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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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決別2


魔力の濃さを肌で感じていた葵は、樹海に侵入する前に雪永の左手の紋章を確認する。すると思った通りすでにうっすらとではなく色づいていた。


「もう少し大丈夫ですよ」


「これ以上はダメだよ」


「しかしお嬢様をこのような危険と思われる場所にお一人にする訳には参りません」


正直葵もここで引き返すのはとっても惜しい気もする。かといって魔力の濃さから考えてどんな強敵が現れるか分からない中一人で進むのは躊躇われる。


「時間をかけて進むしかないわね・・・」


葵は妥協案として、急がずゆっくり雪永に付き合って貰おうと考えた。雪永の紋章を確認しながら進んでは戻り、しっかり休んでまた戻ってくるを繰り返そうと。


「それでは本当に何日かかるか分かりませんね」


「別にいいわよ。急いでる訳じゃないし。それに雪永が一緒じゃない時は錬金でもして過ごすわ」


樹海を抜けられるのにどのくらいの日数がかかるか分からないにしても、別にどうしても急いで抜けなくてはならない理由はない。

理由があるとしたら魔力属性判定機の普及くらいだが、今ここで急いだから成功するというものではないだろう。

それに引退した冒険者が残してくれたレシピ研究ノートにあった物を錬成したい思いも強い。


「それでしたらまたジェード殿に声をかけてみてはいかがですか」


「ジェードに関わると面倒な結果にしかなってないのよ。今までずっと。それにジェードの実力ではこの樹海は無理なんじゃないかな。後、隣国に不法侵入って事になるかもしれないのに、領主の息子として立場的にも難しいんじゃない?」


「ですが・・・」


「雪永を魔力浸食から守れれば問題ないのにね」


葵はそう口にしてふと頭に何かが引っかかった。それは穢れを持つ魔力の浄化と魔物を弱らせ侵入を防ぐ結界。そう村や街を守る為に聖女だけが使える特別な力。

葵は雪永に直にその結界を張ることができれば、雪永を魔力浸食から守れるのじゃないかと考えた。


「ねえ雪永。ちょっと試したいことがあるの。いい?」


葵は聖女が使う特別な結界だ。雪永に直にかけたとして、望む効果が得られなくてもけして悪い結果にはならないだろうと判断する。


「ええ、かまいませんよ」


「信じてくれてありがとう。じゃぁ頑張ってみる」


これはけして雪永の為じゃない。自分が異世界を探検する為に望むことだ。もしかしてこれで結界が成功したら、きっと雪永はこの先も一緒に探検すると言ってくれるだろう。

それは葵の望む事だ。お一人様が平気だったはずの葵の心が、一人は心細いと雪永を求め始めていた。


葵は職業に聖女を付け替え祈るように雪永に結界をかける。


(どうか考え通り成功しますように)


すると葵の目の前に現れたうっすらとした光が雪永の体を優しく包むように広がっていく。そしてすっかり体中に広がったところでもう一度今度は強く光った後そのまま光は消え何も見えなくなった。


「成功した、のかな?」


「別段体に異変はありません」


「問題は魔力の浸食よ。このまま雪永の紋章の色づき具合を見る必要があるわね」


「ああ、そういう事ですか」


葵の説明不足で雪永は自分の体に何が起こったのか理解できていなかったが、推測から正解を導き出したようだった。


「聖女の力を使ってみたの。これが成功だったら雪永ももう少し長くこの世界を探検できるわよ」


「それは良かった。これからは不安を抱えたままお嬢様を送り出さずに済みます」


「心配してくれていたって事?」


「勿論です」


葵はとても嬉しくなった。

いや、勿論雪永に心配をかけて喜んでいる訳じゃなく、心配してくれる人が居るとちゃんと実感できたことが嬉しかったのだ。


今まではきっと誰のどんな感情もどこかで関係ないと撥ね付け、多分あまり認めようとしていなかったと思う。

そう、まるで悲劇のヒロインにでもなったつもりでいたのかもかもしれないと気づいたのだ。


考えてみたら養父母だってちゃんと葵を思ってくれていた。それは瑠紺だって、多分ジェードも。

ただ葵がそれをちゃんと認めず関係ないと深く考えようとしていなかっただけなのだ。

誰かを認めることも愛することもしない葵に、誰かに認められ愛されることを望むなんて間違いなのだと、今はっきりと気づいた。


「ありがとう雪永。そしてこれからもよろしくね」


葵は改めてここから始めようと雪永に心を込めて挨拶をした。

そしてしばらく様子を見ていたが、明らかに雪永の紋章の色づきはゆっくりになっていた。

食事を済ませのんびりと辺りの植生などを観察していたが、雪永の紋章はまったく色を濃くする事はなかった。


「これで私もお嬢様とこの異世界でもご一緒できます」


そう言って喜ぶ雪永の笑顔を眩しいと感じる葵なのだった。



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