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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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聖女騒動2


葵と雪永はやたらと豪奢な箱馬車に乗せられた。シンデレラのカボチャの馬車よりも大きくて目を引くその馬車に葵はこれこそファンタジーだと心を躍らせた。


だって白馬よ! イケメンのやたら豪華な服装の御者よ! 馬車を警護する馬に乗った騎士様よ!

以前テレビで見たどこかの王室の結婚パレードより豪華な馬車なのよ。どこのお姫様だよって待遇はそうは経験できないよね。


ジェードのお屋敷の馬車もそこそこ豪華だったけれどここまでではなかった。

ただ雪永はともかく賢者風の老人と一緒というのがムードぶち壊しなのがとっても残念としか言いようがない。


「取り敢えず今日はここから一番近い街に寄ることになります」


雪永の前に座る賢者風の老人が葵に説明するように話す。ちなみに雪永は葵の隣に座っている。


「ええ、では私達はそこで一時別行動とさせてもらいます。合流するのは明後日の朝になります」


「お約束ですからな、それで警護を付けさせていただいても?」


「必要はありません。寧ろあまり詮索されるのなら私達は別の方法で移動させていただきます」


雪永と賢者風老人が隣でバシバシと視線を戦わせている状況に、折角の貴重な体験に妄想に耽ろうとしていた気分が台無しだと葵は溜息を吐く。


「はぁ・・・」


葵のこれ見よがしの溜息に気づいた二人は気まずそうに視線を逸らしあったようだった。


「ところで聖女様」


「葵よ。ア・オ・イ! 聖女じゃないので聖女様と呼ぶのは止めて」


賢者風の老人が何か言おうとしたが葵はそれを遮り自己紹介をした。


「これは私としたことが自己紹介を忘れていましたな。申し訳ございません。私はルーベンと申します。以後お見知りおきを」


「私は雪永ともうします。葵お嬢様のお伴をしております」


「お嬢様と言われるとどこかの国の貴族様でしょうか?」


「違います!」


葵はこの異世界に来て貴族には良い感情を抱いていなかった思いがあり強く否定する。


「お嬢様のお父上はかなり大きな商会の主です。私達は勉学を兼ね世界を旅しているのです。詮索はこの程度に留めおきください」


「仕方ない・・・」


ルーベンは顔を顰め不承不承ながら受け止めたようだった。

それからは馬車の中で会話がなされる事はなく夕方まだ早い時間に目的の街に着いた。


「それでは私達はここで。明後日の朝には戻ります」


すっかり注目され目立ってしまっていた葵と雪永は馬車から降りると街の外へ足早に移動した。

追ってくる気配がない事を確認してから速度を緩め人気の無い場所を探す。


「街の探索は今日は無理そうですね」


豪奢な馬車の一行はすっかり注目されていて、多分街では既に噂になっているだろう。そんな場所をのんびり探索できる筈もない。


「そうね。今日は帰って明後日からの移動に備えましょうか」


いくら魔力の浸食が緩くなったとはいえ、葵はともかく雪永の魔力が抜けるのにはそれなりに時間がかかる。この異世界で最優先にしなくてはならないのは雪永の魔力浸食具合だ。


「それがよろしいです。それにある程度の事に対応できるように考える必要もありそうです。それとまずは会長にご報告いたしませんと」


「この国の事も聞いたら何か知っているかしら?」


葵と雪永は急ぎ現実へと戻り早瑠紺の姿を探す。そして魔の森を抜けた事、スイトール国へ着いて早々に起きた出来事を詳しく報告する。

最後まで黙って聞いていた瑠紺にはいつもの気軽さはなく、少し難しい顔をして口を開いた。


「実は聖女の存在は遙か昔からそう珍しい事でもないんだ。問題はその誕生は予言によって知られる事にある。それによって期待され保護しようとする者が権利を争い何としても見つけようとする。古くは国同士で戦争になった事もあるくらいだ」


「誰にも知られず隠して暮らす事もできないの?」


「どんな手を使っても探し出そうとするだろう。それもすべては聖女の浄化魔法のせいだ。葵も気づいているだろうが浄化魔法は魔物を弱体化させる。だがそれだけでなく弱った大地を清め豊穣の力を与える事もできるあの世界にとってかなり有益な魔法なんだ。国としてはどうしたって手に入れたい魔法だろう?」


「それはそうですが・・・」


葵は聖女の力を持っているとは気づかれずに過ごそうと決めていたのに誤魔化すこともできないのかと不安になる。


「しかしお嬢様はこちらの世界の人間ですよ。それでも予言されたという事でしょうか?」


「それは私も不思議に思っていた事なんだ。私は職業に聖女など加えた覚えがないんだよ。だからもしかしたら葵には元々聖女の素質があったと言う事になるのだが、こちらの世界の人間に聖女の素質を持つ者がいるなどこの私でも思ってもいなかった事態だよ。でもはっきり言ってこちらの世界の人間を予言できるとは考えづらい。もしそれが可能だとするとその予言者は私よりも力を持った者という事になるな」


「では予言の聖女はやはりお嬢様ではないと考えて大丈夫でしょうか」


「まあ絶対とは言い切れないが、もう少し様子を見てはどうかな」


「やっぱりそうするしかないですよね」


「何だったら聖女として権力の頂点に上り詰め、あの世界を変えていくのも私としては面白いと思うが、そうなると葵とそう簡単に会えなくなってしまうのが寂しいしなぁ」


瑠紺が最後にはおどけるように聖女の話を締めくくったが、葵としてはこの聖女騒動が何事もなく収束してくれるのを願い、できることなら予言された本物の聖女様が見つかってくれないかと祈るのだった。



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