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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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32/80

自分の為に3


今から冒険に必要な物リストにある物を買いに行こうと誘ってくれた雪永の話を断りネットの通販サイトでスイーツを漁った。

ちょっとくらい贅沢しても今まで食べた事のない美味しいものを食べたいと思ったのだが、結局瑠紺が言いたかったのはこういう事なのだろうと気付き多少の自重はした。


しかし雪永との話し合いの結果銀行預金と連動させた普段使いにできるカードを新しく作る事になったし、異世界で得た金額の5%くらいまでなら無駄遣いとは言わないだろうと自分に言い訳をして結構ポチポチとしてしまった。


色んな意味での罪悪感を覚え一応反省はしたが後悔はまったくしていない。

今の葵は美味しいものを食べるのが一番の幸せなんだからこれは正義。

その結果少々太る事になったとしても他に必要な物が後回しになったとしてもそこには絶対に迷いはない。


という事で、スイーツが届くのを楽しみにしながら今日も異世界へと向かう事にする。左手の紋章の色はすっかり無くなり見えなくなっていた。


「はい」


本人を目の前にして話すのにはすっかり慣れたが、相変わらず電話での雪永の声はとっても緊張する。


「今から行ってきます」


「行ってらっしゃいませお嬢様。無事のお帰りをお待ちしています」


これからは異世界へ行く時と帰った時の電話連絡は必須となったのできっとそのうち慣れるのだろうが、耳元で響く声だけでドキドキしてしまい頭がまったく回らなくなるのは困りものだ。

そのまま電話を切ってしまったが、もう少し可愛げのある挨拶や気の利いた会話ぐらいできないのかと自分で自分が情けなくなる。


「ドラゴンがいくらになるか楽しみだ!」


落ち込みそうになる気分を無理やり振り払い深呼吸を大きく一つしてから転移門を潜る。

そしてジェードの屋敷へと転移し部屋から出ると多分使用人だろう人に「アオイ様」と声を掛けられた。


葵が異世界人だというのは隠しているが転移できる事はこの屋敷の人達には周知されていて、必要以上に接点を持たないようにお互い気遣っていた筈なので葵は少し驚いた。


「こんにちは」


葵にはまだ朝の時間だったが、活動が早いこの世界の人に通じるかは分からなかったので、挨拶はおはようではなくこんにちはにした。


「貴重なロック鳥の肉をあんなに沢山ありがとうございます」


ペコリと頭を下げる少女に葵はジェードが本当にみんなに肉を分けてくれたのだと知った。


「喜んでくれたなら良かったわ。これからもよろしくお願いします」


葵も敬意を持ってお辞儀を返した。

するとまるで葵の登場を待ち構えていたかのように次々と人が集まり、そして口々にお礼を言うので葵は少々むず痒くなる。

他人にこんなにお礼を言われる事など初めてだった。


「ジェード~」


思わず葵はジェードに助けを求め廊下を走りだしていた。


「ドラゴンの解体は終わっているのでしょう。早く行きましょう」


葵は早いところこの慣れない空間から逃げ出してしまいたくてジェードを急かした。


「アオイ本当に申し訳ない!!」


葵の姿を確認したジェードはすかさず土下座をする勢いで頭を下げた。


「何かあったの?」


ジェードの態度からきっとドラゴンの解体に関して何かあったのだろうと察して思わず聞いていた。


「実は……」


「何よ?」


「ドラゴンの解体に手間どった。そのせいもあって損傷も結構あり折角のドラゴン素材の価値を下げてしまった。これは私の責任だ。職員を責めないで欲しい」


「なぁんだ、そんな事か」


葵には想定内の事だったので何となくホッとした。


「そんな事って、ドラゴンだぞ! ドラゴンは捨てる所が無いと言われる程にその部位一つ一つに高値がつくんだ。分かってるのか?」


「分かってると思う。だってドラゴンの解体は初めてだったんでしょう。それなら失敗だって当然するよね。わざとじゃないなら別に構わないわよ。だいたいジェードが職員に経験を積ませたいというから倒したドラゴンじゃない。勉強になったなら目的は果たされたんでしょう。それに素材の代金が目的なら初めからスキルを使って自分で解体しているわ」


