決別3
異世界での魔力の浸食速度は遅くなった雪永だったが、現実世界で魔力を抜くのにはやはり時間がかかった。
なのでこれからは絶えず異世界でも一緒に活動できると思っていた葵も雪永も、ちょっとだけガッカリした。
「雪永の魔力が抜けるまで私もこっちでゆっくりするか向こうで錬成して過ごすよ」
「あの魔の森だけはお一人での行動は絶対に避けてくださいね」
山脈を越えた先にあった魔力がとても濃い森を、雪永は魔の森と呼び始めていた。
「分かってるって」
雪永が心配するのが当然なのは葵でも理解している。何しろあの森に入ってすぐに子供ではない成獣のドラゴンを見かけたのだ。
葵が倒したドラゴンの比ではない大きさで、見るからに強そうなドラゴンだった。
きっとあのワイバーンの巣に居たドラゴンはここから巣立ったのだろう。
多分あのドラゴンと同じ方法で倒せるとは思ったが、そう離れていない場所に別の強そうな気配を感じ、自分から無駄に挑むこともないかと見送った。
その他にもとても大きなベヒモスや体長3メートルはあろうかというオーガなど、明らかに強そうな魔物がゴロゴロ居た。
それに食虫植物のような植物魔物も普通では考えられないサイズで生息していて、密集していないとはいえ一人であの森を歩く危険は十分に感じていた。
いつでも転移で逃げられるとはいえ、いつどんな事が起こるか分からない。以前魔力枯渇で倒れた時の恐怖は、まだ葵の記憶にしっかりと刻まれている。
あの時はジェードに助けて貰えたが、あの魔の森でそんな奇跡が起こるとは思えない。しっかりと用心した方が安全で安心だ。
「それでは私はこちらでの仕事を進めて参ります」
「えっ、休みなよ」
「お嬢様がお休みにならないのに、私も休む訳に参りません。それに仕事も溜まっております」
「何そのブラック意識」
葵は以前から雪永にそんなところがあるのは感じていたが、それではいけないと今はっきりと理解した。雪永の意識改革が必要だと。
「最近は週休を三日どころか四日に増やし副業オッケーなんて企業があるっていうのに、働き方改革だよ。十分な休みは必要だよ」
「働き方は自由だと理解しています。私は自分で働き方を自由に選択してますからお嬢様の心配には及びません」
キリッとした態度できっぱり言い切る雪永に葵は心配になる。
「まさか仕事が趣味だとか生きがいだとか言わないよね?」
「そうは言いませんがやり甲斐は感じています。それはお嬢様も同じですよね」
「私の場合は殆ど自由行動だし、仕事は結界の確認だけだから・・・」
今から異世界へ行ってポーションの錬成に挑もうかと考えていた葵は、雪永の威圧にしどろもどろになる。
「同じでございますよね」
雪永にさらに詰め寄られ葵は思わず頷いていた。
「じゃぁ今日は私も休むから雪永もゆっくり休んで。これからは私が休む日は雪永も休み。これで文句はないよね」
葵はとにかく雪永にゆっくり休んで欲しいと思っていた。だから引き下がれず強制的な言い方をしてしまう。
「仕方ありませんね・・・」
何その不承不承な返事はとは口には出さず、取り敢えず雪永が了承してくれた事を喜んでおいた。少なくともこれからは自分が休めば雪永も休むのだろうと。
「話が決まったのなら私からも提案があるのだがどうだろう?」
いつの間にか現れた瑠紺が葵と雪永に話しかけて来た。
「何でございましょう?」
葵よりも先に雪永が返事をする。
「ブドウエビが入ったと連絡があってね、折角だから食べに行こう。これがまた美味しいんだよ」
葵はエビは嫌いじゃない寧ろ大好きだ。海産物全般好きだが、魚より貝やエビやカニイカの方が好きだった。
それも聞いたことのないエビで美味しいと言われれば尚更に是非にも食べてみたい。
「是非、是非連れてってください!」
「では私もご一緒いたします」
そう返事はしたが葵は肝心なことを忘れていた。瑠紺が食べに行くのはけして近場の食堂ではない事を。
自家用ヘリに乗せられ、北海道まで行き。超お高そうな料亭に着いた時には葵は疲れ果て緊張で体はガチガチだった。
しかしそこで出された料理はブドウエビだけでなくすべてが美味しくて、休んだと言うより良い気分転換になったのは確かだった。
「ごちそうさまでした」
「喜んで貰えて良かったよ。これからも仲良く頼むよ」
瑠紺は葵と雪永が喧嘩でもしていたと勘違いしたのかとハッとする。自分がそんな勘違いをさせるようなトゲトゲとした態度だったのだろうと。
「お気遣いありがとうございます。気をつけます」
葵が考えていて今口にしようとした言葉を雪永の方が早く口にした。
それでも葵はきっと自分の方が態度が悪かっただろうと思うと口にせずには居られなかった。
「これからは自分の態度にも気をつけます」
それは葵が初めて気づき考えた結果からの言葉だった。自分の態度も自分が発する言葉にもきっと何かしらの影響を及ぼし責任が伴うのだと。
だからこれからはきちんと考えて行動し言葉を紡いでいこうと思うのだった。




