答えを求めて6
戦いに挑んだつもりだった食事会はあっさりとお開きになった。
初めはマナーに気を取られ緊張していた葵も、瑠紺や雪永に連れられ経験した時に覚えたマナーがどうにか通用したのですっかり気分が解れた。
そして次々と運ばれる料理の美味しさに感動している間に交わされる話は葵の頭にはそう多くは入って来ず、返事は大抵ジェードがしてくれていた。
別にがっついていたつもりはないが、やはり食べる事に集中したいと思うのは仕方のない事だろう。
だって異世界のフランス風フルコース料理だよ!
そう簡単にどこででも食べられると言うものじゃないんだからね!
気付けばいつの間にかジェードの妹ビアンコに『お姉様』と呼ばれていた事に驚いたくらいで、女同士の牽制やマウント合戦のような戦いはまったく無く、ジェードのお父さんは葵を女と見下す事も無く、ジェードが語る葵の武功話を信じ普通に驚きみんなで称賛してくれた。
それにジェードが訳あり冒険者に会えるように交渉してくれていたのでその点も問題無く、終わってみれば葵はただ美味しい料理を堪能しただけの食事会だった。
しかし貴重な体験ができたとはいえ、やっぱりドレスに着替えての食事は堅苦しくて毎日はごめんだ。
「魔法院へは明日訪ねる予定だが構わないだろう?」
部屋へと戻るまでもエスコートしてくれていたジェードが突然話しだす。
「へっ!」
葵は魔法院の事などすっかり忘れていたので思わず変な声が出た。
しかし訳あり冒険者と会えるにしても相手の予定を聞き面会できる日が決まるまでには時間も掛かるらしく、ジェードはその前に済ませてしまおうと魔法院の方を先に予定を申し入れたそうだ。
ジェードにしてみればお爺さんが派遣するドラゴン調査隊の事を本当に心配しているのだろうから仕方ない。
葵は諦めて了承したが、その代わりに気軽に転移に使える宿を探してくれるように頼んだ。
いつも侍女が控えるこの屋敷ではまったく気が抜けないので今のままでは本当に困る。
しかしジェードが言うには宿の方がもっと危険だと言う。
葵が転移できる事はこの部屋付きの侍女に説明するので王都滞在中はこの部屋を使えと説得された。
その為に仕事ができる侍女を選んでくれたそうだ。
そうまで言われると葵も断り切れず、結局夜の間は今までと同じ様に現実世界へ帰れるのならいいかと了承した。
しかし転移できるのを知ったとしてもそうそう何でも誤魔化しきれるものでもないだろう。
だとしたら秘密裏に部屋を留守にできるのはやはり夜の間だけで、それでは毎日出勤のOLと変わらず、早いところ王都での用件を片付けないとゆっくり休みも取れない。
夜の間だけでも現実世界に戻っていれば、今のところ紋章の色がそう濃くなることはないが、やはりもしもの事を考えると休みは欲しい。
葵は侍女が部屋から出て行くのを待って現実世界へと戻った。
「はい」
雪永の声が葵の疲れた心を癒し優しく包み込んでくれるようだ。
「ただいま帰りました」
すっかり習慣化したいつもの異世界からの帰還連絡だったが、考えてみると早朝だろうが深夜だろうが時間関係なくつき合わせているのだと今更ながら気が付いた。
雪永も葵からの連絡があるまで気が抜けずきっと大変だろう、もしかしたら心から自由になる時間は無いのではないかと心配になる。
そう思うと葵の王都での少しくらいの不自由を不満に思うのは贅沢な気がして来る。
「お疲れのようですが何かございましたか」
艶っぽい声が心にまで響いてくる。
葵は今日王都に着いた事、ジェードの家が物凄い豪邸だった事、ドレスを着せられ食事をした事、部屋にはいつも侍女が控え気が抜けない事、そして明日は魔法院で認めて貰わなければならず気が重い事などを愚痴のようにして話した。
「お嬢様ならきっと大丈夫です」
雪永は励ましてくれたつもりなのだろうが、葵は何だか適当に返事をされたような気がして思わず言い返す。
「何の根拠があって言ってるのよ」
「私はお嬢様の理解者だと自負しております。お嬢様がいつも頑張っておられるのもちゃんと見ております。その私が言うのですよ。何があっても大丈夫です。そんなにご不安なら明日は私もご一緒しますか?」
あまりにも自信あり気に話す雪永の声に少し荒だっていた心は落ち着きホワホワして来る。
それに何だか勇気も貰えた気がする。
「一人で大丈夫。ちょっと疲れて愚痴っちゃっただけだよ」
「さようでしたか、安心しました」
「ありがとう。じゃあおやすみ」
「おやすみなさいませ」
いつもより長話をしてしまったが、お陰ですっかり心は軽くなった。
そのお陰か葵はいつもよりぐっすりと眠る事ができたのだった。




