答えを求めて9
「この魔法院をお創りになられたハヤト様はあなたのお父様なのですよ」
葵は一瞬目の前の男が何を言っているのか理解に苦しんだ。
「何言ってんの?」
「覚えていらっしゃらないのですか!?」
「そんな覚えがあったら聞いてないわ!」
葵はあまりのバカバカしさに呆れはて、思わず素でツッコんでいた。
「取り乱しました。すみません…」
そう言って職員は部屋を変えお茶を飲みながら詳しい話を聞かせてくれた。
魔法の普及と発展を望みこの魔法院を立ち上げたハヤトと言う人は名前からして瑠紺が雇った日本人だろう。
その人はこの異世界で冒険者として活躍していたが、結婚し子供が生まれた事で引退しこの魔法院を創った。
初めは賛同してくれる人も多くスポンサーもいたので研究も捗っていたが、ある日自分の娘が光属性の魔法使いである事が判明して状況が変わる。
光属性を使える者は極めて稀な存在で、魔物を寄せ付けない結界を張れる事が直接権力に作用する事になるからだ。
娘を養女にと言い出す貴族が出現し、教会や王族は保護してやると言い出した。
しかしハヤトは娘の幸せと将来を思い『後は頼んだ』と言い残し一家で姿を消したそうだ。
その後国を挙げて行方を探すも見つからず、国を出たのだろうと結論付けられたらしい。
「ピアニーお嬢様ですよね? お戻りになられたのですよね!」
「だから違うって言ってるだろうが!」
「ですが光属性を使えるではありませんか!?」
「貴重な存在とは言え、そのピアニー様以外に絶対に使えないというものでもないのでしょう? 第一私はこの国の産まれじゃないですよ!」
国どころか違う世界から来ているとは言えず葵は強く否定する。
「……」
まだ何か言いたげな職員に葵はさらに言い募る。
「そんな騒ぎになったのにまた私を聖女だと担ぎ上げ騒ぎを起こそうというの? 私はこの国に貢献する気なんて無いんだからすぐに逃げるわよ。それよりも取引しない?」
葵はハヤトと言う人の話を聞く前から何となく考えていた事があった。
多分そのハヤトという人も葵同様ファンタージー好きで、きっと目指したのはあんな魔石での曖昧な鑑定方法ではなくもっと分かりやすい鑑定道具だ。
それが作られ普及すればこの世界にもっと魔法使いが増え魔法も発展して行くだろう。
折角魔法が使える世界なのに肝心の魔法が発展していないなど嘆かわしい。
今、葵にはハヤトの思いが手に取るように分かる気がした。
「取引ですか?」
「もっとちゃんとした鑑定道具作ってみる気は無い? 私に考えがあるの。それに必要な資金を提供をしても良いわよ?」
まだ葵の予感でしかないが、錬金釜ができあがれば錬金術で鑑定道具を作れる気がしていた。
「なんと!」
「ただし私の事を絶対に誰にも知られない事が条件よ。もし破られたら私は何も言わず姿を消すわ。それよりもハヤトさんが見たかった世界を一緒に見てみる気は無い?」
この世界の魔法の発展を願いここでお金を使えば瑠紺の課題も果たせる事になる。
葵にとっては職員の口止めと瑠紺の課題消化と言わば一石二鳥の成果を上げられる。
少しだけ卑怯なのはハヤトの思いを説得材料に使ったところだろうが、多分ハヤトは許してくれるだろう。
「本当にピアニー様ではないのですか?」
「しつこいわね。違うって言ってるでしょう」
葵はこの職員がいまだにピアニーに拘る理由に少し引っ掛かり追及する事にする。
「ねぇ、そのピアニー様が例えば教会や王族に保護されたとして本当に幸せになれたと思う?」
「当然です!」
自信あり気に言う男の考えに辟易する。
「フン、何言ってんの。きっと保護とは名ばかりの監禁生活よ。そして結界を張れと強要される毎日。言わば能力の搾取よ。好きな人と別れ自由の無い生活のどこに幸せがあると思うの?」
「しかし女性の身でありながら手厚く保護され敬われるのですよ、とても名誉な事ではないですか」
ここでも男尊女卑かよと葵は心からうんざりする。
「何それ。女だから何だというの。望んでもいない名誉なんて欲しくもないわ。逆に聞くけどもしあなたが王様に名誉を与えるから一生王城に籠り言われた事だけやっていろと言われて本当に嬉しい?」
「名が残ります」
「へぇ~。あなたはあなたの事を知らない人達にあなたの名前を覚えてもらう為なら自分の自由はいらないというのね。それで結局あなたには何が残るの?」
「えっ?」
「だから世間にあなたの名前が残ったとして、あなたには何が残るの? 一時の満足感? 一時的な達成感? あなたはそれで良いとしても私は絶対に嫌。そんな自己満足より、好きな人と美味しいものを食べる自由な時間の方が大事。そうして過ごした幸せな時間で満足したいわ。知ってる? 料理って美味しいと感じる気持ちが無いと美味しくないのよ。だから王城でどんな豪華な料理を出されようと美味しいと感じられるか疑問だわ」
これで説得できなければこの男に何を言っても無駄だろうと葵は覚悟を決める。
「……本当にハヤト様がお創りになりたかったものを創れるのですね?」
「予想図は見えているから大丈夫。努力はするわ」
多分良くある水晶型や石板型の鑑定道具。
そしてできれば鑑定結果を記録できるシステム。
「分かりました。私も任されたというのにいまだに成し遂げられていないのは心残りだったのです。これからはこの魔法院をあなたにお預けします」
決意を目に込め力強い眼差しで葵を見詰め返す。
「今まで通りで良いわよ。私は鑑定道具の開発と援助はできるけど、あくまでもあなた達の手助けをするだけよ」
別に責任者になりたい訳でもこの魔法院の権利が欲しい訳でもない、いわばパトロン的立ち位置で十分だと考えている。
いつまでこの仕事を続けこの異世界に居るかなんて先の事は何も分からないのだから。
しかし今は少なくともこの異世界で新たな一歩を踏み出せた気分だった。




