魔道具開発8
「この魔力属性判定器を普及させるのは任せていいのよね?」
葵は改めて水晶型の測定器に魔力属性判定機と名付け、魔法院の院長を務めているブラウンにその普及を任せようと思っていた。
魔力属性判定器を普及させ一人でも多くの人に魔力の属性判定をして貰い、魔法の普及に努める事を目指しているとはいえ、そのすべてを葵一人でできる事ではない。
それに葵が約束したのはこの魔力属性判定器の開発と資金援助だけなのだから。
「そうですね。その前にこれをいくらで売るのが妥当か話し合いませんと」
「えっ、売るの?」
葵はまさか魔力属性判定器を商品にするとは考えてもいなかった。
できるならこの世界の人達全員に気軽に魔力測定と属性判別をして貰いたいと思っているので、この魔力属性判定器でお金儲けをする気はまったくなかった。
寧ろこの魔法院はここから先、この魔力属性判定器で才能を見いだせた人達を育てる施設になって欲しいと考えていた。
「それだけの価値のある物なのですから当然です。それにこの魔法院の維持の為にもそうすべきかと」
魔法院の維持と言われると葵も少し怯んだが、考えてみたらその為に1億リット寄付しているし、これからも資金援助するつもりでいたので関係ないだろうと思い直す。
「でもこの魔力属性判定器を売ったら使用者からお金を取る事になるんじゃないの?」
この魔法院で賢者認定して貰う時にやたら高いお金を取られたように、この魔力属性判定器を買った人達は使用料を当然のように取るだろう。
そうなったらやはり一般平民がそう気軽に魔力測定をしなくなり折角の目的も果たせなくなる。
「当然ではないですか」
「いやいやいや、目的を思い出してよ。ハヤトさんは魔法の普及と発展を望んでこの魔法院を立ち上げたんだよね。そんな調子じゃ魔法はいつまで経っても金持ちの道楽よ」
「金持ちの道楽ですと!」
ブラウンは葵の言い方に腹を立てたようだったが、葵は間違った事を言ったつもりもなく訂正する気もなかった。
「私何か間違った事を言った? じゃあ聞くけど、道楽でなくこの国に魔法を使える人がいったいどのくらいいるのよ? 第一この魔力属性判定機は私が作った物よ。売るかどうか決める権利が私にはあるわ」
「いいえ、発案はハヤト様です。あなたはそれを利用しただけの事。あなたに何かを決める権利など何もありません」
「この魔法院に寄付もしたわ」
「そうそう寄付をしていただきましたな。ありがとうございます。それよりあなたは私たちにあなたの存在を秘密にするよう強要しているのをお忘れですかな? 私たちは本来なら国に背くような事はしたくないのですよ。どちらの立場が強いか少しはご理解いただけますかな?」
葵はブラウンの勝ち誇ったような言い方に、怒りで目の前が赤く染まっていくようだった。
確かにブラウンの言う事はもっともだ。葵は好きでこの魔法院に寄付したのだし、聖女として報告されるのを防ぐ口実に魔力属性判定機の開発を申し出た。
しかしそこには葵もブラウンもハヤトの思いを継ぎたいという共通の思いがあるからだった。
まさかそれがここでこんな言い合いになるとは考えてもいなかった。
葵は怒り抑え至極冷静にブラウンに対しはっきりと言う。
「分かったわ。国に私のことを報告したいならしなさいよ。私はこの国に縛られなくちゃならない理由なんて何もないの。それに肝心な事を忘れているようだけど、この魔力属性判定機は今のところ私にしか作れないのよ。私、ハヤトさん同様他の国へ行って魔法の普及を目指すわ。私の考えにちゃんと賛同してくれる人を見つけてね。では短い間でしたけどお世話になりました」
葵は一応部屋を借りた一宿一飯のお礼を皮肉のようにして言うとそのまま転移した。
ブラウンが何かを言っていたようだったが、葵にはもう何の関係もないことだ。
それよりもブラウンも葵のことを女と侮って軽くみてのあの態度と言葉なのだろうと思うと本当に悔しくて仕方なかった。
ならば尚更もっと認めて貰う努力をしろと言う人もいるのだろうが、誰に何を認めて貰う必要があるのか葵には理解できなかった。
付き合いたくない人とは付き合わない。せめて自分に正直に生きようと、この異世界に来てから思い始めていた。
自分の大事な時間をブラウンごときに一秒たりとも使いたくない。そう思うことで葵はさっきまでの怒りも悔しさも吹き飛ばそうと努めた。
「美味しい物でも食べて仕切り直しよ!」
葵はあえて大声を出し気分転換に努め、現実世界へと戻るのだった。




