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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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冒険開始8


「わぁ~、凄いご馳走ね」


囲炉裏の鍋には野菜やキノコなどの山菜と何かの肉が煮込まれていて、炉端では魚ではなく串に刺さった肉が焼かれていた。

他にもお膳には葵の見た事も無い料理が小鉢で沢山並び、それにご飯と漬物なども乗った二の膳まであって、まるでお正月のお節を思わせる品数のご馳走に思わず声が出た。


「今夜のアオイはお客様扱いでご馳走を用意してみた。普段はこんなには並ばないぞ」


「ありがとう。頑張っていただきます」


食べきれるか心配ではあったが、初めての異世界のご馳走に葵のテンションはMAXに近く上がっていた。


見た目は和食のようなのに食べてみると想像したものとは違っているのが面白かった。

お味噌も醤油も現代日本で食べている味とはちょっと違うのが原因だろう。

少なくとも異世界の料理は味がたんぱくと言う事は無いのには安心していた。


「この料理に使われている調味料は独特な感じがするね」


「そのどれもこの町の名産の一つだ。味噌に醤油にみりんや酢だけでなく酒も造っている。この町の大事な収入源の一つだな」


日本で使われていた調味料の殆どをこの町で作っているらしい。

やはりこの町が作られた原点が日本だからだろうと葵は一人で納得していた。


ジェードのこの町自慢の話はしばらく続いていたが、葵はご馳走を平らげるのに夢中であまりその内容は入っては来なかった。

完全にお腹をパンパンにさせてお膳に乗った料理を平らげた時は葵は≪勝った≫と内心で叫んでいた。

どれもこれも残すのには勿体ない程美味しくて大満足の初体験だった。


「アオイ、風呂に入るだろう? 町の銭湯とうちの風呂とどっちが良い?」


「何がどう違うの?」


「銭湯の風呂はとにかく広くて露天もある。それに比べたらうちの風呂は小さいな」


「今日はここのお風呂をよばれる事にする。お腹がいっぱい過ぎて今は動くのも面倒だわ」


「じゃあ用意させる。着替えはどうするんだ? 無いなら急いで準備させるぞ」


「大丈夫。一応持って来ているから」


囲炉裏端で炭の火が揺れるのを見ながら少しお腹を落ち着けている間にお風呂の準備ができたと呼ばれ、行ってみると時代劇で見たような木で造られたお風呂場と浴槽に葵は何気に感動していた。

桶や風呂椅子まですべて木造りで天井に近い場所に小窓があって、そこから星空が見えているのも良い感じだった。


「石鹸がある」


葵は一応アメニティグッズでボディーソープやシャンプーリンスも用意していたが石鹸が置いてあったのにはちょっと感動だった。

そもそも葵の知る異世界冒険でお風呂に入れるのは贅沢の極みの筈なのにこの世界はそうではないらしい。

ジェードは小さいと言っていたお風呂だが、浴室もけして狭くはなく浴槽も足を延ばして入っても余裕がある位には広かった。


お風呂にゆったりと浸かっていると外から釜に薪をくべる音がしていたので、魔法や魔道具を使った方法ではなく昔ながらの沸かし方なのだと葵はそこにも感動し、湯加減を考えながら沸かしてくれているだろう人に感謝した。


ジェードのお屋敷はまるで江戸時代にでもタイムスリップした気分になれると思っていたが、考えてみたら現代日本もつい半世紀前まではこんな生活だったのだ。

きっとこの世界もこれからどんどん変わってしまうのだろうかと思っていた。


たっぷりとお風呂時間を堪能した葵はジェードの許可を得て葵に与えられた部屋にあれこれと家具を置いた。

昨夜雪永が急ぎ用意してくれた物で、必要無いと言ったのだが「お嬢様に不便や不快は感じさせられません」と譲らなかったので、ベッドに布団とクローゼットと着替えに関しては妥協した。

アイテムボックスに普通に入ったので持ち込んでみたが、やはりさっきまでのタイムスリップ感が台無しだった。


「本当にこれが異世界冒険の正しい楽しみ方か?」


葵は一人呟きながらも布団に潜り込むとあっという間に寝付いていた。

そして気が付くとまだ薄っすらと夜が明け始めた時間で、夢も見ずに熟睡しこんなに早く目覚めるなど葵には数少ない経験だった。


しかし屋敷内は既に活動を始めている人が居るらしく、あちらこちらから微かに物音が聞こえていた。

異世界の活動時間は本当に早いのだと実感し、葵も急いで起き出すと冒険の為の服に着替えてから部屋を出た。

そして物音のする方へと歩き覗くとそこは台所で樽に水を汲む人と竈に火を熾す人が居て、やはりこの辺も魔法は使われてはいないのだとちょっとだけ残念だった。


「おはようございます。顔を洗いたいのですが何処でしたら良いでしょう?」


「おはようございます。外に井戸があります。ご案内しますか?」


「外ですね。大丈夫です」


そう言うところは不便なんだなと思いながら玄関から屋敷の裏手に廻ると台所の出入り口近くに井戸があった。


(サンダルも必要だな…)


いちいち玄関から出入りするのは不便だと葵は冒険に必要な物リストにサンダルを書き加えた。

しかし井戸はポンプ式の井戸だったので、水を汲むのに苦労する事が無かったのは幸いだった。

というより、葵は歯を磨きながらふと自分で水を出せるかもと思いつきやってみると桶を満たす以上の水を出せた。

魔法はこんなに便利なのに何故生活の中に浸透していないのかと葵は疑問を抱いた。


そしてその疑問はすぐに解消される。

みんながみんな魔力を豊富に持っていないからで、魔道具の開発もされていないからだとジェードが教えてくれた。

「魔道具ってなんだ?」と聞き返されたところを見るとまだ魔道具開発をした人は居ないようだ。


そもそもこの世界の人達は魔法を使えるかさえも知らない人が殆どで、冒険者でも目指さない限り魔法を必要とはしてないそうだ。

魔法を使うのには素質が必要で魔法について学ばなければならないのが普及されない問題らしい。


しかしこの世界には聖女様と呼ばれる存在があり、その人達は冒険をするしない関係なく魔法が使えるそうだ。

聖女様は大地を癒し潤し穢れを浄化をする事を生業とする存在で、どこの国でも重要視され大事にされるらしい。


「そんなに凄い聖女様になりたがる人が居るのね」


「いや、聖女様にはなりたくてもなれる訳じゃない。聖女様の誕生はお告げがあるので分かるらしい」


「お告げ?」


「星読みの一族と言われ、未来を見るのが得意な一族が度々予言をしている」


「へぇ~、凄いね。でも聖女様になったら大変そうだね」


「何でだ? 国王様にも大事にされる存在だぞ」


「だってまったく自由が無くなる感じじゃない。私はいつも縛られているみたいな生活はごめんだな。第一ジェードはその聖女様に会った事があるの?」


「聖女様はそうそう私達の前に姿を現したりはしないさ」


「そうでしょう。町の中も好きに歩けないなんて何だか可哀そう」


葵はまだ見ぬ聖女様に同情し、職業聖女を持つ自分はこの世界を自由に冒険させて貰うのだと思っていた。



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