてもお上りさん丸出しだね・・・)
葵は反省するとともに少し恥ずかしくなり、そこからは言われた通り足下に注意し俯き加減に静々と歩き出す。
そして一際豪奢な扉の前に到着するとルーベンが部屋の中へと声をかける。
「オリヴィア様、お連れしました」
「入りなさい」
葵は少しだけ緊張しながらルーベンの後に続き部屋へと入った。
「フフッ、やっと会えたわね」
葵は何故か聞き覚えのある声に顔を上げると、何と驚いた事にそこに居たのはあのいつかの占いのお姉さんだった。
着ている服はやたらとヒラヒラしたこの世界風の服で髪の色もちょっと違う感じがするが、年齢も性別も不詳な雰囲気といい間違いなくカウンターに肘をつき楽しそうにしていたお姉さんだ。
でも世の中に似た人が三人居るというし、この世界に似た人が居る可能性も否定できない。
葵は考えれば考える程に混乱して行く。
しかしあの時は葵に西に行けなんて適当なことを言ったけど、そのお陰で瑠紺と出会う事ができた。
あの後お礼を言おうと何度行ってもあのバーの扉は開く事はなく、ツケを払うこともできずにいたのに、目の前の人があの時のお姉さんならまさかこんな所で会うとは思ってもいなかった。
元々この世界の人なのだろうか? この人は瑠紺とは違いあっちとこっちの世界を自由に行き来できるという事だろうか? それとも本当にただのそっくりさんなのだろうか?
葵は答えを見つけられずただただポカンと口を開けてお姉さんの顔を見詰めていた。
「お嬢様、どういたしました?」
葵の挙動を不審に思ったのか雪永が小声で尋ねてくる。
「あぁ、えっと・・・」
葵は何をどう言っていいのか言葉に詰まった。
「ルーベン、もう下がっていいわ。私達だけで話がしたいのぉ」
お姉さんがルーベンを追い払うように手を振ると、ルーベンは言葉もなく頭を下げ退出して行った。
「お久しぶりって言った方がいいのかしらぁ、こうして会えるのを楽しみにしていたのよ」
「やっぱりあの時のお姉さんなんですか?!」
「そうよぉ、もしかして疑ってたのかしらぁ」
「だってこっちで再会するなんて思ってもないですか」
葵は目の前のお姉さんがあの時の占い師だと確認できて少しホッとしていたが、成り行きを見守っていた雪永は不振を抱いたようだった。
「お嬢様、もしかしてこの方を向こうでもご存じなのですか?」
「ええ。雪永にも一度付き合って貰ったでしょう。あの閉まってたバーのお姉さんがこの人なの」
「ああ、なるほど。だとしたらお嬢様はその時からこの方に目を付けられていたという事になりますね」
「えっ?!」
葵は思ってもいなかった事を雪永に言われ驚いた。
でもあの店に行ったのは偶然で、もしお世話になっていた食堂が火事に遭わなかったら、もしあのお高いカフェに寄らずにネカフェに直行していたらあのバーに引き寄せられる事もなかったと、一つ一つの事実を確認していく。
「目を付けてたって言い方は違うわね。私はこの子をずっと探していたのよ。これでも結構苦労しているのよ」
「探してたってどうして?」
葵はお姉さんの言葉にさらに混乱していく。こっちの世界に来るようになったのは瑠紺と出会ったからで、その前に出会っているこのお姉さんに探される理由がまったく分からない。
第一あのバーにあの後何度行っても扉が開く事はなかった。
探してたというのなら何故あのバーで待っていなかったのか、葵は雪永同様にお姉さんにだんだんと不信感を持ち始めていた。
「それを説明するためにここへ呼んだのよ。話が長くなるからお茶でもしましょう。美味しいお茶を用意してあるの。いいわよね♡」
嫌な感じを与えない強引さはあの時のお姉さんのままだった。
葵は豪華な椅子から立ったお姉さんに案内され、この謁見の間風の部屋に続く小さな扉を潜った。
そこはまたまた豪華な雰囲気の執務室というより応接室といった感じの部屋だった。
窓際には執務机は置いてはあるが、それよりも部屋の中央にあるセンターテーブルもソファーも床にひかれた絨毯もすべてがこの部屋の豪華さを際立てている。
葵と雪永は「まぁ座って頂戴」と言うお姉さんの指示に従いソファーに座ると、お茶を淹れだしたお姉さんの着席を待つのだった。