「だが…」


葵がこれ程言ってもジェードは納得のいかない顔をしていた。


「じゃあ何と言って欲しいの?」


「責任を取って私の分のドラゴンの収益は諦めろというのが妥当な線だろう」


「フフッ」


葵は思わず鼻で笑ってしまった。


「ジェードは私が倒した魔物のお金を余程受け取りたくないとみえるわね。じゃあジェードの取り分は町に寄付すると言えば納得できるのかしら? 初めて会った時はちゃっかりしていたように思ったけどあれはもしかして金額的にたいした事なかったから受け取れたって事?」


「そう言う事もあるかも知れない……。ブラックウルフなら自分でも倒せる魔物だしな。だがロック鳥やドラゴンとなると話は別だ。一人でなんて絶対に倒せない魔物で私が十人がかりでも当然難しい…」


葵はこれが男の人のプライドとかいうやつかと思っていた。

もしかしたら沽券にかかわるとかジェードも考えていたのかも知れないと思うと複雑な心境だった。


この先もこの異世界でジェードの力を借りようと考えていたし、できるのならこの町の為になるようにジェードの手助けもしたいと考えていたのに、こんな事で簡単に溝ができてしまうのだと思っていた。


そしてお互いが譲れない考えを持っていて歩み寄る事ができないのならもう既に相棒とは言えないし、これから先一緒に居るのも無理だろう。


「それじゃ私はこの先ジェードに手助けを頼めないわね。私はジェードの手助けができたと喜んでいたけれどただの一人よがりだったみたいだし、仕方ない、ここから先は私も一人で頑張るわ。今まで色々とありがとう」


葵はジェードに向けて深々とお辞儀をすると葵の部屋へと取って返した。

そして自分の荷物をアイテムボックスに手早く収納するとそのまま冒険者ギルドの裏に設置した転移紋を指定して転移する。


「昨日預けた魔物素材の査定は済んでいるかしら」


解体屋のカウンターで尋ねると職員が申し訳なさそうに身を縮め困り顔になる。


「ドラゴン素材はこの町に寄付するから昨日預けた魔物素材の分だけでいいわ」


葵は段々と腹立たしくなって来て職員にあたるような態度を取っていた。


「はい、ただいま!」


職員は慌てながらカウンターに硬貨を並べ「詳細を説明します」と言うが葵は「いいわ」と断りその硬貨をアイテムボックスに投げ入れるようにして収納した。


そして冒険者ギルドの裏手の人目に付かない場所からワイバーンの巣のあった場所へと転移した。

ドラゴンは居なかったがワイバーンが何匹か戻って来ていた。

葵はそのワイバーンに向けてアイスランスを撃ち込んで行く。


「ジェードの馬鹿! おたんこなす! 男のプライドってなによ!! 折角仲良くなれたと思っていたのにぃー!! お金が大事なのは私にも分かるわよ! だから受け取りづらいって気持ちも分かるけど話し合って決めたんだから納得してよ…。沽券にかかわるなんて考えるより私との相棒関係を優先してよ……」


腹立ち紛れにアイスランスを無駄に連射しそこに居たワイバーンを倒しきると、葵は身体の力が抜けその場に膝を着いた。

気持ちはだいぶ落ち着いたが今度は悔しさが込み上げ涙が滲んだ。


ジェードと少しは分かり合えたような気になっていた。

この異世界の為と言うよりあの町の事を考えるジェードの力になれていると思い込んでいた自分が恥ずかしくて悔しい。

葵自身は先人達のようにこの異世界で何かを成す気は無かったが、少しは手助けができているといい気になっていた自分が本当に情けない。


やはり誰かの考えに乗っかって何かをした気になるんじゃなく、自分でちゃんと考えてしっかりとした意思を持ち行動しなくてはいけないのだと改めて思う。

この異世界を楽しむためにもただ漠然と冒険をするというのではなく、何をしたいのか明確な目標を持とうと考えながらワイバーンをアイテムボックスに収納していった。



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