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動き始める運命3


「私は実はこの世界ではバンパイアと呼ばれる種族と同じ存在だと思って欲しい。昔は陰陽師なんて呼ばれていた事もあったけどね」


「はぁ?」


「信じられないよね。でも話は最後まで聞いてくれるかな。バンパイアとは言っても乙女の生き血なんて欲した事は無いよ。あれはこの世界の者達が勝手に作ったただの伝承だからね。しかし実際この世界の人間達より遙かに長い時間をこの世界に留まっているのは事実でね。それに実は私はもともとこの世界の者ではなくてね。私の居た世界とこの世界を繋げてしまった罰で私は追放され自分の世界には帰れずにいるんだよ。こちらで言うところの島流しみたいなものだね」


「はぁ…」


喉を潤す為かお茶を啜るイケオジに、葵は何を言っているんだろうと思いながら曖昧な相槌を打つ。


「この世界と向こうの世界を繋げてしまった当初は向こうの世界から魔物までやって来てしまってね。その魔物は当然私が退治して、向こうにもこちらにも結界を張ったんで今は大丈夫だよ。でもね、結界は永遠でも絶対でもないのでね。その結界のチェックをしてくれる人を探しているんだよ。何しろ私は向こうの世界には行けないからね。最悪こちらにも結界を張ってあるから魔物が来る事は無いけれど、転移門が誰かに見つかってしまうのはとても厄介でね。万が一厄介な奴に見つかりでもしたら私は永遠に向こうの世界に帰れなくなる」


再びお茶を啜るイケオジの妄想話はどこまで続くのかと葵は逆に興味が湧き、話が終わるまで黙って聞くことにして相槌の代わりに曖昧にただ頷いていた。


「まぁ私が向こうの世界に帰るのを諦めて転移門を消せば問題は無くなるのだが、私もまだまだ諦めがつかなくてね。どうだろうやってみる気は無いかな?」


「どうだろうって…」


妄想話はもっと続くものだと期待し始めたら突然終わってしまった事に少しがっかりする。


「大丈夫だとは思うが向こうの世界に行けるかどうかは君次第なので一度試させて貰っても良いだろうか」


「試すですか?」


「そう、転移門を潜るにはそれなりに魔力を持った人間でないと無理でね。君は見た所かなりの魔力を保有しているようだから大丈夫だとは思うが念のためだね」


「魔力ですか!?」


葵は突然のファンタージな話に思わず両目を思いっきり力強く見開き、前のめりになってしまった。


「そう魔力」


「って事は魔法が使えるんですか!?」


「習得すれば可能だね」


「この世界でですか?」


「この世界で大っぴらに使ったら騒ぎになるよね。止めはしないが慎重にした方が良いと思うよ」


(いやいや騙されない! 冷静になれ!!)


葵は信じそうになっていた自分を内心で殴りつけ頭を振った。

だいたい話が突飛すぎて驚き、葵のファンタジー好きの心を刺激され思わず信じてしまうところだったが、冷静に考えて異世界だとか魔法だとかある訳がない。


第一このイケオジは葵にこんな話をして何を企んでいるのだろうか。

貼り紙の内容につい飛びついてしまったが、話からして家政婦を必要としている風ではないのは確かだ。

だとしたらいったい何を……


「それでまあ注意事項を一つ言うと、こちらの魔力とあちらの魔力では明確な違いがあってね。私のような存在はこちらの世界の魔力に馴染む事は無いが、こちらの世界の人間はあちらの世界の魔力に馴染みやすいみたいでね。一度馴染んでしまうと身体も変化してしまいこちらの世界に戻れなくなるんだよ。実に不思議な話なんだが困ったものだよね。だからあちらの世界に滞在できる時間は長くて3日が限度だと考えて欲しい。その後こちらに戻って身体を休めればあちらの魔力は抜けリセットされまた行けるけれど、一度の転移で滞在できる時間は3日だという事を絶対に忘れないで欲しい。今まで雇った者の多くは向こうの世界を堪能し過ぎて時間を忘れたのか、それとも永住を望んだのか帰ってこない者も多くてね。こちらの世界に未練があるならこれだけは絶対に注意して欲しい」


「永住ですか…」


騙されないと思いながら聞いていてつい信じてしまいそうな自分が居た。

実際に異世界があるのだとしたらとっても興味がある。

そして魔法が使えるとなれば絶対に楽しいに決まっている。


葵はゲームでも小説でも絶対に魔法使い推しの賢者派だ!

一度ならず異世界に転移して賢者無双をする妄想に耽った事がるのは事実だ。

それが本当に自分で魔法が使えるのならとついつい夢を見てしまう。


特に親しくしている友人も恋人もいない葵は、そんな世界に永住も悪くないと少しだけ思ってしまう。

そう、本当のお母さんの事だけが心残りではあるが。


「何にしても転移門を潜れなければ話にはならないからね。案内するから付いて来て」


徐に立ち上がり歩き始めるイケオジの後を葵は慌てて追った。


(本当にあるの転移門が?)


葵は警戒心などすっかり無くし、興味津々で付いて行く。


「もし転移門を潜れなかった時は記憶を消させて貰うよ。大丈夫余計な事までは消さないから。異世界関連の話だけだから安心して欲しい」


納戸と思わしき部屋の扉を開け中に入ると、茶箱や大小の行李が積まれた奥にまたも扉があり、そこを開くと本当にあったよ転移門。

転移門というより青く淡い光を放ちながらグルグルと渦を巻いている不思議な場所。一応葵が立って入れそうな大きさではある。葵はそれを見て固唾を飲み呆然と立ち尽くしてしまった。


「さあ入ってみて。今回は入れるかどうか試すだけだからね。何の準備も無しに向こうの世界を楽しもうなどと考えないですぐに戻るんだよ」


実際に転移門を目の前にして、さっきまでの話を信じない訳にはいかない。

しかしだからといって≪さあ≫と言われ≪じゃぁ≫とすぐに足を踏み入れる程の覚悟はできていなかった。


「失敗する事は無いんですか?」


「失敗とは?」


「別のどこかへ飛ばされてしまうとか、転移できずに身体がバラバラになるとか、どこかに永遠に閉じ込められるとか」


「それなら大丈夫だよ。トンネルの入り口と出口を繋いだようなもので、どこかを通過するという訳ではないからね。それに転移門を潜れない者はそもそもこの渦に触れる事もできないのだよ。入るのが怖ければまず触れてみてはどうかな」


(触れるだけで良いなら先に言ってよ!)


内心で毒づきながら葵は少しだけ安心する。

今は既に仕事云々や寝るところ云々などどうでもよくなっていて、俄然異世界への興味が大きくなっているのは確かだ。

まぁ異世界が本当にあるのならばの話だが…。


だからもし、葵がこの転移門を潜れるのだとしたら、この仕事を受けても良いかなとは思い始めていた。


葵は恐る恐る転移門へと手を伸ばしその渦に指先が触れた瞬間、まるでその渦に身体が飲み込まれるように勢いよく引き摺られた。

そして一瞬の眩暈のような感覚の後気付けばそこはまったく見覚えのない別の場所だった。



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